73、「私が思うアイドルは」
アルファプロジェクトについて語るスレpart127
680:名無しのリスナー
オーディションみんな合格してほしくなってきた
681:名無しのリスナー
さくら姉さんを落とすとは見る目がない番組だな
682:名無しのリスナー
>>681 誰だっけそれ
683:名無しのリスナー
俺はカナミちゃんを応援してます
ギャル感がいいんだ
あんたばか?とか罵ってほしいんだ
684:名無しのリスナー
マゾがいる
おれはこよみ聖ちゃんがいい
685:西園寺麗華
カナミちゃんって王司のスレで見た名前だけど同一人物?
686:名無しのリスナー
高槻アリサちゃんの方がいいよ
お父さん歌舞伎役者
あの子可哀想なんだよ
687:名無しのリスナー
>>686
浮気相手の子ってイメージ悪くない?
688:名無しのリスナー
本人に罪はないだろ
可哀想な子なんよあの子
689:名無しのリスナー
カナミは王司に告白されて振ったとか王司がクズとかデマ広めてたアンチだよ
690:名無しのリスナー
え?アンチがオーディション受けてパートナーになろうとしてんの?やばない?
691:名無しのリスナー
番組だといい子そうだったけど
692:名無しのリスナー
カナミは王司の誹謗中傷ネットに書いて開示請求くらってる
本人に直接謝って許してもらってたけど
693:名無しのリスナー
なにそれ怖い
あたしだったら絶対許さないしオーディション落とす
694:名無しのリスナー
王司ちゃんちょっと自分への悪意を他人事みたいに流しちゃうとこあるからな
695:名無しのリスナー
>>685 西園寺麗華???
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
――【葉室王司視点】
今日は、コーナーのオープニングが特殊だった。
アイドル候補生たちがひとりずつ考えてきた「今の気持ち、言いたいこと」のセリフを読んで、画面に手書きの文字が表示される。
「現実はきれいごとばかりじゃない。そんなの、もうわかってる」
「親が、闇がいっぱいだとか、怖いとか、将来が心配だとか、現実を見ろとか言う」
「夢って、がんばったら絶対に叶うものじゃないんだなって」
みんな、薄々「コネで決まるんじゃないかな」って諦めムード?
カナミちゃんは……?
「SNSでカナミーって言われてる。見てる」
それがあんまり嬉しくないみたいな表情だ。アンチコメントでももらったのかな。
佐久間監督を見ると、「そのメッセージに『でも』をつけて前を向くメッセージを足すとキラキラ感が増すかもしれないね」と笑っていた。「もうちょっと視聴者に『夢見る若者、眩しいな。応援したいな』って思わせたいかな……」だって。
ハラハラしてると、アリサちゃんの番になった。
「楽しかった!」
いい笑顔だ。
スタジオにはアリサちゃんのお父さんも来ていて、満面の笑顔で頷いて腕を組んでいる。
「他の子が可哀想、って感じには演出しないでくださいよ。アリサのイメージが悪くなりますから」
声が大きい。
それ、「うちのアリサが合格する」って言ってるようなものなんだよ……。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
時間になって、撮影が始まる。
『アルファ・プロジェクト』
タイトルコールの後、いつものカメラに手を振る。
共演者が減ったので、私のセリフは増えていた。
「さあ、今夜はいよいよオーディション最終回! 私、葉室王司のパートナーが決まっちゃいます!」
私、葉室王司の隣は空席だ。ノコさんはいない。
寂しい気持ちを胸に仕舞いこみ、笑顔を浮かべる。
「新時代は我々が切り拓く! 青春バラエティ風・アイドルオーディションコーナー!」
課題曲が流れて、アイドル候補生が全員でダンスと歌を披露する。
みんな、たくさん練習したのがわかる。
最初の頃はぎこちなかった子も、慣れてきた様子だ。
カメラ目線で笑顔を見せている。
この課題曲が、また「いつもみんなで頑張ってきたね。明日から全員ばらばらだけど、友情は永遠だよ!」って曲なんだ。
一緒に挑戦する子同士、仲良し関係ができてたりしてるから、感情が入って涙ぐんでる子もいる。
曲が終わったら、ひとりずつ最後のアピールタイムだ。
彼女たちにはもちろん内緒だけど、アピール関係なしに結果は決まっている。台本に指示があるんだ。
『アピールタイムの後、審査員は悩みながら投票して、アリサちゃんの合格を発表する』ってね。
次回からこのコーナーは、私とアリサちゃんの二人がアイドルになるために歌やダンスの練習を頑張ったり、宣伝活動を頑張る姿を見せるコーナーになる。
では他の子たちは? というと、「いつもみんなで頑張ってきたね。明日から全員ばらばらだけど、友情は永遠だよ! アリガト! ばいばい! ばいばーい!」でいい感じに締めくくってね、という指示であった。
表で見せる演出がキラキラしている分、裏側の闇の部分がえぐく感じる。
みんなが順番にアピールして拍手を送り合い、マイクをバトンリレーみたいに次の子に渡していく。
あっという間に残り2人になり、次はカナミちゃんの番だ。
「三木カナミです!」
カナミちゃんは、すっぴんでも綺麗な顔立ちをしていて、メイクが上手い。
照明を浴びて艶を見せる長い髪は、最初の頃より色が明るくなっていて、金髪と茶髪の中間くらい。
白いTシャツの上からピンクのジャージを羽織っていて、黒のショートパンツから覗く脚が健康的な白さだ。
「あたしは、王司が好きです。だから、王司とアイドルしたかった」
……んっ?
