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敵地潜入

 星空がとても美しい。観てるだけで、吸いこまれそうな気がするくらい。美山はそんな夜空の下、ダイビングスーツに身を包むと、海に潜って島に向かった。 

 海夢と釘谷も同じ姿で一緒に泳いだ。 浜辺にたどりついた3名は暗視スコープを顔に装着した。周囲は漆黒の暗闇で、島にある建物に、わずかの明かりが見える程度だ。

 聞こえるのは、浜辺に寄せる波の音だけである。どこかからひょっこり幽霊やゾンビが出てきても、おかしくないようなシチュエーションだ。

 潮の臭いが鼻をくすぐる。こんな状況じゃなかったら、むしろロマンティックな夜に思えたかもしれない。

美山は一緒に持ってきた強化プラスチック製のバッグからマシンガンを取りだした。濡れないよう中にしまっておいたのだ。

 足ビレを外し、軍用に作られた靴に履きかえる。いつでも撃てるよう機関銃を構えた。そして足音を立てぬよう、建物に近づいてゆく。

 彼らがどのくらい用心してるかわからないが、ここが周囲から隔絶した孤島なので、かなり油断してるのではあるまいか。

 希望的観測かもしれないが、美山はそれに賭けていた。

予想に反し厳重な警戒をしてるなら、さっと逃げるだけの話だ。

 充分な準備をしてから出直すという選択肢もあるが、その間に盗まれたものを島外に運ばれる可能性があるので、のんびり構えてられない。

 いきあたりばったりだが、他に方法が見つからなかった。そもそもこの島のどこに現ナマや王冠があるのかもわからないがしかたない。

「やっぱ、おれの出番だな」

 宣言したのは釘谷だ。

「このまま島をうろうろしてても、どこに現ナマや王冠があるのか見当もつかん。一発花火をぶちあげて敵さんをおびきだすしかねえ」

 釘谷の指示で3人は手わけして、島内の南側の地面や岩に爆弾をしかけた。そしてかれらは爆弾からじゅうぶん離れた島の東側に避難する。

 ちなみに建物は、島の北側にあった。3人が潜む位置からは、右側に建造物が、左側に爆弾をしかけた場所が見渡せる。

 3人は全員耳栓をして、暗視ゴーグルを一旦外し、代わりに軍事用に開発された特殊なサングラスをかけて、物陰に隠れた。

「全員爆弾の方をまともに見るなよ。耳栓もちゃんとしただろうな。耳栓の上から手で耳を抑えておけ」

 釘谷は確認して、他の2名が返事をしてから遠隔操作のスイッチをオンにする。耳栓をして、さらに手で塞いでも、耳を聾する轟音が響き渡った。

 地面を振動が走りぬけ、地震でも起きたようである。

 しばらくして爆破した左の方を見ると漆黒の闇にオレンジ色の炎が燃えあがっていた。

 一方右に見える北側の建物は、照明の消えていた窓という窓に、次々と明かりが点る。

 やがてさわがしいサイレン音が右の方から聞こえてくる。建物の出入り口から次々に男達が現れた。

 窓から漏れる明かりに照らしだされた彼らは皆屈強な体つきの者ばかりで、手にマシンガンを構えている。

 消火器や消火栓のホースを抱えている者もいた。美山達は両腕に構えた機関銃の狙いを敵の集団に向かって定め、トリガーを引く。

 騒音と、激しい振動と共に銃弾が放たれた。その弾丸が当たった男達は次々に地面へ倒れはじめた。

 やがてこちらの動きに気づいた一部の敵が、自分達の機関銃を構えて反撃してきた。こうるさい銃声と共に、無数の弾丸が飛んでくる。

 4人の侵入者は岩陰に隠れて、鉛のスコールをやりすごした。

 ここの海岸には、身を隠すのに手ごろな岩があっちへ1つ、こっちへ1つとたくさん散らばっているのがありがたい。

釘谷が何か言ったようだが、騒々しくて聞きとれなかった。やがて島内のいくつかのサーチライトが点灯する。

 美山はすぐさま機関銃でライトを狙い、1つずつ破壊していった。ガラスの砕ける音が、夜のしじまに鳴り響く。

その間にも、他の2人と敵との間で激しい撃ちあいが続いており、敵は次々と倒れていった。最初から岩陰に潜んだこちらが有利なのだ。

 向こうは暗視スコープを使ってないらしく、ちゃんと狙って撃ってるようではない。突然の襲撃に、かなり混乱しているようだ。

やがて敵の姿が見えなくなり、向こうから撃ってくる音が静まった。しばらくその場を静寂が支配する。

