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【完結】俳優、女子中学生になる~殺された天才役者が名家の令嬢に憑依して芸能界に返り咲く!~  作者: 朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます!
1章、オカルトアプリと俳優兄妹

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61、通販すごい

「お嬢様、本日は解放区にお出かけなさらないのですね」

「お茶ありがとうミヨさん。今日は引き篭もる日にしたんだ」


 和風メイドのミヨさんが恋団子なるものを差し入れしてくれる。

 白いお団子にカラフルな餡子やイチゴなどが盛り付けられていて、見た目が可愛い。

 空調が整えられた室内で味わうあたたかい煎茶も美味しい。

 

 学校のリモート授業は録画配信だ。

 自宅で好きなタイミングで録画を観れて、トイレに行きたい時に一時停止して行き放題なのが助かる。

 

高槻(たかつき)アリサ:王司ちゃん。今日は学校来ないの?

葉室王司:ごめんアリサちゃん。私は家で過ごすよ

  

 私は今、気分が優れないのである。

 

 アレのせいである。名前も呼びたくないのである。

 他人に教えたいとも思わないのである。

 江良(えら)は大人の男だったので、アレの知識は持っていた。

 しかし、知識はあくまでも知識である。

 

 まず、初回だからか、色が鮮やかな血色ではない。

 そして、どうやら腹も痛くない。

 しかし、しかしだ。眠気が普段よりましましのましになっている。

 トイレが近くなる。精神的に気になってしまうというのもあり、30分に一回行っているかもしれない。行き過ぎか。もっと我慢するべきか。


 そして、トイレに行くたびに汚れが目に入るのである。

 このナプキンというブツ、何時間も変えずに持たせるらしい。

 しかし、汚れているものをそのまま変えずに履き続けるのが、私にはどうも耐えられない。

 1トイレ1ナプキンでチェンジしたい。この感覚は潔癖なのだろうか?

 

 あそこを拭く時にトイレットペーパーが汚れなくなるまで拭いて出ようと思って拭いていると、何度拭いても「汚れなくなるまで」がないのである。これが重くなるととめどなく溢れる鮮血に変わるのだと聞く。怖い。


 世の女性はこの体でどうやって社会生活を営んでいられるのか? 共演した女優さんたちは過酷なスケジュールをどうこなしていたのか。撮影は着脱が面倒な衣装もあるのに。それに、スポーツ選手は? 


 勉強とか、する気が起きないよ。リモート授業を聞いていても「数式どころじゃないんだ」と言いたくなるよ。もう今日は自分に甘々Dayにして、動画を見たりしよう。私が私を許すよ。

 

 明日からのスケジュールはどうなっていたかな。レッスン、レッスン、ドラマの撮影からバラエティの撮影へ移動。スポンサー企業が集まるパートナーシップディナー会とノコさんのライブ(同じ日)。八町(やまち)のお見舞い……。


高槻アリサ:見て王司ちゃん

高槻アリサ:王司ちゃんの推しノート作ったよ


 アリサちゃんはLINEで推しノートの画像を見せてくれた。

 シールでデコられた表紙に、可愛い文字で『葉室王司ちゃん推し♡』と書いてある。か、可愛い。

 中のページには、私のCMやドラマのワンカットをプリントした写真が貼られていた。これはスマホで動画を流してスクリーンショットを撮ってプリントアウトしたのかな? すごく手間をかけて作られていて、愛が伝わってくる。


葉室王司:ありがとうアリサちゃん! 

葉室王司:なんかちょっと恥ずかしい

葉室王司:でも元気が出るよ 


 ゆるキャラスタンプ一覧から「ちゅき♡」の吹き出し付きのスタンプを送信すると、同じスタンプが返ってくる。

 なんて癒し。これが尊いという感情か。なんか幸せになった。ありがとう、アリサちゃん。アリサちゃんは天使だと思う。


葉室王司:私もアリサちゃんの推しノート作ろうかな?

高槻アリサ:作って作って

高槻アリサ:このシール、さんほで買ったの 


 来たな、「当たり前のように共通認識として単語が出されるけどわからない」現象!

 たまにあるんだ。

 ネット検索しよう。さんほ……トトロが出てきたよ。でも、その下の検索結果にそれっぽい通販サイトがあるな。これか。


葉室王司:さんほ可愛いね

高槻アリサ:見て、うちのほっぺちゃんだよ


 アリサちゃんはほっぺちゃんというマスコットを見せてくれた。ドラクエのスライムに似てる。可愛い。

 なんだこの生き物は。いろんなバージョンが大量にあるのか。コレクションするものなのか?