「あたしは、王司の悪口をネットに書いたことがあります。それで、プロバイダーからの意見照会書がうちに来ました」
カナミちゃん? 何をアピールしてるのかな?
「あたしの書いた悪口が印刷されていて、親に見せて謝りました。親、泣かせました。怒られました。これ証拠、個人情報消したコピー。死にたい気分になりました。人生が終わったと思いました。でも、王司は許してくれました」
カナミちゃんは、カメラを睨んだ。
「反省してます。後悔してます。もうしません」
睨んだ瞳の端に透明な涙が滲んで、けれどカナミちゃんはそれを決壊させて泣かないように堪えていた。
「王司もアリサも、何もなかったみたいに友達してくれてます。いい子だなって思います。あたしとは大違い。可愛いし、おうちもすごいし、頭もいいし。あたしはいつも羨ましくて、憧れて、嫉妬してます。でも、あたしも走り込みしたり筋トレやボイトレしたりダンス動画観て練習したり、頑張ったよ」
他の候補生もスタッフも「これってテレビで流すの?」と顔を見合わせる中、アリサちゃんが拍手した。
「カナミちゃん、がんばってた!」
とてもピュアで、今のアピールには何も問題がないって声だった。
きっと、カナミちゃんは本当に勇気を出して覚悟を決めて言ったんだろう。だったら、これはボツにしちゃだめなんだ。
私はアリサちゃんの真似をするように拍手して、声をあげた。
「カナミちゃん、いっぱいいっぱい、がんばってた!」
他の子たちも遅れて拍手をし始めて、カナミちゃんは涙を流すことなく笑顔を浮かべた。
綺麗にリップを塗った唇が「あのね」と発語する。
「まじでがんばったの、あたし! あたしは悪い女でごめんって感じだけど、がんばったことだけは誇れる。周りがやばくて無理ゲーだなって何回も思ったけど、がんばるのって、チョー気持ちいい! だから、挑戦させてもらえたことに感謝してます。アリガト!」
撮り直しの声がかからないまま、カナミちゃんはマイクをアリサちゃんにバトンタッチした。
アリサちゃんで最後だ。
アリサちゃんは長い黒髪を首の両サイドで結んで垂らしていて、中学校のセーラー服姿だ。
「高槻アリサです」
清純って言葉がよく似合う笑顔を浮かべて、アリサちゃんは父の芸名を口にした。自分が不義の子だと告げた。
「家族旅行についていかなかったり、家族の動画に出ないのは、いろんな人が可哀想って言うからです。『アリサちゃんが可哀想』『奥さんだって可哀想』って。いなくても言われるけど……ずっと姿を隠していたら、世の中の人はアリサのことを忘れてくれるかなって思ってたから。そんなこと、なかったけど」
こっちはこっちで重い話を始めるじゃないか。
さすがにちょっとおろおろしちゃうよ。大丈夫?
