236、ファンタジー、ファンタジー、ファンタジー
――【????】
真っ白な空間での映画鑑賞は、延々と続いた。
視点はひとりに固定されている。葉室王司という少女だ。
「その紫のクマのチャームと、鹿せんべい、覚えているかな。おじさんが贈ったんだ」
二人きりの部屋で「作曲家Q」を名乗るおじさんが秘密を打ち明ける。
「おじさん、ずっと君を応援してきたんだ。君のためならなんでもできる……覚えておいて。おじさんは、君のためになんでもするから」
おじさんだけじゃない。
おじいさんやお姉さん、同じ学校の男の子が見舞いに来て、たくさん話しかけてくる。
「俺はお前と将来結婚してやろうと思ってるんだぞ」
なんか偉そうな男子が恩着せがましく言うと、友だちっぽい男子が「よっくん、その言い方で女の子の心は掴めないよ」と言って2人はコントみたいに「僕が考えた女子心をくすぐる告白」大会を始めちゃった。
「僕のお父さん、ちょっとずつ支持者が増えてるんだ。地道な挨拶が実を結ぶって、あるのかな。つまり、こうやって話しかけることで君もよくなったらいいなって思うんだけど……僕たち、うざい? ごめんね、葉室王司ちゃん」
見ていて思ったんだけど、人間って、相手の意識が不確かだと半分独り言みたいに、普段だと言いにくいこととかも打ち明ける。
この映画ってそれがテーマなのかな?
「大丈夫です潤羽さん。俺が保証します。俺がついてる……!」
「火臣さん……」
おい、そこの男女。
病室でいい雰囲気出すな。
なんかむかつく。
モニター越しに睨んでいると、男性はカメラ目線になって変顔をした。
「王司ちゃん。パパが元気が出る魔法をかけるぞ。そのふとん……ふっとんだ……!」
うん? なんだって?
「八町大気が学生時代に構想していたテントウムシはテントを産むし、メフィストフェレスが化けている。突拍子がなさすぎてコンテストに落ちたが親友の江良が慰めたというエピソードが有名だ」
なに言ってるかわかんないけど、「テントウムシはテントを産むし」は絶対にくだらないダジャレだ。
「これはどうだ」「面白くないか」と言いながら変なネタと変顔をしている自称パパは、どう見ても変人だった。娘(?)が無反応すぎて痛々しすぎる。
「ひ、火臣さん。もうやめてくださる? 見ててつらくなってきましたわ」
「なっ、泣かないでください潤羽さん!?」
この映画……なんかつらいな……。
しかし、他にすることもない。
映画を鑑賞する自分は、空腹を覚えることがない。睡眠欲もない。
ただ、ずーっと真っ白な空間に存在して、延々とモニターに映る世界を観ている。
彼女は病院から自宅に帰り、数日間自室で寝ていた。
そして、今日は母親に連れられて別の家を訪ねている。
「食事とかトイレとかは自分でちゃんとできるんです。でも、意思表示や感情の動きがないの。病院の先生は、脳震盪後症候群か、解離性症状のどっちかかもしれないって。CTやMRIでは命に関わるようなひどいケガは見つからなかったの。病院にずっといるより日常を過ごした方がいいかもしれないって……」
「誰が何を話しかけても答えないのですか」
「ええ、そうですの。まるで心ここにあらずで……」
母親が訪問先の家主に事情を話している。
テーブルを挟んだ向かい側のソファには二人の男性がいた。
会話を聞いた感じ、黒髪が父親、金髪が息子らしい。
二人揃って美形だな。
「恭彦。父さんたちは今後について相談するから、王司ちゃんを部屋に連れていってあげなさい――音楽鑑賞室なんてどうだ? 自分の曲を聞かせてあげるとか……音楽療法が期待できるだろう?」
「はい」
恭彦に手を引かれて、部屋を出る。
なんだか人が多い。おじさんたちがすれ違うたびに同情的な目を向けてくる。
「うちの音楽鑑賞室は、初めてですよね。こういうのって一度でも行ったことがある場所の方が記憶が刺激されていいんじゃないかな」
「……」
本当にこの視点キャラの王司という子、しゃべらないな。
映画の主人公としてどうなんだろう。
XXに意見を聞いてみたい。
……? XXって誰だっけ?