高槻アリサ:王司ちゃん、ほっぺちゃん持ってる?

葉室王司:これから買う

葉室王司:このリボンとお花がついてるの買おうかな? 赤いやつ

高槻アリサ:私、同じの買う! 星空ほっぺちゃんも可愛いよ

 

 なんて可愛い世界なんだ。星空ほっぺちゃんは数量限定なのか。どうして数量を限定してしまうの。レア感出されるとポチッちゃうよ。弱いんだ。

 

 いでよ、My執事。私はセバスチャンを呼んだ。

 

「セバスチャン! これを今すぐ入手してきて」

「お嬢様、ソレハ通販デス」

 

 知ってる。だから「君に決めた!」ってしてるんだ。

 

「通販だと届くのに時間がかかるでしょう。私は今すぐほしいんだよ」


 通販サイトの画面を指先でとんとん叩くと、夢が溢れる音がした。ああ、この可愛いアイテムが今すぐこの部屋に届いてほしい。早く。早く~。

 

 しかし、アッポーポイントはなかった。

 

「わがままですね。代償に舌を抜きますよ」

「ひっ、大人しく通販します」


 執事が悪魔モードの冷ややかな声になったので、私は大人しく通販サイトで決済を済ませた。早く届きますように。早く届きますように。早く届きますように。

 シールも買っておこう。ノートも。カラフルなペンセットも買おうかな。トートバッグも買うか。

  

 ぽちぽちと衝動買いすると、だいぶ気分がよくなった。

 そうか、「可愛い」は元気の源なんだ。

 ありがとう、可愛いアイテムたち。私は不調にめげずに日常生活を送るよ。

 

「ミーコ、おいで。一緒に動画を見よう」

「にゃ~」  

「画面の前に座ったら見えないよ」


 ノートパソコンで動画を漁ると、解放区を外から見物している配信者の動画があった。 

 

 校舎に垂れ幕が垂れ下がっていて、垂れ幕には毛筆でデカデカと文字が書いてある。


『解放区』

『東北と関西の同志にエールを送る』

『彼女募集中。タツヤより』

『風林火山』

『ほしがりません、ごめんなさいと言わせるまでは』 

 

 書道部は字が上手い。彼女募集中のタツヤ君はいい相手が見つかるといいね。

 

 動画サイトには、「聞け。焼肉降板事件について」とか「現場のスタッフと役者を守りたい」などという動画がいっぱいあった。SNSでは、情報規制でスポンサーを批判する声が消されたり検索できなくなったりしている。そして、規制をかいくぐる「名前を呼べない例の企業」とか「例のあの人」という単語が使われるようになっていた。

 まるでハリーポッターの魔法界におけるヴォルデモートだ。

 

『火臣打犬さん、不適切な配信再び――「俺が不適切なら元監督はどうなんだ」と反論。泥沼の三角関係か』


 検索していると、どうしても教育に悪い人物の名前にも出くわしてしまう。

 父親は嫌いなのだが、息子の恭彦の評判や現状は気になるのが私にとってのジレンマだ。あ、街角で突撃インタビューした記者がいるんだな。動画が公開されてる。

 

『火臣君、今日もかっこいいですねー!』

『ありがとうございます、今日も生き恥をさらしています』

『お父さんと連絡は取ってますか? 監督のアパートで二人暮らししてるって本当?』

『ノイズになるのでスマホは封印しています。ネット見てません。監督のアパートは寝るだけです』

『お父さんに一言』

『今まで育ててくれてありがとう……でしょうか』

『お父さん、「パパのパはパオーンのパだから問題ない」と言ってましたが』

『ちょっと意味がわからないです』

 

 相変わらずインスタのDMに返事をしないので心配していたが、スマホを封印していたのか。

 恭彦は元気そうだった。ちょっと痩せて日に焼けた?

 甘いな恭彦。ノイズはスマホ封印程度でシャットダウンできないよ。こっちは加地監督とメール交換してるんだ。

 

 動画を見て加地監督にメールを打っていると、和風メイドのミヨさんが部屋に箱を持ってきた。

 

「お嬢様。サン宝石から商品が届きましたよ」

「えっ? もう?」

 

 さっき注文したばかりだよ? 爆速すぎない?

 届いたスライム……じゃなくてほっぺちゃんは、可愛かった。

 わあああ、可愛い。


「わああああ! かわわわわ……」

「可愛いですね、お嬢様。推しノートを作るんですか? お手伝いしてもいいです?」


 ミヨさんがニコニコしながら箱の中身を一緒に愛でてくれる。うん、うん。一緒に可愛いものを愛でよう!