「うちの親が、ずっと前に言った『歌舞伎役者になりたい』って夢を私が今も見てると勘違いしてて……。歌舞伎役者にはできないけど、芸能界に入れてあげるよって。お父さんは、プロデューサーさんにお話するよって言ってた」
あっ、アリサちゃん。それ言っちゃうの……。
「余計なお世話だと思う。私は、お友達と思い出作りしたいから参加しただけだもん。お友達と仲悪くなりたいわけじゃないから、親は引っ込んでて欲しい」
アリサちゃんは目を閉じて、「私が思うアイドルは」と唱えた。
黒い睫毛が長くて、小さな口が上品で、なんだか勇ましかった。
「アイドルは、スターは、輝いてる。みんなが憧れて、大好きってなる。可愛くて、かっこいい。強い。お日様みたい。あったかいといい。優しいといい。お友だちと手をつないで、一緒にがんばろうって言える子がいい。不正があったら、嫌だなって言えるといい」
アリサちゃんが目を開ける。
表情は、潔癖な感じだった。
「がんばった子、煌めく才能を見出された子が、アイドルになるといいと思う。みんな、そういう企画だと思って応募したから。そういう企画ですよって夢を見せたのだから。入ったあとの業界の中身が嘘や大人の事情でいっぱいでも、業界に入る前の入り口くらい、嘘をつかない綺麗な入り口だったらいいと思う」
「……」
私は、ちょっとぽかんとしてしまった。
今までアリサちゃんとたくさん日常を過ごしてきたけど、薄っぺらくて浅い表面しか見ていなかった、と思った。
いつもアリサちゃんはニコニコと楽しそうにしていて、無邪気で。
でも、私が掘り下げて内面を知ろうとしなかっただけで、こんな子だったんだ。
「ありがとうございました」
アリサちゃんがお手本みたいに美しいお辞儀をして、マイクを返して下がっていく。
拍手が湧いた。
アイドル候補生の子たちが拍手したのだ。
みんな、今の演説を好ましく思った様子だった。
この演説の後でなら、審査員も不正をしにくい――そんな希望と夢で目を輝かせている。
……審査員はこのコーナーを締めなければいけない。
アリサちゃんの父親は仏頂面をしていて、「今の部分は編集でなんとかなりますか?」と佐久間監督に聞いている。監督は、「結果を変えよう」なんてハンドサインをくれなかった。「そのままGO」だ。
つまり、私はこの流れのあとで「うーん、悩みますね」「決めました」「皆さん魅力でいっぱいでしたが、合格者は泣いても笑ってもたった一人」「合格者は……アリサちゃんです!」と言わないといけないんだ。
ほう、ほう……。まあ、これは生放送じゃないから大丈夫。
それに、放送作家さんも佐久間監督も、女の子同士のてぇてぇ(仲良し)が好きだ。
放送作家さんは平凡で、日常の中にいて、ほのぼの~っとしながらお互いのことを思いやる女の子たち。
佐久間監督は胸が締め付けられるような曇らせを挟みつつ、最後は救われる綺麗な物語。それに「腐った業界とかくそくらえ!」ってノリも好きだよね――趣味はわかってるんだ。
「皆さん、ありがとうございました」
私はひとまず、カメラの前でアドリブをかました。
「全員でアイドルしましょう! だって、その方が楽しそうだもん! 実は私、友だちがずっといなかったんです。これくらいの大人数でお泊り会とか遊園地行ったりとかしたら、面白いだろうなあ!」
アイドル候補生たちは、爆発的な歓声をあげて喜んでくれた。
涙を流して隣の子と抱き合ったりしてる。放送作家さんが好きそうなガールズフレンドシップだ。
「おめでとー! 王司が決めたから絶対でーす! おめでとー! 全員おめでとー! これからよろしくー!」
先日見た恭彦の「男の子でーす。助産師が言うので間違いありませーん。この人は女の子産んでませーん」を真似するように強引に陽気に言って、私はコーナーを締めた。
「それでは次週からっ! 新生アイドルグループの挑戦がスタートするよっ! みーてーねー! 撮り直しは、しませーん。私、この後すぐ帰りまーす。ボツにしないでねー! ばいばい。ばいばーい!」
いつかのテレビ番組で無理してテンションを上げていたノコさんみたいにハイテンションに言って、ぴょんぴょん飛び跳ねながら力いっぱい手を振ると、他の子たちも一緒になって「ばいばーい! ばいばーい!」と手を振って合唱してくれた。
佐久間監督はこの強引な締め方がとてもツボに入った様子で腹を抱えて笑ってくれて、「いいよ。撮り直しなしでいこう」と言ってくれた。
こうして、私は1曲限定のアイドルグループのリーダーになった。
グループ名は、メンバー全員でアイディアを出し合った結果、「LOVEジュエル7」に決まったよ。