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55/241

55、うちの執事が有能で

 帰宅してすぐ、潤羽(うるは)ママに企画の件を相談した。


「王司! それでいいのよ。本人の()る気は大事だわ。ママと一緒に戦いましょうね」


 なんて嬉しそうなんだ。お小遣いまでもらっちゃったよ。

  

 ママに電話を仲介してもらって、おじいさまにもプレゼンをした。

 おじいさまとお話するのは流石に緊張するけど、おじいさまはお経を唱えるような重々しい声で「ドラマを見ていた」と教えてくれた。

 おじいさま、ドラマとか観るんだな……。

 

「楽しく毎週観ていたのに、くだらん理由で作品を破綻させられるのは許せん。しかも、葉室家の孫に無礼を働いた男が謝りもしないだと?」

  

 おお、怒っていらっしゃる。

 この調子だと、おじいさまは味方してくれそうだ。

 

 やるべきことは多いけど、順番にクリアしていこう。


「王司。頼まれてたモノは部屋に置いたわよ」

「ありがとう、ママ!」

 

 ノコさんのライブも気になるけど、年齢制限付きなのが残念だ。

 若い体になるって、いいことばかりでもないね。


 ――次にすることは、加地(かじ)『元』監督だな。

 あの人、ほっといたら「業界なんてクソ」って言って田舎に帰ってしまいそう。佐久間監督が止めてるかな?


 部屋に戻ってママに頼んでいたブツをとり、執事のセバスチャンの部屋を訪ねる。

 セバスチャンは、またゲーム実況しているようだった。 


メガネ委員長『セバスくん。あたし、そういうの、いけないと思うの……』

『選択肢

1、セバス「そうだね。ボクもそう思うよ。ボクは清く正しくをモットーにしているからね」

2、セバス「お前の意見なんて聞いてない。俺色に染まりな」

 どちらか選んでください』

 

 ポチッ。

セバス『そうだね。ボクもそう思うよ。ボクは清く正しくをモットーにしているからね』

メガネ委員長『えへっ。よかった。あたしたち、気が合うね!』

 

「イエス! 彼女、頬を染めてマス。好感度上がりマシタ!」


 この悪魔、女の子を攻略するゲームしてるよ。

 好みはメガネ委員長か。好感度上がってよかったね。

 とても人間らしい……あと、赤毛が風呂上がりでポタポタお湯を垂らしてる。ちゃんと拭きたまえ。

 江良は髪のダメージケアを結構気にしてたんだぞ。だってハゲたくなくて……。

 

「セバスチャン。髪はちゃんと拭こう。ハゲ予防は日々の積み重ねだよ。頭皮環境に気を付けないと。毛根や毛髪を労わって。睡眠も毛母細胞の分裂のために大事だよ」


 部屋に入ると、配信のコメント欄が目に入る。


:親フラならぬお嬢フラ

:執事のハゲ予防を気にするお嬢様

:王司ちゃん本物?

:なんか虫カゴと虫取り網持ってる

:夜中に執事の部屋に虫カゴと虫取り網持ってくるお嬢様わけわかんねえな

:俺ちょっと睡眠摂ってくる、たぶん疲れてるんだ

:毛母細胞分裂させにいった奴がおるな

:王司ちゃんに脳をやられた犠牲者が……


「マイク切ろうよ。これじゃ私がハゲ予防促進お嬢様みたいになってるじゃない。イメージダウンだよ。セバス君。そういうのいけないと思う」

「失礼。お嬢様。切りマス」

 

 配信を切ってもらったので、本題を切り出そう。

 餌付け用に虫カゴ持ってきたんだ。受け取って。セバス君が大好きな虫さんたちだよ。特別に虫取り網もつけてあげる。


「Is there anything you wish me to do, my lady?」

 来たな。悪魔。

 

「セバス君の好物を持ってきたよ。これでアッポーポイントちょうだい。加地監督の電話番号を頼むよ。メールアドレスでもいいよ。会話させてよ。それくらいならそんなに代償いらないよね? 今すぐだよ」


 不可能を可能にしておくれ。セバス君えもん!

