34、今あたしはあなたを想ってる
葉室王司お嬢様を応援するスレ!part43
475:名無しのファン
朝番組に兄妹で出てたよ
ドラマの宣伝してた
476:名無しのファン
「お兄ちゃんと妹は仲良しです!」←可愛かった
477:名無しのファン
お兄ちゃん家出してホテル暮らしだってさ
478:名無しのファン
『業界初・ドッキリ企画が3週連続で裏番組の出演者を追いかける!』だってさ
エンタメニュースで話題になってる
479:名無しのファン
>>478
ドラマの初回3話に被せるって普通に考えたら喧嘩売ってると思うけどなんかすごいことするんだな
480:名無しのファン
予告CMで王司ちゃんが夏祭りでおじさんに尾行されてるんだが
481:名無しのファン
高槻アリサちゃんも一緒じゃん
親が隠してる子だと思ってた
482:名無しのファン
夏休みの家族旅行も一人だけいなかったもんな
483:西園寺冷夏
江良様を祀る神棚できたわ、力作だわ
484:西園寺冷夏
配信でコテハンについて教えてもらったから名前変えてみたんけど、どう?
485:名無しのファン
もう堂々としてるじゃんおばさん
486:名無しのファン
>>484
冷夏=ダジャレ?
487:名無しのファン
西園寺さんは酔ってますね
488:名無しのファン
自分に酔ってるんだよねわかるよ
怖いものは何もないって感じだよね
489:西園寺冷夏
>>485
27歳をおばさん呼ばわりしないでよまだお姉さんよ
490:名無しのファン
あれ?西園寺麗華って24歳じゃなかった?
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
「サバ読んでた?」
自宅の居間でスマホを眺めていた三木カナミは、掲示板アプリを閉じて新作リップを塗り直し、SNSを覗いた。桃の匂いがするリップをつけると、可愛い気分になるから好きだ。
「SNSでも聞いてみよ。『西園寺麗華って27歳なの? 本人が酔って自称したんだけど』……送信。あ、火臣打犬が『ドラマ観る』って顔出しで配信してる……顔がいい」
チラッと配信を見ると、「事案」コメントが並んでいた。
この人たちはファンなのだろうか。すごく面白がられている。
:変態の香りがする
:変態コメント期待してます
:おっさん逮捕されたりしないの?
:今日はワインですか火臣さん
:かんぱーい
:事案配信
:クズだけど顔がいい
:事案
:江良の神棚見せて
今日はもうすぐ、同級生が出演するドラマが放送される。
同じ時間帯の別番組で怪しいおじさんに尾行されたりもしているらしい。
「カナミー、同時録画設定できたぞ」
パパが裏番組のバラエティとドラマを録画してくれたので、安心だ。
「あ、始まった」
「はじまった~」
弟が隣で足をバタバタさせている。パパとママもソファに座って「どの子?」「この子」と興味津々だ。
パパとママは、少し前まで葉室王司について「よくない噂がある子だからなぁ」と言っていたのに、最近は「可愛い」「可哀想だよな」と言うようになっていた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
『鈴木家のお父さんは死にました!』
SNSで毎日騒がれている火臣打犬の腹違いの息子と娘が、ドラマの中で自然な兄妹を演じている。
「お兄ちゃん。お父さんがなんか言ってる~」
「ほっとけよ」
妹キャラがぴったりな可愛らしい王司は、カナミの知っている王司と同じ人物のようでいて、明確に「違う」と思える空気感だった。
ちゃんと、役を演技している。すごい。
「この子たち、演技うまいな」
「お兄さんの方は下手なんじゃなかった? でも、うまいわね」
パパとママが感心しているのを見て、カナミの胸の奥がむずむずした。
この上手で可愛い子と、同じ学校で、いつでも話せる距離で過ごしてる。話したことがある。
そう思うと不思議なくらい自慢したい気持ちになった。
でも、この子にあたしは嫌われてると思う。あたしが性格の悪いことをしたからだ。
……そう思うと、死んでしまいたいほど憂うつな気分になった。
ドラマのお父さんが「うちに居場所、なぁ~い!」と嘆くと、弟が「なぁ~い!」と真似をしている。インパクトがあって、真似が流行りそうだ。
そのお父さんがイタズラを仕掛けようとして「ドッキリを仕掛けてやる」とはしゃいでいる様子は明るくて、「これは気楽に笑って見られるショーですよ」って言われてるみたいで、見てて楽しい。
「裏番組とリンクさせてるのかなぁ」
パパが呟いたのを聞いたカナミは「2つの番組セットで楽しませるショーなんだ?」と思った。SNSを見ると、「#鈴木家」のハッシュタグで大量の感想が投稿されている。
チラッと火臣打犬の配信を見ると、海外リアクター並みのオーバーリアクションで吠えたり暴れたり泣いたりしていた。顔はいいのに、あのおじさんは変態だ。
視聴者のコメントも盛り上がっていた。
:落ち着いて火臣さん落ち着いて
:パパご乱心中!
