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239/241

238、俺はずっと苗字で呼びますからね

葉室王司ちゃんを応援するスレ!part238

 

519:名無しのファン ID:Z5hQdDdtt

事件直後から祭り状態だったけど勢い落ちてきたな

 

520:名無しのファン ID:i6tx2nT3r

辛いから俺もしばらくスレ見ないようにする

あばよ


521:名無しのファン ID:i6tx2nT3r

放送作家の手記に政治家の加治桐生介の名前が出てて辞職騒動起きてる

前から陰謀論あったけどガチモンの陰謀だった件

 

522:名無しのファン ID:iCYr/QJUK

放送界から政界へとドミノ倒しに汚職が洗い出されていく

世の中どうなっちまうんだ

 

523:名無しのファン ID:/Y19R4wAf

海外の映画監督が親日派になった話する?


524:名無しのファン ID:ZkW8yaN5F

王司ちゃんは今どういう状態なの? 

ニュースも出てこなくなったよねここ数日

 

525:名無しのファン ID:P2owBJ8AU

植物状態だっけ?


526:名無しのファン ID:MYLac0Psm

植物状態ではない

ただ会話とか意思疎通ができないんだって


527:名無しのファン ID:gFzcngiJi

大変じゃん……芸能活動どころじゃないじゃん……


528:名無しのファン ID:B99Tyya09

>>523

この前特番で見たけど、エーリッヒくん演技上手いね


529:名無しのファン ID:ZbThOrJqW

もう葉室王司はおしまいだな

可哀想だけど生きてるだけでもよかったよ 


530:名無しのファン ID:5TkqV/nVg

王司ちゃんってもう治らないの?


531:名無しのファン ID:FWUcAodW5

おい

SNSに八町大気の撮影現場の動画アップされてる


532:名無しのファン ID:9jqboGMjp

もう関係者の動画見るの辛いや

お通夜ムードなんだもん


533:名無しのファン ID:xprBAPYYQ

見ろ絶対見ろ王司が喋ってる


534:名無しのファン ID:AeKY28L/B

え????


535:名無しのファン ID:bgngb3oDf

本当だ喋ってる

 

536:名無しのファン ID:Mmqo0CFy5

引っかけてがっかりさせるの趣味が悪すぎるやめろよ


537:名無しのファン ID:b3Fy80kxs

ガチだって


538:名無しのファン ID:Hhe3+Sgfd

まじだああああああ


539:名無しのファン ID:uqHj5+ONw

俺は絶対動画見ない絶対だ


540:名無しのファン ID:Q+dhed4PX

王司ちゃんが普通にしゃべって笑ってるって!!!

 

   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 ――【エーリッヒ視点】

 

 ――ロサンゼルスで名の知れた若手俳優、エーリッヒ・ケストナーはここ数日撮影に全く身が入らなくて困っていた。

 推しであり片思い相手でもある日本人女優、葉室王司が頭を打って大変な状態だというのだ。

 駆け付けたい。

 しかし、現実はままならない。


 もやもやした気持ち。消化不良のストレス。

 そういったものを匿名掲示板にぶつけてばかりいる。

 反射の速度で思いつく愚痴や不満、苛立ちの吐き捨ては、苦しい気持ちを少しだけ軽くしてくれた。

 しかし、反論してくる奴や気に入らない奴が湧くと、かえってストレスが増える気もする。

 こうなってくると、自分以外の他人と一切関わらないようにお気に入りのアニメや漫画に浸る方がメンタルによいのではないか。


「ヤー、みんな、今日も一緒に人生さぼって俺様とアニメライフしよう」


:エーリッヒ、掲示板に降臨したってまじ?