 できれば代償、虫カゴと虫取り網で頼む。


「恭彦お兄さんにあげたアッポーポイントも使っていいよ」

「お嬢様はなぜナチュラルに他人のポイントを使おうと考えられるのでしょう?」

「ジャイアニズムかな……」


 なんだそれは、という顔をしつつ、セバスチャンは電話番号を紙に書いてくれた。


「メガネ委員長を落とせそうなので特別サービスで代償を虫カゴと虫取り網で済ませてあげましょう」


 セバスチャン。

 お前、本気で委員長のこと……。


「ありがとうセバスチャン。お嬢様はセバス君の恋を応援するよ、がんばれ。攻略サイト教えてあげようか?」

「攻略情報には頼りません」

「そっか。いいね、試行錯誤の楽しさがあるよね」

 

 ありがとうセバスチャン。

 ありがとうメガネ委員長。

 ありがとう、この後もしかしたら食べられちゃうかも知れない虫たちよ……。

 君たちの犠牲は無駄にしないよ。


 さっそく、お電話失礼しまーす。夜分すみませーん。絶対出てくださーい。


 電話をかけると、加地『元』監督は出てくれた。微妙に呂律があやしいのは、酔っているのかな。

 

『はい……?』

「あっ、こんばんは、葉室王司でーす。夜分遅くに失礼します。電話に出てくださってありがとうございます!』

『はっ? な、なんで俺の電話番号……』

「怖いですよね、びっくりですよね……すみません。うちの執事が有能で」


 これまで何度もプレゼンした企画の話をもう一度繰り返すと、加地『元』監督は「面白い」と笑ってくれた。

 


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 行動を開始する初日にはセバスチャンと一緒に遠くから見守ることにした。

 

「ターゲットを発見。大型ビジョンに夢中デス」

「恭彦君、持ってるな。自分がいないドラマを観てるシーンから企画映像をスタートできるなんて見守りおじさんもニッコリなんじゃないか」


 セバスチャンと加地『元』監督がこそこそと物陰からターゲットを観察している。


「雨まで降ってきちゃって……」


 加地『元』監督は楽しそうだ。


「俺が最初にかける言葉、決めたよ。じゃ、行ってくる」


 きっといじめっ子みたいなこと言うんだろうなぁ……。


 見守っていると、傘とカメラを持った元監督は恭彦にいたずらっ子みたいな顔で話しかけ、その場から連れ出した。


 そして数時間後、ネットに動画が投稿される。


『上のやり方や業界の理不尽に耐えかねて退職した元監督が、思い入れのある不遇な新人俳優くんに声をかける』


「恭彦君! 俺は君の最初期のひどすぎる下手クソ演技のデータを持ってるよ。一緒に観よう」


 撮り直しされたことで、放送されなかった超棒読み大根演技を再生して、カメラにも映す。


:コレは酷い

:放送の時はマトモだったから、すごい頑張ってマシにしたんだな

:ネタみたいなヘタクソでわろた


「恭彦君、頑張ったもんな。マシな演技になっていっておじさん感動したんだ。君の成長をずっと見続けてきたんだ。俺は未公開のデータ全部、宝物だって言えるよ。もうね、全部見せよう、みんなに。公開許可は取ったんだ」


:なんか始まった

:え、なになに?


「おじさんは君を諦めないぞ。おじさん、会社よりも君を選ぶ。おじさんと一緒に、夢の続きをやろう。君の翔太を最後までやろう。こんなちょっとしたトラブルで才能の芽が摘まれたらダメなんだ……」


 本気度はわからないが、元監督はなかなか熱いことを言っている。


「大人は頑張る若者を応援するのが好きなんだ! 俺に君のことを応援させてくれよ!」


:お、おじさん!

:監督!!

:熱血ドラマ始まった

:これドッキリ?

:おじさんのプロポーズです

:迫真

:青春スポ根するの?

:あのスポンサーに怒られない?

:お気に入りしました

:応援します、がんばって

:応援するよ!

 

 視聴者ウケも良好だ。よし、よし。

 二人とも、頑張って。


 こっちはこっちで頑張るよ……。

 

 私はニッコリとして動画を閉じ、セバスチャンと相合傘で家に帰った。

 明日は学校だ。

 学校に何があるかと言うと、スポンサー各社の令嬢令息たちがいるのである。


 『将軍を射るにはお馬さんから』と言うが、やっぱ親同士で話をしてもらう前段階の仕込みで愛する子供たちからパパとママにお話ししてほしいよね!


 みんなで夢グループしよう。


 パパ〜ママ〜おねがーい。

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