真っ白な空間で頭をかしげていると、モニターに映る舞台は音楽鑑賞室に変わっていた。防音仕様? 豪邸だなと思ってたけど、自宅に防音の音楽鑑賞室があるってすごいな。
恭彦は音楽プレーヤーでアイドルソングを再生して、王司の反応を探っている。
「あなたはグループのセンターで、どちらかというとご自分は悠然と中心にいて、周りの子たちをニコニコと見ていました。お友だちが大好きで、グループを大切にしているのが伝わってきました。あなたは俺を可哀想だと思っていたようで……俺にも一応プライドがあって、俺は複雑な気持ちに……」
思い出を紐解くように語る声は、痛みをこらえるような響きをしていた。
聞いていると、なんだか胸が締め付けられる。
「あなたが嫌いだったわけではないんです。どちらかというと逆で、俺に懐いてくる妹は可愛いと思いました。ですが、俺の中には素直にあなたを妹だと受け入れたくない部分もあって、嫉妬や対抗意識があって、羨望があって……」
大切な話をしてくれている。
そんな気がして身を乗り出して聞き入っていると、モニターの中の彼はノートを出した。
「俺はあなたと一緒にいても見劣りしない自分になりたくて、必死で。手段を選ばずに変な演技レッスンもして。頭がどんどんおかしくなっていって……もらった演技ノートやピカチュウのファンレターがあなたが書いたみたいに思えてくる瞬間もあって……そんなはずないのに、どうかしてる、頭を冷やそうと思って……」
王司はいつも通りの無反応だ。この曲、母親が自宅で何回も聞かせてるんだよね。
可愛い曲だと思うけど、この子の好きな曲なんだろうか。
一生懸命に話しても暖簾に腕押し状態ってつらいよね。
恭彦、黙っちゃったもん。
「……あとは、伊香瀬ノコとか、no-nameとか……聞きます?」
問いかけても、返事はない。
なにか答えてあげたらいいのに。
「……」
恭彦は無反応に胸を痛めた様子で表情を曇らせ、何曲かの曲を再生した。
どれもいい曲だ。歌っている女性の声がすごく綺麗で、感情が揺さぶられる。
この歌手の人、いいな。好きだな。ずっと聞いていたい。
「なにか思い出したり……しました……?」
曲が終わって、また質問される。しかし、この子は無反応だ。
いい曲なのにな。響かないのか。
静寂が続く室内を見守っていると、恭彦は音楽プレイヤーから離れてピアノの前に座り、両手を鍵盤に乗せた。
――♪
部屋の空気が一瞬で変わった。
まるで時間が止まったかのような静寂が音楽鑑賞室を包み、王司の無反応な視線さえも彼の背中に吸い寄せられるようだった。
ブルグミュラーの『25の練習曲 2、アラベスク』だ。
旋律が、まるで水面に広がる波紋のように部屋を満たす。
音の一つ一つが丁寧で、生真面目な印象。
恭彦の指は軽やかさと力強さを絶妙に織り交ぜながら一曲を弾き切った。
そして、次の曲を奏でた。
これも知ってる。
『風を掴むから』――XXが脚本を書いた作品の主題歌だ。
空が飛べそうな曲。「飛びたいけど飛べない」って空を見てたら誰かが羽をくれる、みたいな。そんな曲だ。なんだか、さっきまでの「好きな曲」とは違う感じで心が惹かれる。
特別な感じがする。
……上手いなピアノ。
このお兄さん、ピアノ弾けたんだ。
「お兄さん、ピアノ弾けたんだ」
思った瞬間、声が出た。
「――今……、喋った?」
ピアノを弾いていた恭彦が手を止めて、とても驚いた顔で駆け寄ってくる。
びっくりするのわかるよ。ずっと喋らなかった子が喋ったんだもんな。
「葉室さん、もう一度? 今喋ってくれましたよね? 俺のことをお兄さんって呼んでくれましたよね?」
手を握って一生懸命話しかけられる。
けど、その後はまた無反応に戻ってしまって、王司が反応を返すことはなかった。
「彼女、さっき俺のことをお兄さんって呼んだんだ。本当に、本当に……」
興奮気味に大人たちに話す恭彦は、関係者の話を聞いていると、どうも王司の兄らしい。
あと、俳優でもあるようだ。それに、見ていると違和感がある。
この人、大人に隠し事をしてる。
ピアノを弾けることを隠してる。
それに、右目がたぶん見えてない……?