:学校と俳優業はどうした


「領域展開! 気に入らないコメントは全部ブロックする。ふん。おや、これはまだ見たことがないアニメだな。火垂るの墓……評価高いな」

 

 堂々と配信しながらアニメを見ていると、リスナーが「オージのニュース」を共有してくる。


「いいニュースだけ頼むよ。俺様つらいんだ。みんな、なんで配信でアニメ見てるかわかる? 気にしちゃうけど気にしてもどうしようもないから自分を守るために建設的に目を逸らしたいんだよ」


 ネット上には彼女を心配する文字や動画の投稿があふれていて、日本のニュース動画では頭に包帯を巻いて家族に付き添われて車に乗り込む痛々しい王司の姿が映っていた。

 

「ああ、王司。可哀想に。俺様が代わってあげたい。今すぐ国境を越えてお見舞いに行きたい」

  

 悶々と頭を抱えたエーリッヒのもとに、ジョディが知らせを持ってきた。

 

「エーリッヒ、見て! オージーが撮影に復帰したって!」

  

『葉室王司、撮影現場に復帰! 八町監督の新作、再始動!』


 ジョディがスマホを見せてくる。

 エーリッヒは動画に息を呑んだ。そこには、生き生きとした表情の葉室王司が映っていた。


『誰が話しかけても無反応だった彼女。みんなが心配していた少女に心が戻ったのは、八町監督の思い切った作戦がきっかけだと言われています……』

 

「お、おおーーー、……クール・ヤマチ。彼女が芝居好きだから情動を刺激したんだね。あの子の闘争心に火をつけたんだ。まるでジャパニーズアニメだ。スポコンだ。これがジャパンの努力と根性だ」


:そうか? パワハラじゃん?

:アニメとリアルは違うのでは

:荒療治は賛否分かれる

:日本のアニメって大人でも楽しめるのがいいよね

:俺はアニメ嫌いニキが『進撃の巨人』で泣いたリアクション動画が気に入ってるよ

:アニメだけじゃないぞ。乃木坂のライブ行ったことあるか? ファンの一体感がえぐい

:オタ芸!

: 日本は飯がうまい。ラーメン、寿司、たこ焼き、カツドゥン

:ポケモンサイコー!

: サンリオ知ってる? わたしはハローキティに命かけてるわ!

:『呪術廻戦』で溢れるオレの部屋を見てくれ(写真)

:キャラフィギュアのこだわりが熱い

:日本のエンタメは全部繋がってる感じがするよ

:お前ら『初めてのお使い』って知ってる? 

:知ってる。日本は子どもだけで外を歩けるぐらい安全なんだ

:平和ボケ民族だよ。侵略しよう


 好き勝手盛り上がるコメントを見て、エーリッヒは猫耳カチューシャを装着した。


「愚民ども! ジャパンを舐めるな! 奴らは受験とレスバで育ってる。平和そうに見えても全員が歴戦のソルジャーだぞ! オージを見ろ。あの子は可愛い。可愛いは最強だ! 俺様はすっかり骨抜きにされて台本にオージの絵まで描いてしまった」


:エーリッヒ、台本見せるのは守秘義務契約違反にならないか?

:エーリッヒ、そろそろ仕事しよう

:お前、外に出た方がいい

:日本バンザイが過ぎると鼻に突くんだが

:プロパガンダ反対

:彼はただ好きな子のことを語ってるだけだよ

:イキったガキは嫌いだ

:強い言葉を使うなよ


 コメントに頷き、エーリッヒは立ち上がった。

 

「強い言葉を使うなよ。それ、漫画の名言だ。知ってる。みんなも知ってるよな。みんなが知ってるってすごいことだぞ。俺様もいい演技をしてくる。オージにいいとこ見せるんだ。配信は終わりだ!」



   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆ 

  

 ――【葉室王司視点】


 中学校の卒業式の日。

 

 私は体育館の硬い椅子に座って校長先生の長話を聞いた。

 後ろで誰かがくすくす笑い、隣にいるカナミちゃんがひじでつついてくる。


「王司、泣かないでね」

「泣くにしても、まだ早いんじゃないかなぁ……?」

「あとで写真撮ろう」

「うん、うん。みんなで撮ろう」

 

 ステージの幕に「卒業おめでとう」の垂れ幕が揺れて、窓から注ぐ春の光が床にまだらな影を落としている。校長の話は正直長いけど、最後だから貴重に感じるのが不思議。


 式が終わって外に出ると、新緑の匂いを含む風が私の頬を撫でて爽快に駆け抜けていった。

 

 桜のつぼみが校庭の木にピンク色をちらつかせていて、可愛い。ここは明るくて、心が浮き立つ世界だ。


「卒業おめでとう」

「おめでとう……!」


 校門のところでは、家族が待ってる。


 スーツの袖を直しながら「おめでとう、王司!」って父親気取りをしてくる火臣打犬。

 スルーしていいかな。

 あと、八町大気がいるのはまあわかるとして、なんで海外監督とその子どもたちがいるんだ?


