83、白鳥の湖
――『LOVEジュエル7 グループチャット』
葉室王司:これからよろしくね
月野さあや:葉室ちゃん、はむちゃんって呼んでもいい꒰( ˙ᵕ˙ )꒱?
葉室王司:はい
三木カナミ:みんな、今度プライベートでも集まって遊ぼう~!
高槻アリサ:いいね!
こよみ聖:遊園地はどう? この前、彼氏と行ってよかったからおすすめ♡
月野さあや:いこー꒰( ˙ᵕ˙ )꒱いこー
五十嵐 ヒカリ:絆を深めるのは大事よね( ゜д゜)!
緑石芽衣:そう?
葉室王司:あ、あと、私、銭湯も行ってみたいです。いつか気が向いたら
三木カナミ:銭湯?
こよみ聖:銭湯?
緑石芽衣:やだ
五十嵐 ヒカリ:じゃあ、遊園地→銭湯→お泊り会ってどう( ゜д゜)?
五十嵐 ヒカリ:夜はみんなで筋トレよ( ゜д゜)
緑石芽衣:グループ抜けます
葉室王司:抜けないで!?
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
アルファプロジェクトについて語るスレpart252
21:名無しのリスナー
LOVEジュエル7公式動画チャンネルできてるぞ!
乗り込めーー
22:名無しのリスナー
うおおお俺がジュエラーだ
23:名無しのリスナー
1曲で終わりそうにない力の入れ具合w
24:かじかじ
佐久間君は好きな分野にとことん拘っちゃうオタク君だからね
25:名無しのリスナー
王司ちゃん!パパはジュエラーになったぞ王司ちゃん!
26:名無しのリスナー
>>25
貴様!パパを名乗るとは不届きな
王司ちゃんのパパは俺だぞ
27:名無しのリスナー
いやおれだ
28:名無しのリスナー
いやいやオレだ
29:名無しのリスナー
みんなの娘でええやんか
30:名無しのリスナー
ジュエルちゃんたちのプロフィール見てたら彼氏持ちアピールしてる子いるんだが(困惑)
31:名無しのリスナー
彼氏持ちですが何か?
32:名無しのリスナー
NTRを妄想して推せ
33:名無しのリスナー
通は彼氏ごと愛す
34:名無しのリスナー
いや、自分が寝取られた設定でシコるのがホンモノ
35:名無しのリスナー
そんなホンモノになりたくねえよ
36:名無しのリスナー
さあやちゃん神絵師でVtuberのLive2Dモデラーだぞ
歌って踊れて絵もかけて絵を動かせて可愛いって天才か
37:名無しのリスナー
伊香瀬ノコにアバター作った噂ある子だよね
38:名無しのリスナー
ワイはヒカリネキ一筋やで
歌がガチでプロ
39:名無しのリスナー
ヒカリネキはちょっとガチオーラありすぎて怖い
遊び半分に青春ごっこしてる下手可愛い女の子を愛でたいんじゃ
40:名無しのリスナー
>>39
>下手可愛い
つ王司
41:名無しのリスナー
>>40貴様を許さない追放だ
42:名無しのリスナー
でもちょっとわかる
王司ちゃん正直、歌は下手カワに分類されるよな
43:名無しのリスナー
演技が上手いから
本業は女優の方だから
44:名無しのリスナー
可愛ければいいんだよお!!
45:名無しのリスナー
緑石芽衣タソを推してるのは漏れだけか?
みんな見る目がないな
46:名無しのリスナー
めーちゃんは最年少カワイイ
47:名無しのリスナー
おれは箱推しだけど?
48:西園寺麗華
おいジュエラーども
ジュエルが「来週の週末に遊園地とスーパー銭湯行ってお泊り会する配信予定」ってSNSで言ってる
49:名無しのリスナー
うおおおおお
50:名無しのリスナー
うおおおおおおお
51:かじかじ
くそっ西園寺麗華が気になってツッコミ入れてえ
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
――【葉室王司視点】
「今日がオーディションで、来週はアイドル部で文化祭の練習、放課後はLOVEジュエル7のレッスンと演技ワークショップに参加、その後の週末はみんなで遊園地と銭湯とお泊り会……王司、がんばりすぎじゃない? 疲れたらちゃんとお休みするのよ?」
土曜日の午後、オーディションの日。
「この前も熱を出したんだから、無理しないのよ」
ママに心配そうに送り出され、私は家を出た。
天気は雨。風も強い。
オーディション会場は劇団アルチストの稽古場だった。
審査員席には、着ぐるみブラザーズがいる。
パンダ、シロウサギ、ピンクパンサー……あ、トドがいない。
どうした、トド。
いや、いなくてもいいんだけど。
参加者の中には、知っている顔ぶれがいる。
金髪に髪色を戻した火臣恭彦……、あれ?