 他にも敵が潜んでいるのか、それともすでに出つくしたのか、判断がつかぬ。美山は這いつくばりながら、右のほうにある建物に向かって前進した。

前方から聞くも無残なうめき声が聞こえてくる。そちらに向かって這ってゆくと敵の1人があおむけに倒れており、苦痛に顔を歪ませていた。

美山は倒れている男のこめかみに、マシンガンの銃口を突きつける。

「おれの声が聞こえるか」

 倒れた男は苦しそうにうなずいた。

「王冠と現金の居所を言え」

「そんなの知らねえ」

 美山は血まみれになった男の腹にエルボーを食らわせた。次の瞬間、やられた方は聞く者を凍りつかせるような悲鳴をあげた。

「痛い目にあいたくなければ、素直に吐くんだ」

「ち、地下の金庫だ。王冠も現金も地下の金庫に納めてある」

 男は息も絶え絶えに答えた。さすがにこんな屈強そうな男でも、肉体の苦痛には勝てないようだ。

「暗証番号は知らないのか」

「おれは下っ端だ……そんなのわからねえ」

 男は話すのもつらそうだ。

「貴様は誰に雇われてる」

「雇い主が誰なのかは知らねえ。兄貴分の井口さんの命令で、ここへ来ただけだ。兄貴の指示で、この島にある王冠と現金を守るように言われたのよ……。もしかするとミスティー・ナイツが襲ってくるかもしれないってな。その時は、相手をぶっ殺してでも撃退しろとのお達しだった……王冠と現金がどういう謂れのある物なのかも聴いてねえ。兄貴は、余計な詮索を嫌うから」

 男はかなり苦しそうだ。息があがって、声も次第にかすれていった。ちょうどそこへ建物の出入口から、機関銃を持った男達が駆け足で登場する。

奴らが撃ってくる前に、美山は咄嗟に、近くの岩陰に身を潜めた。

 敵の撃った機関銃の弾丸は、さっきまで美山が尋問していた男にも命中する。どうやら今の銃撃で、井口とかいう男の弟分は完全に死んだようである。

呼吸の音が聞こえなくなった。美山は岩陰から機関銃を建物の入口の方へ乱射した。

 敵の1人に当たったらしく、聞くのが耐えがたい叫び声をあげながら、男の1人が地面に倒れる。

 腹ばいになりながら、徐々に出入り口の近くへ行くと、向こうから銃弾の雨が飛んでくる。

 美山は背嚢から手榴弾を1つ取りだすと、ピンを抜いて金属製のパイナップルを、草野球で鍛えた右腕で敵の集団に向かって投げた。

 顔を伏せると、爆発音と阿鼻叫喚の、聞くも恐ろしい悲鳴が聞こえてくる。

 このおぞましい絶叫を、美山は一生忘れられない気がしていた。そもそも自分の生涯は今夜で終わるかもしれないが。

 次の瞬間には、自分が似たような叫び声をあげているかもしれぬと思うと胸中が、暗いグレーに染められた。

 誰かが指示を出したわけでもないのだが、3人の騎士(ナイツ)は体を起こすと建物に向かって走りながら左右に別れて、入り口の両脇から中を窺う。

こっちを狙う銃口がないのを見定めて、そろりそろりと中に入った。

 もちろんマシンガンは構え、いつでも撃てる状態だ。前方の床に、血まみれになった数名の人体が横たわっている。他でもない。

美山達が撃って、こうなったのである。硝煙と血の臭いが鼻をつく。

 全員が即死したのではないらしく、うめき声が聞こえてくる。さすがに気持ち悪くなったらしく、横で海夢が吐いていた。

苦痛に悶える男達のうち何人かは、こんなヤクザな商売を選んだ自分を呪ってるに違いない。

 美山はそんな、虫の息の死にぞこない共にマシンガンでとどめをさした。万が一まだ抗戦できる余裕があって、背後から撃たれぬための用心だ。

霧の騎士達は、そんな屍の山を足で踏みこえながら、さらに建物の中をめざす。

 通路が血で、ぬるりとした。地下に向かう階段を見つけ、そこから下に駆けおりる。金庫がどこかはわからぬが、おそらく1番守りを固めているのがそこだろう。

「こちら、美山。今、建物の中に侵入した」

 ミスティー・ナイツのリーダーは自分の頭につけた、インカムのマイクに向かってしゃべる。

「すっげーじゃん」

 ヘッドホンから聞こえてくる衣舞姫の声が興奮していた。

「こっちは、建物の図面を何とか入手できたわ」


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