――あのときの代償?
ふとそんな思いが湧いたけど、「あのとき」がいつなのか、「代償」とはなんなのか。
思いついた自分がわからなくて、気味が悪い。
大人たちは一瞬でも反応が引き出せたことを喜び、「症状がよくなっているに違いない」と話し合った。希望を抱いてホッとした母親を見ると、「よかったな」という感情が湧いてくる。
王司の周りにいる人たちは、いい人たちばかりだ。
この人たちを喜ばせてあげたいな。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
日にちが経ち、相変わらず人形みたいな王司は映画の撮影現場に行った。
お兄さんの撮影を見学してるんだな。
現場のスタッフたちは王司をとても気遣ってくれた。
「王司ちゃん! 心配してたんだよ」
「喋れないんだっけ……」
美術担当らしきお姉さんが泣いている。優しい人なんだろうな。
あんまり注目されてちやほやと気遣われると、撮影の邪魔なんじゃないかと思っちゃう。
「絶望と愛着が俺の中にずっとある」
恭彦は、主役のようだった。
堂々とした存在感で、長いセリフを響かせている。
「この世界は俺が何をしても無駄だ、生まれたときから詰んでいる。他人と関わらずに育った俺は、社会不適合者だ」
胸の奥がざわざわとする。
自分のことではないのに、まるで自分のことのように共感させられる――いや、自分のことじゃないか?
だって今、自分は真っ白な世界に他人と関わることなくポツンとしている……。
「人生のほとんどがひとりの時間だった俺は、内面では膨大な思索と妄想、反芻をして生きてきた。親や先祖の世代が遺した情報は莫大で、知りたかったことはなんでも調べられる。……この技術があれば、俺は神様になれると思った……」
切なそうな表情。
感情を伝える手の動き。
間合いが印象深い。
ずいぶんと演技巧者だ。
自然で、リアルで、カリスマ性みたいなものを感じさせる。
主役だ。
「この部屋に自分以外の他人がいて、この渦巻く思考を打ち明けて共感してもらったり、議論を交わしたりするといい」
目が合ってどきりとする。
それは、すごくいい。
ずっとそう思ってた気がするんだ。
映画鑑賞は好きだけど、ずっとひとりで見ているだけなのは寂しいって。
他人がいたらいい。他人と話したい。
「外から見える景色の変化を話したり、『今日は天気がいいね』とか、『そこの道に花が芽吹いている』とか、そんなちょっとしたことを話すんだ。俺は他人の手を握ってみたい。手を握ってもらいたい。喧嘩をしてみたい。愛してみたい」
彼の瞳から涙が溢れて、綺麗に零れ落ちた。
――美しい。
カットの声がかかってしばらくの間、現場はその演技の余韻に浸されていた。
「王司さん……、ちょっといいかな……」
撮影をもっと見たいのに、メガホンを持った映画監督らしき男性が声をかけてくる。
監督は助監督に現場を任せて、王司を別の部屋へと連れて行った。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
――【八町大気視点】
江良君が大変なことになってしまった。
僕のせいだ。
発見されたモモの手記には書いてあった。
『八町大気が呼び出していると言えば、僕を心配している王司が誘い出せる、八町大気は不安定で何をやらかすかわからないから、信ぴょう性があって疑われない』
命を取り留めてくれて本当によかった。
――でも、君は。
「僕のこと、わからないのかい」
「……」
椅子に座らせた親友の前に、懺悔するように膝を突いて項垂れる。
「……」
視線は感じるが、親友は何も言わない。
熱いマグマみたいに感情が溢れてくる。黙っていられない。
「痛かっただろ、怖かっただろう。怖かっただろう。僕が守ってあげられなくて、ごめん。ごめんよ、江良君。僕、君の保護者をずっと気取ってきたのに――僕は何もできない役立たずだ……」