「あのね、ミヨさん。私、アリサちゃんに写真を送る」

「素敵ですねお嬢様」

「推しノートを作るよ! 写真を貼るんだよ」

「お写真、選びましょうねお嬢様」

「うん!」


 二人で推しノートを作って、時間は楽しく過ぎて行った。ミヨさんはセンスがいい。

 推しノートは気づけば2冊完成していた。

 あまりに力作なので誰かに見せたくて仕方ない。メールしよう。メッセージしよう。 


葉室王司:アリサちゃん見て

葉室王司:私、アリサちゃんの推しノート作ったよ! 

葉室王司:二人で撮った写真をいっぱい貼ったんだ

高槻アリサ:可愛いー!

高槻アリサ:作ってくれてありがとう王司ちゃん

高槻アリサ:届くの早かったんだね

葉室王司:すごく早かったよ

葉室王司:通販すごい


 アリサちゃんとチャットを弾ませていると、ミヨさんが声をかけてきた。

 あっ、ミヨさんの勤務時間、過ぎてるや。残業させてしまった。申し訳ない……。

 

「お嬢様、奥様は遅くなるご様子です。夕食は先にお摂りください」

「それなら、部屋で食べてもいい? あのね、これから配信が2個あるんだ。スマホじゃなくてノートパソコンの大きな画面で見たいの」

「かしこまりました、お嬢様」 

「あの……残業させちゃってごめんね」


 そっと謝罪を足すと、ミヨさんは目を丸くした。


「家に帰ってもひとりですから、お嬢様と一緒にいる方が嬉しいくらいです」

 

 ふわふわの綿菓子みたいな甘い微笑みで言ってくれたので、なんだか釣られて心がふわふわした。

 

「ありがとうミヨさん!」 

   

 夕食を食べていると、猫のミーコが「ちょうだい、ちょうだい」と甘えてくる。江良が一人暮らしの部屋で猫とごはんを食べた時のことを思い出す。懐かしいな。一緒にご飯食べような。

 

 スマホに通知が届いたので、ノートパソコンでいそいそと動画チャンネルにアクセスすると、『【パパ見てる?】狭いアパートに男が二人。何も起きないはずがなく……』というタイトルの配信がスタートしていた。

 完全にネタに走っていて、打犬を煽っている。監督の仕業だな。

 

   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


「恭彦君。妹ちゃんがお兄ちゃんの推しノート作ったんだって。写真見てほしいって。可愛いねー!」

「親父との血筋を感じますね」

「星空ほっぺちゃんだって恭彦君。妹ちゃん、これを君に見せたかったんだって」

「なぜ?」


 恭彦は愛想がないな。

 兄役のテンションはどうした? 

 

 役を貫いて。こっち見て笑って。手を振って。妹を甘やかして。

 可愛いだろほっぺちゃん。嬉しいだろ可愛い妹。

 もっとお兄ちゃんになって。 

 

 ところで今「血筋を感じる」って言った? 

 それは二度と言わないで。配信にコメントを打とう。

 この部屋に私を止める人はいない。私は自由だ。


葉室王司:恭彦お兄さん、父親の血について触れるのはNGです

 

:↑↑妹がコメント欄にいる件↑↑

:↑王司ちゃん見てるじゃん

:お兄ちゃんの推しノート作ったんだね王司ちゃん可愛いね

:パパは嫌いなんだよね(笑) 

 

葉室王司:だいおあ90うjまあ3あmが 

 

:↑↑妹がコメント荒らし始めた件↑↑

:どうした王司ちゃん

:突然の暴走

 

葉室王司:猫がキーボードに乗りました


:猫は仕方ない

:にゃーん

:もう配信より王司ちゃんが気になってしまう 

    

 コメントの民と戯れるの楽しいな。

 

「ミーコ、キーボードに乗っちゃだめだよ」

「にゃー」

 

 ミーコを抱っこしなおすと、ちょっと不満そうだった。もっとイタズラしたかったのか。可愛い奴め。よし、よし。ぎゅうううっ。はー、猫の匂いがする……。


 配信では、元監督が「王司ちゃんコメントありがとねー」と愛想たっぷりに手を振ってくれている。

 恭彦はあまり愛想がないな。

 

「今日もいい感じにバズってるよ恭彦君! 君には巻き込まれ炎上の才能がある。よし、銭湯行くか」

「嫌な才能ですね……」


 銭湯か。そういえば、女湯ってどんな感じだろう。

 今度行ってみたい。


 スマホに通知が届いて、配信を切り替える。本日の解放区放送が始まるのだ。 


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