「オージーおめでとー」

「オツカレオツカレー」


 エーリッヒとジョディは微妙に上達した日本語で日本の国旗を振っていた。

 とりあえずお祝いしてくれているのはわかる。ありがとう。


「葉室! これを受け取れ」

「よっくん、LINEしたいんだって」

 

 二俣がQRコードが書かれたカードを手のひらに押し付けてきて、円城寺が「もらってあげて」と保護者みたいな口ぶりで笑う。

 この二人は将来、本当に政治家を目指すらしい。がんばってほしいものだ。

 

「王司、写真を撮るわよ」

「はーい」

  

 私のママは和装がよく似合う。

 スマホを構えて、すでに写真撮る気満々だ。


 門の外には、見慣れた記者たちもいっぱい来ていた。

 みんな親戚のおじさんみたいだ。


「王司ちゃん、卒業おめでとう」

「おめでとう!」


 シャッター音がカシャカシャ響いて、思い出の写真が増えていく。


「そろそろ行こう」


 やがて写真撮影会もお開きになって、赤毛の執事が恭しくドアを開けてくれる。


「お嬢様、ご卒業おめでとうございます」

「ありがと、セバスチャン」

 

 執事のセバスチャンは、最近ようやくドラクエ11をクリアしたらしい。おめでとう。


「王司、またね……!」 

「王司ちゃん、またねー!」

「うん。アリサちゃんまたね!」

 

 車に乗った私は卒業証書を膝に置いて、窓から遠ざかる校舎を眺めた。

 

 桜の木が小さくなっていく。

 車中に流れるBGMは、私がカナミちゃんが歌う新曲だ。

 

 曲に聞きほれていると、打犬がニコニコと話しかけてきた。

 

「三木カナミちゃんは、『ユニバース25』の歌も歌ってるよな。いい声だよな」

「……」

「王司~、打犬さんにお返事なさい」


 いつの間にか、ママは打犬と仲良くなってしまっている。

 昨日なんて「再婚ってどう思う?」って聞いてきたよ。

 世の中の思春期の娘はこんなときどんな対応するんだ。「ママが幸せならいいの」?

 

 ――お兄さんはどう思う?

 

 兄を見ると、スッと視線を逸らされる。


「葉室さん。俺はずっと苗字で呼びますからね」

「こら、恭彦。妹と仲良くしなさい。すみませんね潤羽さん。息子は遅めの反抗期で」

「仲良くしないとは言ってない。名前で呼ばないと言っただけで」

 

 なるほどなあ。

 名前で呼ばないだけで「家族じゃない」って感じが出るわけだ。

 そうかそうか。兄よ。君の心がちょっとだけわかった気がしたぞ。

 

「じゃ、私も今日から恭彦お兄さんのこと、火臣二世さんって呼ぼうっと」

「え?」

「ジュニアの方がいいですか?」

「なぜですか?」


 だって、苗字呼び始めたの、そっちが先じゃん。

 ちょっとした意地っ張りな気持ちが、口元で小さく笑いに変わる。

 

「ほら、二人とも、喧嘩しないのよ」

「そうだぞ。こんな楽しい日に、仲良くしろって」


 陽射しが差し込み、指に光るファミリーリングがキラリと輝くたび、胸の奥がなんだかむず痒く温かくなる。

 

「数日後には『ユニバース25』の完成試写会だね」

「楽しみすぎる!」

 

 新しい日々へと、車は迷いなく進んでいく。

 

 ――未来は、思ったより優しくて、眩しいみたいだ。

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