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196、モモと少年とテントウムシ

 ――『特集:業界を動かす女性たち』


「画面の裏から輝きを届ける放送作家・モモ」


 現在、女優・西園寺麗華(27)のYouTubeチャンネルが、登録者数200万人を突破し、次々とバズ動画を生み出している。

 新時代を牽引するスターとの呼び声の高い葉室王司(15)を発掘したのも、西園寺麗華の動画企画だ。

 当時の企画動画は再生数が200万を越え、今なお伸び続けているという。

 その成功の裏に、放送作家・モモ(30)の存在があるのをご存知だろうか?


 彼女はテレビ業界出身の実力派でありながら、麗華の親友として頻繁に動画に登場することでも注目を集めている。

 モモは一体どんな女性なのか。

 今回のインタビューでは、彼女の仕事への思い、業界での経験、そして座右の銘について語ってもらった。


「放送作家の仕事は裏方じゃない」


――モモさんは元々テレビ業界でキャリアを積まれていたそうですが、現在のYouTubeという場での仕事にどんな魅力を感じていますか?


モモ:

最初は正直、YouTubeを侮っていた部分もありました。

でも、麗華のチャンネルを通じて視聴者の反応がダイレクトに返ってくる感覚を知って、「こんなに面白い世界があるんだ」と気づきました。

テレビは最近はオールドメディアとか言われていて、どうしても利権を意識してしまったり、視聴者との距離が遠くなりがちですよね。YouTubeはスピード感があって自由度が高い。SNSもリアルタイムでナマの声が飛び交っている。

こういう時代に動画のアイデアや構成を練る仕事は、放送作家としての腕が試されます。本当にやりがいがありますね。


「親友でパートナー――麗華との関係」


――女優・西園寺麗華さんとの関係がとても特別に感じられます。お二人はどうやって出会ったのでしょうか?


モモ:

出会いは数年前、テレビドラマの現場でした。

当時私は新人放送作家で、慣れない現場でミスというか……責任を押し付けられて困っていたんです。

その時、麗華が味方してくれて。録音があったんですけど、「録音あるでしょ」と指摘して一緒に聞いてくれて、私が悪くないことを証明してくれました。その出来事がきっかけで連絡を取り合うようになり、気づいたら親友になっていたんです。


――今では麗華さんのYouTubeチャンネルを支えるパートナーにもなっていますね。


モモ:

麗華のチャンネルは完全に二人三脚で作っています。

彼女が華やかな部分を担当して、私は企画を練ったり、裏で支える立場。

動画に出演することも多くて、視聴者の皆さんから「モモさんがいい味出してる」ってコメントをもらうと、やっぱり嬉しいですね。これ本当に不思議なんですけど、視聴者が親友や家族みたいに思えてくる瞬間があるんですよ。


「座右の銘:不幸になる人は自分から不幸になる」


――モモさんの座右の銘が「不幸になる人は自分から不幸になる」だとお聞きしました。その言葉に込めた思いを教えてください。


モモ:

これは私自身の経験から来ています。

あの新人時代のトラブルの時、私は「どうしてこんな不公平な目に遭うんだろう」と自分を哀れんでいました。

でも、いろんな現実を見聞きするうちに視点が変わったんです。

「自分が持っているカードをどう使うか」が大事で、状況を他人や環境のせいにしても何も変わらない。

結局、自分の心のありよう次第なんだなって。もっと過激なことを言っても許されるなら、「こんなことをしたら破滅するよ」っていう選択の道が目の前に分岐しているときに、そっちに行っちゃう人のことを反面教師みたいに思っています。そうは言っても、人間、感情的な生き物なので、破滅に向かってしまう瞬間もあると思うのですが。


――モモさんの成功には、その前向きな姿勢が大きく影響しているんですね。


モモ:

まあ、失敗もたくさんしていますけどね(笑)。

ただ、その失敗を次にどう活かすかを考えるのは、どんな仕事でも大事だと思います。


「男性が苦手」


――モモさんは「男性が苦手」とおっしゃっていますが、その理由をお聞きしてもいいですか?


モモ:

うーん、理由らしい理由はないんですが、子供の頃から男の人と話すのが苦手でした。

親戚のおじさんとか、体も大きくて、声が普通に話してても怒鳴り声みたいに聞こえたり、立てる音も大きかったり、威圧感があって怖い存在で。いい人だったんですけどね(笑)学校や職場でも、そのへんの道端でも、なんとなく怖い存在のままイメージが定着しちゃいましたね。ネットのコミュニティとかでも、「ヤれない女は女じゃない」とか「女は感情の生き物で頭が悪い」とか女を引っかけてヤる話ばっかりしてるのを見たりして、「あー、男性ってこういうことを考えて生きているんだ」みたいな。

本音トークアプリとか見ても、色眼鏡が補強されていくものだから。

大人になってもその傾向が変わらず、職場でも女性が多い現場のほうが落ち着きます。

でもその分、女性同士の信頼関係を築くのが得意になった気がしますね。


――かなり踏み込んだ答えですね! 掲載して大丈夫ですか? 男性ファンが減ったりしません?