苦しいから吐き出す。そんな懺悔だ。
それって、それって……逃げみたいだ。
誠実なふりして、自分のためでしかない。
「――……ふう……っ」
息を吸って吐く。
声を発して伝えないと、伝わらない。
言葉の形にしても、わかってもらえるとは限らない。
「江良君。僕、ずっと思ってたよ。みんな、僕の脚本と銅親絵紀君の脚本が並んでいても、名札がなかったら著者の区別がつかない。なのに名札を付けると僕の方を褒めるだろう。……もしかしたら今は銅親君が褒められるかもしれないけど。みんなきっとわかってない。でも、僕も僕がわからなくなる。僕の良さってなんだろう。八町大気という4文字が勝手に評価を底上げしているだけなんじゃないか。名札がなくても僕だとわかって評価される良さって、あるんだろうか。それがファンタジー?」
悪いこと、ルール違反、タブー破りをするとわかるだろうか。
自分の殻を破りたい。
そう思った。けれど、なにをしても自分は結局自分で、破るべき殻すら見えない。
「ファンタジーって君たちは言うじゃないか。でもその部分って、当時の僕はボロクソに叩かれてたよ。プリントアウトまでした。見る?」
君たちがファンからの感想をリストアップして見せてきたとき、僕は好意を喜びつつ、反感を覚えていたんだ。
『倫理的にどうなんだろうと思ってしまう』
『独りよがりな自慰作品』
『結論が弱い』
『若さを感じる』
『子ども向けだけど子どもには難解』
『描写不足が説得力を下げている』
『誰が見ても傷つかないように配慮をすべき』
『ごちゃごちゃしていてプロット整理の必要がある』
『ポテンシャルは高い。暴れ馬みたいな若く手未熟な才能だ。もっと大人になれ』
「僕ね、考えていたことがあるんだ。『受賞と死去って最強だよな』って。賞を取ったら、それまで批判されていても、優れている作品に変わるんだ。死んだら、それまで石を投げていた人たちが石を投げられる側になる」
僕は死のうと思った。
だらだらと生きて、メッキが剥がれるように評価を落としていく人生よりも、落ちかけの時期に「もう終わりだな」と結論を出される直前に死んで「遺作に彼の全てが詰まっている」と評価されて名を残す方が八町大気というブランドが美しく遺せる。
江良君もそうだ。江良君はここ数年、「そろそろ青年役は卒業」「歳を取ったな、もうおじさんだ」「恋愛ドラマに出ても無理すんなって思っちゃう」なんてアンチの声があった。
周りの人たちは「その代わりに今まで演じられなかったパパ役とかおじさんの役ができるようになるよ」なんて励ましていたけど、君は嫌だったんだよね。僕はそれを知っていたよ。
江良君。君は、そんな微妙な時期に亡くなった。
君は永遠にファンの中でロマンスの対象になるイケメン俳優として生き続けるだろう。
【僕が死んだら、君は僕が君の死を嘆いたのと同じように悲しんでくれる?】
それを想像したら気持ちよくなれた。
君がいっぱい泣いてくれたらいいなと思ったんだ。
「僕は自分が恥ずかしい。僕は自分が醜くて、情けなくて、埋まってしまいたくなる――君がこんなときに、ファンタジーで君を救うこともできずに自分のことばかり」
まるで子どもだ。
僕は君を導く神様みたいになりたかったのに、こんなにみっともない。
「ファンタジー、ファンタジー、ファンタジー。なんだよ、そんなの、子どもにやらせろよ。ピーターパンじゃないんだぞ。僕はもう大人で、世の中の酸いも甘いもわかってしまって、ここから何を夢見たらいいかもわからない。子どもの空想を子どもだなと言いたくなるんだ。オワコンとか言うなよ。46でオワコンになって、残りの人生をどう消化試合しろと言うんだよ……――ああ! 今の状況でこんなことを言ってる僕は最低だ。わかってる、わかってるんだ!」