:興奮しすぎで草
:ドラマより火臣父見てた方が面白いかもしれない
:営業妨害でテレビ局から訴えられてほしい
:通報しました
:通報しました
:変態助かる
盛り上がってるなあ、と観ていると、配信の中でインターホンが鳴った。
警察が訪ねてくるのが映って、カナミは画面を二度見した。
「通報したの誰だ!? せめて最後まで見させろよ!」
火臣打犬が怒号を響かせると、コメント欄は爆発的に沸いた。
投げ銭が大量に投げ込まれていた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
右肩上がりのグラフはいいものだ。金の匂いがする。
「視聴率いいじゃないか」
「当然ですよ」
白シャツの加地と黒シャツの佐久間は、コーヒーで乾杯し、ハイタッチを交わした。
番組視聴率は、共に好調だ。初回から高い数字を出しているが、初回後の感想やSNSでの賑わいを見ての後追い視聴がかなり多い。特に、ドラマの評判がいいのが素晴らしい。
『鈴木家、推せる』
『羽山修士の人がいい感じ、安心感あるよね』
『葉室王司ちゃんが可愛いよ』
『次の国民の妹はこの子かな』
『演技がかなり上手い気がする。上手いよね?』
『下手だと聞いてたけど、火臣の息子うまいじゃん』
『コミカルなのにいきなり泣かせてくるじゃん……』
『この撮影の裏で見守りおじさんが暗躍してたの思い出しちゃって笑っちゃう』
単なる「話題になった」ではなく、「中身が評価されている」のが最高だ。
佐久間君と加地は握手を交わした。
「佐久間君。変なあだ名ついたね」
「名誉称号だと思っています。武器にしますよ」
加地はドッキリ番組の見逃し配信を再生して、佐久間の勇姿を見た。
『王司ちゃんがお友だちと花火を見ています。可愛いです。接近してみます』
『佐久間さん、大丈夫ですか? 不審すぎますよ佐久間さん』
『金魚すくいしているのでさりげなく隣で金魚をすくってみようと思います』
『止まれ佐久間~~!』
『おじさんも失敗しちゃった。これ難しいね……、……、……話しかけたことにすら気付いてもらえませんでした!』
『あははは!』
どう見ても怪しいおじさんが女子中学生を嬉々として追い回す姿は、SNSで面白がられていた。
テロップでしつこいくらい「関係者各位の事務所やご両親に承諾を得て撮影しています」と出しているが、それでも「近くにいる人は問題視しないの?」とか「真似する人が出る恐れがある」とかクレームも挙がっていた。
もっとも、見守りおじさん程度は、火臣打犬に比べれば燃えていないも同然だ。
火臣打犬は、毎回リアルタイムでドラマを見て、ドラマ後はドッキリを見ておおはしゃぎしてくれる。
通報されて警察が来るまでがお約束みたいなエンタメリアクターと化した火臣打犬は、自分の全てを芸に昇華してショーにしてしまう才能があるのかもしれない。
今もSNSで燃料を注いでいる。
火臣打犬:八町大気の新刊を買ったのでイマジナリーフレンズの江良と一緒に読もうと思う
火臣打犬:八町の本は映画化するだろうから江良で当て書きした役は俺がヤる
火臣打犬:心友だからな。心の友って漢字な
火臣打犬:いいか、江良の役は俺のだ。誰にも譲らないからな!
生前、特に親しい仲として知られてはいなかったのに、勝手に心友にしている。
それを指摘する声は多いが、打犬は「俺の中では心友なんだよ!」とキレて迷言集を更新していた。
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【国民の妹】葉室王司ちゃんを応援するスレ!part67
005:名無しのファン
ドッキリって言われて驚いてる王司ちゃん可愛い
006:名無しのファン
びっくりしてるの可愛すぎるだろ
007:名無しのファン
見守りおじさん握手してもらってるやん、よかったな
008:名無しのファン
ノコちゃんとのハグが美しいよ
推しのお姉さんに会えて真っ赤になってる王司ちゃん可愛いよ
009:名無しのファン
新企画発表きた
010:名無しのファン
アイドル!
011:名無しのファン
おお!
012:名無しのファン
アイドルデビュー企画始まるーーーーー!
013:名無しのファン
デュオアイドルですってよ奥さん
相方どんな子になるんだろう
014:名無しのファン
見守りおじさんの私情入りまくった企画大好き
015:名無しのファン
推しの曲が出るだと!?
毎週企画追います
ダメ犬パパのリアクションみにいこ
016:名無しのファン
パパまた通報されてる…
017:名無しのファン
パパまた泣いてる
018:名無しのファン
嘘泣きだぞ
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
「アイドルオーディション……」
三木カナミは発表されたばかりの募集ページを見て、胸を高鳴らせた。
これで採用されたら、自分も画面の向こう側に行ける?
王司の隣に当たり前みたいに立って、「王司の一番の友達はあたし」と言える?
ルックスには自信がある。
歌も、得意だと思う。
ダンスだって、練習すればいけるんじゃないかな。運動神経はいい方だ。
「おねーちゃん。オーディション応募するの?」
弟が覗き込んできて、ハッと正気に返る。
「するわけないでしょ。興味ないし。あたし、勉強で忙しいし。芸能界とか興味ないし」
カナミはドキドキしながら画面を閉じた。パパとママは「挑戦するのもいいんじゃないか」と言っている。
「お風呂入る!」
風呂場の鏡に映った自分を見ると、テレビに出ていた王司と並んでもイケるのではないかと思えてきた。
隣に王司がいると思ってポーズを取ってみる。
二人で片手を寄せて、二人の手が合わさってハートの形を作るのを想像して、スマイルを浮かべると、なんだかそれだけでアイドル気分になった。
あたし、王司のパートナーになれるかも。
「えへへ……」
裸でなにやってんだ、あたしは。
照れながら湯舟に全身を沈めると、ざばーっとお湯が溢れて流れていく。
お風呂から上がったら、応募しよう。
三木カナミは希望に胸を膨らませて歌を歌った。
「♪あれは四角い部屋の灯りだから どれかにあなたがいるのかな」
曲は、伊香瀬ノコの『Path of Light』だ。
「♪今あたしはあなたを想ってる あなたはどう?」
お風呂で熱唱するひとときは、最高に気持ちよかった。