モモ:

いいんじゃないでしょうか。今の世の中、なにを言ってもどこかの誰かに「気に入らない」って怒り出す人はいますよ。本当の気持ちを言って「気に入らない」ってなる相手って、本音を隠して付き合い続けても辛いだけじゃないですか? 「そういう価値観なんだね、それはそれとして、これからもよろしくね」で付き合える人を大事にしたいと思います。


「未来の目標とこれから」


――最後に、モモさんがこれから挑戦したいこと、未来の目標を教えてください。


モモ:

放送作家として、もっといろんな形でコンテンツ作りに関わりたいです。

麗華とのYouTubeも、次は海外の視聴者に向けた企画をやりたいと思っています。

それと同時に、女性が活躍しやすい業界作りにも少しずつ貢献していけたらいいですね。


――本日は貴重なお話をありがとうございました。これからのモモさんの活躍を楽しみにしています!


編集後記


自分らしく、自分のカードを最大限に活かす。

それがモモさんの生き方だ。彼女の力強い言葉は、読者の心にも確かに響いたはずだ。

どんな逆境でも、前を向いて歩く姿勢を見習いたい。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

 

――【葉室王司視点】


 浴衣といえば黒髪がイメージされるが、私を先導する兄、火臣恭彦は金髪に浴衣が似合う青年だ。

 しかし、表情は暗い。

 このお兄さんはちょっとしたことで雨に濡れたチワワ化する人なので、普段通りと言えばそれまでだけど。


「葉室さん。パトラッシュには親父の相手をさせているのですが、カメラを借りてきました。あと、ノートパソコン。簡単な設定での即興劇(エチュード)を配信したいのですが、付き合っていただけますか?」

「展示室で? いいですけど……」

「助かります。葉室さんは演技がお上手ですし、可愛くて人気があるので」


 褒めてくれたじゃないか。なんか、この兄に真剣に褒められるとちょっと照れるな。

 

「そうだ、恭彦お兄さん。さっきの雑誌の放送作家さんのインタビュー見ました? 私、知らなかったんですけど、麗華お姉さんの放送作家さんって男性があまり好きじゃないみたいですよ」

「そうなんですか? じゃあ、その方に近寄るときには気をつけます」

 

 思い返せば、江良の体のときに距離感を感じる対応をされたことがあったかもしれないなあ。

 嫌われてたんだ。

 ノコさんといい、男ってだけでうまくいかないことがあるもんだ。

  

 展示室に向かっていると、八町からメッセージが届いた。


八町大気:江良君。SNSで君が火臣さんに誘拐されたって話題になってるよ

葉室王司:誘拐はされてないよ、八町

八町大気:あとなんか『スキーヤー女子必見! 王司流・可愛い転び方! みんなで真似しよう!』って記事出てるんだけど


 SNSは情報が早いな。どれどれ。

 おお、いろんな角度からの写真が投稿されている。スキーヤーのみなさんが撮ったんだな。

 

葉室王司:転び方は自分でも可愛いと思う

葉室王司:そうそう、私が宿泊する旅館、八町の黒歴史ドラマの展示やってるんだ

葉室王司:これから展示を見に行くから、写真撮って送ってあげるね


 『少年とテントウムシ』は、八町が関わっている作品の中でも黒歴史と言われているドラマだ。

 

 江良が知っている知識としては――まず、八町は当時、自分が監督をやりたかったんだ。

 でも、当時の八町は知名度や実績がいまいちだった。

 なので、渋られていた。

 そこに、亡きベテラン監督が名乗りをあげたわけだ。「自分がその脚本撮るよ、商業的に成功させるよ」と。

 ベテラン監督は、八町が助監督として何度か仕事をしていた先輩だった。

 「八町が監督をするならゴーサインは出せないが、ベテラン監督がメガホンを取るなら企画を通す」と言われて、八町は煮え湯を飲んだわけだ。


 しかし、この撮影中にベテラン監督は不祥事をやらかしてしまい、大炎上。

 彼は業界から追放され、作品のことも話題に出してはいけない空気になってしまった。

 この出来事は八町の心に影を落とし、それ以降、作風が変わったと言われている。

 

「旅館の女将さんが、八町先生のファンらしいです」

「へえー。あとで写真送るから、教えてあげましょうかね」

 

 展示室は、こぢんまりとした四角い部屋だった。

 

 壁にはドラマ『少年とテントウムシ』の記事やドラマシーンの写真や、八町が書いたという『万物皆虚幻、万法本源為佛性』という書道作品が飾られている。健命寺を背景に八町が微笑んでいる写真付きだ。若い。

 あと、部屋の中央には、作中に出てくる青薔薇のアーチがドーンと立っている。


「わあー、ドラマに出てきたアーチだ」


 感慨深く見入っていると、恭彦はふと不思議そうに問いかけてきた。

 

「そういえば、葉室さんは『少年とテントウムシ』を観たことがあるんですか? あれ、ネット配信や再放送がされていないドラマですが」


 そうか、私の年齢的に「リアルタイムで観てました!」って、おかしいのか。


「八町先生が『お勉強用に』って見せてくれたんです」

「ああ、そうなんですね」


 よし、誤魔化せたぞ。

 このお兄さんは誤魔化しやすくて助かる。

 あまり他人の言うことに疑問を持たないんだ。善人だよなあ。

 


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