恭彦はわかるけど、西園寺麗華もいるじゃないか。
「お二人とも、オーディション受けるんですね」
声をかけると、麗華はハグで歓迎してくれた。
「王司ちゃんおはよう~! お姉さん、社長に頼んで混ぜてもらっちゃった。舞台の経験と実績がほしくて」
「あはは、麗華お姉さんらしいです」
恭彦は今日はぼろぼろじゃない。普通だ。よかった。
目が合うと、微妙に後ろ暗そうに眼を逸らされる。
「俺は父がねじ込んでくれたようです」
「んっ……」
わ、私がねじ込んだんだよ。
私が八町に紹介したんだよ。私のコネだよ。
喉まで出かかった言葉を飲み込み、ぽふりと両手を叩いて笑顔を浮かべた。
「恭彦お兄さんのお父さん、私、嫌いです。えへへ」
「そ、そうですか……」
「あ、でも、あの、恭彦お兄さんが参加していて嬉しいです。嫌とかではないので、誤解しないでください! あくまでお兄さんのお父さんだけ……」
「うちの父がいつも色々とすみません」
話し込んでいると、後ろから袖を引かれる。むむ?
「はい……、っ?」
「おはようございます」
振り返ると、年下の『ジュエルちゃん』がいた。
黒髪くせ毛ショートヘアに黒縁眼鏡の新人アイドル……13歳の緑石芽衣ちゃんだ。
「グループチャット抜けます」って言ってた子だ。
「緑石芽衣ちゃん、だよね? お芝居もするの?」
「経験なしです。教わったこともないです」
芽衣ちゃんは、独特の静かでマイペースな雰囲気だ。「我が道を行く」みたいな言葉が似合いそう。
「お芝居、『やったことないけど興味があって、これからやるぞー』って感じなんだね?」
「…………まあ……」
「微妙な感じ!?」
ふむ、ふむ。
どうしてここにいるのか不思議だけど、いろいろなジャンルに挑戦するのはいいことだよね。
知り合い同士で話していると、ピンクパンサーがマイクで喋った。
関西イントネーションだ。
「皆さん。初めまして。西の柿座のピンクパンサー、猫屋敷です」
ん? 劇団アルチストのオーディションだよね?
「招待状には劇団アルチストの名前だけが記載されていましたが、実はこのオーディションは、劇団アルチストと西の柿座の共同開催です。両劇団で相談して審査・採用させていただきます。お気に召さない方は、お帰り下さい」
ほう、ほう。どっちに採用になるかわからないんだ?
劇団アルチストに規模や知名度で一歩劣るとはいえ、西の柿座も有名な劇団だ。
チャンスが2倍になったと思えば、悪い話じゃないんじゃないかな。
会場は3秒ほどザワザワとしたが、ピンクパンサーが手を挙げるとすぐに静かになった。帰る者はいなかった。
ピンクパンサーは、荷物からぬいぐるみのピンクパンサーを取り出した。
そして、ぬいぐるみを動かしながら説明した。
「では、審査を開始します。これから、4人一組になり、順番に前に出てください。ランダムにBGMを流します。どんなBGMが流れるかは、その時になってからじゃないと、わかりません。4人は打ち合わせなしでBGMに合わせて自由にパフォーマンスをしてください。歌、ダンス、寸劇、どんなパフォーマンスでも結構です」
猫屋敷は説明を終え、急かすように付け足した。
「では、さっさとグループを作って早めに出てきてください。遅いグループはそれだけで印象が悪くなりますよ。だらだらしてると人生が終わってしまうのでね」
私たちは顔を見合わせた。
「組みましょう」
「ですね」
「さっさと挑戦しちゃいましょう」
即座にグループを結成して時間を惜しむように前に出ると、猫屋敷は満足そうにぬいぐるみを振った。
「一番グループ、行動が早くて大変結構。メンバーは……葉室王司、緑石芽衣、西園寺麗華、火臣恭彦……確認しました。では、開始しましょ」
BGMが流れ始める。
ゆったりとした優雅な曲だ。これは、有名な曲――白鳥の湖だ。
バレエスキルのある麗華が主役をもぎとりに踊り出すのが見える。
『私が目立つ。仕事を勝ち取る。
スキルを活かす。自信がある。遠慮なんてしない』
――『私がNo1よ』……そんな強気な姿勢が見えて、私はこのお姉さんが好きだなと思った。