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王冠強奪?

「ミスティー・ナイツってのは荒っぽいだけの強盗団だと思ってたんだが、だいぶ様子が違うようだな」

「そのへんの、野暮な盗人と一緒にされちゃあ困ります。ぼく達は紳士でね。言わば怪盗紳士です。だてに日本のアルセーヌ・ルパンとか、現代のねずみ小僧とは言われてません」

 とりあえず、目ざわりな警部補はかたづいた。後は地下で活動中のメンバーが、金庫を下から掘ってくれるのを待つばかりだ。

              

 釘谷は工事関係者が着るような作業着を着て、美術館の防災センターで業者に渡す腕章を巻き(内部に警備員として潜入している海夢がうまくくすねてきたのだ)、お手製の爆弾を美術館のあちらこちらにしかけていた。

 もちろん人をまきぞえにするような場所ではない。また、火薬の量も少なめに抑えていた。殺しが目的ではないのである。

 爆弾をしかけたのは防犯カメラで撮影中の場所ばかりだった。カメラで撮影された画像は衣舞姫がハッキングして、彼女のパソコンのモニター上で確認中だ。 

 周囲に人がいないのを確認してから、スマホを改造したリモコンで爆破させるしくみだった。

 釘谷は美術館のあちらこちらに爆弾をしかけおえると、そこを出た。そして、美術館の近くに一年前から美山が偽名で借りているアパートに向かう。

 その場所に到着すると、しかけた物を一斉にリモコンで爆発させた。当然近くに人がいないのをハッキングしたモニターで確認しての犯行である。

           *

 突如火災報知機が鳴り響き、美術館の防災センターにいた紅山本部長は目をむいた。すぐに警備員が放送設備を使用して、放送を流す。火災報知機の鳴った箇所は全部で10あまりにも及んだ。

 防災センター内に並んだ監視モニターには、美術館の各所が次々に爆発する映像が浮かぶ。

放送の指示で、ただちに館内の警備員と警官が、消火器を持って現場に向かう。

「ミスティー・ナイツか」

紅山は怒声をあげた。

「こんな肝心な時に、姫崎は何をやっとるんだ」

「大変です」

 そこへ一人の女性警備員が現れた。名札には『沢西』となっている。かなり慌てているようだ。ろれつがうまく回っていない。

「火が、沖縄の海底から見つかった王冠のそばに迫ってます」

「何だとお」

 言ったきり紅山は、すぐには二の句が告げなかった。

「早くショーケースから外して、安全な場所に移さないと危ないです」

「よしわかった。花宮君、彼女と一緒に行って、ショーケースから王冠を移動させたまえ。他にも何人か連れていくんだ」

「わかりました」

 花宮はかん高い声で返事をした。表情は怯えきり、場の雰囲気に呑まれてしまっているのがわかる。彼と、今来た『沢西』という女性の警備員、他にもその場にいた男性の警備員2人がつきしたがって防災センターの外に走った。

                    

 総勢4人は王冠のある最上階に階段で昇りはじめた。火災報知機が鳴るとエレベーターが使えないので、花宮と男二人はすっかり息を切らしていた。

 非常用のエレベーターは使えるが、そちらはすでに消火活動で使用している。一方女の警備員は、全く息を切らしてなかった。

「君はすごいね」

 最上階に辿りついた途端、床に這いつくばった花宮が、激しい呼吸の後にようやく声を出した。

「普段鍛えてますから」

 女性はそっけない口調で答えた。

「確か、今度の大量募集で来た人だよね。覚えてるよ」

「そうです。よく、覚えてましたね」 

 沢西は、笑顔で答えた。化粧っ気がなく、制帽をまぶかにかぶってはいるが、それでも隠しきれぬほど、美しい顔だちをしているのがわかる。

 半そでの制服から伸びた二の腕は抜けるように白く瑞々しく、まるでしぼったばかりのミルクで作りだしたかのようだ。

 ようやくまともな呼吸ができるようになって初めて、花宮はおかしい事があるのに気づいた。

「さっきの話だと、すぐにでも王冠が燃えそうな勢いだったけど、まだ、この階には火はきてないが」

「万が一を考えて呼んだのです。すでに、すぐ下の階には火がきてました。早く王冠を他所へ移さないと、火で破損しかねません」

「そいつは困る。今セキュリティを解除するから待っていたまえ」

 花宮は、首からかけたセキュリティ・カードを手に持ち、王冠を納めたショーケースの台座にあるカードリーダーにそれを当てた。電子音が鳴り響き、ショーケース前面のガラスのフタが手前に開いた。

 花宮は持ってきた白い手袋を両手にはめると王冠を慎重に持ちあげて、男の警備員の1人が持ってきた箱の中にそれを納める。

「早く逃げましょう。一刻を争います」

 沢西が王冠を納めた箱をふんだくるようにして取りあげた。彼女はそのまま早足で、元来た階段を軽いステップで駆けおりてゆく。

 花宮と男のガードマン2人も慌てて後を追っかけたが、何せさっき階段を駆けのぼってきたばかりだ。

 降りる方が楽とはいえ、3人共すっかり体はバテ気味である。全身汗びっしょりで、棒のようになった脚は悲鳴をあげていた。

 第三者から見れば、走る姿は相当ぶざまなものだろう。

 初期のロボットのように、相当ぎこちなく見えているかもしれない。3人の男の動きは、先にすいすい駆けおりていった沢西のようにはいかなかった。

 やがて花宮は女を見失ったのに気づく。でも恐らく、1階の防災センターで待ってるだろう。そう思いながら、ようやくそこまで辿りついた。

「王冠は着きましたか」

 花宮は震える両ひざを両手で押さえつけながら、防災センターで待っていた面々に質問を投げかけた。

「何の話だ。お前が持ってきたんじゃないのか」

 明定が、不思議そうな顔で花宮を見た。

「女性の警備員が、先に持ってきたはずですが」

 不安になりながらも、花宮が言葉を発した。

「そいつは誰だ。名前は一体何て女だ」

「沢西さんです。今回の大量募集で来た人です」

 しどろもどろになりながら、花宮が説明した。

「こっちには来とらんぞ」

 明定は、今にも噴火しそうな勢いだ。

「お前ら早く手わけして女を探せ」

 明定は周囲の者に怒鳴りちらした。花宮も一緒に後を追おうとしたが、脚が疲れきっていたので、よろけて前のめりに転んでしまう。

「ばか者が」

 背後から、明定の悪態が聞こえてきた。

           *

 明定はすぐ全館に連絡して、動ける者達に王冠を持ちだした女の警備員を探させたが、結局見つからずじまいであった。

 沢西のロッカーを調べたが空っぽで、手がかりになりそうな物品はない。

 後になって警察が調べたが、ロッカーには指紋や髪の毛等、個人識別できる証拠はなかった。

 普段から注意深く使用して、DNA鑑定に使えそうな髪の毛等は、残さなかったのだろう。

 他の警備員に聞いたが、彼女は夜勤の時もシャワーを使ってなかったそうだ。これも体毛を残さぬための用心だったのだろう。

 今思いだせば帽子を目深にかぶる時が多かったし、もう一回同じ女と街ですれ違っても、気づくかどうかわからない。

 履歴書に写真があるが、化粧や髪型や服装が変われば、女の印象は大きく変わる。ミスティー・ナイツのメンバーなら、当然変装もしてるだろう。

 すぐ警察が全島に手配をしたが、捕まるかどうかわからない。もっとも小さい島なので、内地と違って簡単に、外には逃げづらいだろうが。

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