こんなことを言っても仕方ないのに。
今の君に言うことじゃないのに。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
――【????】
真っ白な空間にいるのがもどかしい。
だんだんと、そんな思いが強くなってきた。
だってこの人、苦しんでいる。
助けてあげたい。
この人のことを知っている気がする。強くそう思う。
なんとかできないだろうか。
きっと、ずっと誰にも言えなかった追い詰められた真実の想いが今、聞かされているんだ。
映画の中の人にこんなに「どうにかしてあげたい」と思うのは変だろうか。
でも、なんだかだんだんと――これは映画じゃないんじゃないかって思えてくる。
この葉室王司って、動かせないのかな。
動いてほしいな。
意思表示をしたいんだ。
できないかな。
動け、動け。
励ますんだ。
話を聞いてるよ、理解してるよ、味方だよ、って伝えるんだ。
この人には、それが必要なんだ。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
――【八町大気視点】
「……僕は何をしてるんだろ。本当に、みっともない」
自己嫌悪でいっぱいになって項垂れていると、空気が動いた。
「……」
ハッとして顔を上げると、『葉室王司』が椅子から立ち上がっていた。
どうしたの?
僕が嫌だった?
ごめん、江良君。僕がストレスを与えてしまったよね?
おろおろとしていると、彼女はテーブルに置かれている指揮杖に手を伸ばした。
そして、指揮杖を持って窓際に向かった。
「え、江良君……いや、王司さん……?」
ネガティブに刺激しないよう気を付けながら様子を窺っていると、彼女は曇り空をじっと見上げている。
「王司さん、空が気になるのかな? お天気が気になる……?」
そっと声をかけると、彼女は指揮杖を空に向けた。
すると、まるでその杖の動きで動かされたみたいに雲がゆったりと動いて、隙間から青空を覗かせた。
『八町。見て。あの空を晴らすよ』
「……!」
展望台で言った親友の言葉が思い出される。この子は、僕を励まそうとしてくれたんだ。
すごいな、君は。
あのときもタイミングが絶妙だったけど、曇天を晴らしちゃってさ。
ぞくぞくするじゃないか。
くるりと振り返った親友は、雲を晴らした指揮杖を僕の手に握らせた。
思い出すのは、江良君を音楽鑑賞会に連れていったときに指揮者が格好いいと言っていたこと。
ハリーポッターを観た時に杖が格好いいと言っていたこと。
「ファンタジーだな。君がファンタジーだ。僕、本当にそう思う」
晴れ間から注ぐ陽射しが葉室王司の輪郭を縁取るように照らしている。
なんて神秘的なんだ。
「ああ……閃いた。思い出した。この感じだ。懐かしい。僕、こんな衝動に突き動かされて作品作りをしてたんだ」
ワクワクする。
インスピレーションが降りてくる。
「僕のファンタジーは、君だ!」
気が焦って仕方ない。
このアイディアを形にしなきゃ。
それが僕の使命なんだ。
「こっちに。こっちにきて。王司さん。君のその状態を、僕に撮らせて。僕が撮る。僕が君を全世界に見せるんだ。後世に伝えよう。今のこの瞬間の感覚を――100年、200年後まで、作品の形で残すんだ! 君の人権なんて知るもんか」
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
――【????】
「君の人権なんて知るもんか!」
わあ、この人クズなこと言ってる。
でも、生き生きしてる。
さっきの打ちひしがれて追い詰められた感じより、全然いいや。
……動けって言ったから、王司は動いてくれたんだろうか。
動かそうと思ったら、王司は動かせる?
自分は何者なんだろう。この映画は、一体なんなんだろう。