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【完結】俳優、女子中学生になる~殺された天才役者が名家の令嬢に憑依して芸能界に返り咲く!~  作者: 朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます!
3章、人狼ゲームとシナリオバトル

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192、大晦日と都市伝説

 12月31日――大晦日は、二俣(にまた)夜輝(よるてみ)に招待されたパーティに参加した。

 

 本日の私は、ハイウェストのカクテルドレスに身を包んでいる。

 上半身が黒で、背中の青い編み上げひもがキュートな印象。 スカートは腰から足元に向かって夜明けを迎える藍色で、星と月の形をしたスパンコールがきらきらしている。苦手なヒールは低めで、可愛いパーティ衣装だ。

 

 会場は、帝国一済(ていこくいちず)ホテルの2階。

 

 足元は重厚な赤絨毯で、天井は煌びやかなシャンデリア。

 料理は運ばれてくるタイプ。

 会場の一部にダンス用のフロアがあって、社交ダンスを楽しめる。

  

 招待客は財界の要人もいれば芸能界や政界の人もいる。

 知っている顔も多くて、八町(やまち)大気(たいき)がピアニストの化賀美(かがみ) 速人(はやと)と一緒にいる。あの二人、友人関係なんだよね。

 あとは、西園寺(さいおんじ)麗華(れいか)と放送作家のモモさんに……えっ、伊香瀬(いかせ)ノコがいる。

  

 驚いている私に、二俣(にまた)夜輝(よるてみ)が声をかけてきた。

 黒を基調としたタキシードを身にまとい、中学生とは思えないほど堂々とした雰囲気を漂わせている。

 

「葉室。逃げずに来たことを褒めてやろう」

「あ、二俣さん。本日はお招きありがとうございます」

「俺が招待した女はお前だけだ。光栄に思え」


 偉そうだなあ。

 でも、耳が赤くて照れてるっぽいし、なんか子供っぽくて愛嬌を感じるんだよな。

 

 二俣は手を差し伸べ、ダンスに誘ってきた。

 踊るの?

  

「あの、断ってもいいですか?」

「ああ、お前は女性のステップがわからないんだろう。俺がリードするから問題ないぞ」

「へえ……」

 

 大した自信だ。ダンス得意なの?

 ちょっと興味があるな。

 周りにもペアがたくさんいるし、それほど失敗をおそれずに気楽に踊れそうだ。


「じゃあ、ちょっとだけ、お試し程度に」

 

 軽く会釈をしてからポジションを整えたタイミングで、曲が始まる。

 ゆったりした優雅な曲だ。THE・社交ダンスって感じ。

 

 二俣のリードは迷いがなくて、踊りやすい。

  

「どうだ。踊りやすいだろう」

「そうですね。リードがお上手なんだなーって思います」

  

 右足を前に、左足を後ろに。私のステップに合わせて、スカートがふわっ、ゆらっと揺れるのがわかる。

 このスカートはそもそも、動くときれいなんだよ。

 スカートの星のスパンコールが煌めくんだ。映えるってやつ。


 ダンスフロアを旋回するときに、他のぺアが目に入る。

 群れて泳ぐ回遊魚みたいだな。


「葉室。そろそろ慣れてきただろうから、俺の本気を見せてやる」

「ちょっ、二俣さん……」


 二俣は大胆なステップを仕掛けてきた。

 そういうことするなら、こっちだって男側のステップで対抗しちゃうぞ。お前が女になれ。


「あっ、おい。なに男のステップ踏んでるんだ葉室。俺をリードするな」

「さあ、あっちに抜けますよ二俣さん。ついてきてくださぁい」

「お前、俺をリードするなって」


 軽やかな音楽と共にフロアを駆け抜けると、自由な感じがする。

 私のリードは完璧だ。

 懐かしいな。西園寺麗華とも踊ったことがあったよな――遠くのテーブルに彼女が見えて、懐かしくなった。

 ドラマだっけ。社交ダンス部の設定でさ、「先輩、練習しましょう」って楽しそうに言ってきてさ……。

 当時、ドラマの脚本を書いていた放送作家のモモさんが男性嫌いで、しかも麗華とかなり仲がよくて、「あまり密着しないでください」とか「プライベートで誘ったりするのはダメですからね」とかしつこく言ってきたんだっけ。

 

「葉室。曲はもう終わりだ……」

「あっ。ほんとだ」

  

 ラストのターンを終えると、曲が静かにフェードアウトする。


「いいか葉室。俺は父親と挨拶周りしてくる。あとで都市伝説スポットを案内してやるから休んで待ってろ」

「主催者側は大変ですね。お疲れ様です、二俣さん」


 ダンスが終わって解放された私に、八町が声をかけてくる。友人の化賀美(かがみ) 速人(はやと)も一緒だ。


「江良く……王司さん。アグレッシブなダンスだったね。今年はいろいろなことがあったけど、君と年末の挨拶ができてうれしい。よいお年を。来年もよろしくね。あっち、合流する? なんか呼んでるっぽいけど」

「こちらこそ、八町先生。よいお年をお迎えください。……あっち?」


 示された方向を見ると、西園寺麗華が放送作家のモモさんと一緒に手を振っていた。

 手を振り返して視線を彷徨わせると、気になっていた彼女が見つかる。


「私、ノコさんに挨拶してきます」

「ああ、うん。君はそうだよね。知ってた。僕は邪魔しないよ。ゆっくりお話しておいで」

 

 ちょっと迷ってから伊香瀬ノコに挨拶すると、彼女は以前より元気そうな笑顔で「話しかけてくれてうれしい」と言ってくれた。黒い髪がさらさらと揺れて、きれいだな。 


「王司ちゃん、大活躍してるよね。テレビや配信で見るたびになんか嬉しいなーって見てるよ」

「ほんとうですか? わ、私も……」


 Vtuberのno-nameについての話ってしない方がいいんだろうか。

 

「ノコさん、えっと……ノコさんが中の人って言われてるVtuberのno-nameって人を知っていますか? 私、その人が新しいドラマの主題歌を担当するって聞いて、嬉しいんです」


 反応を探り探り言ってみると、ノコさんはにっこりとしてくれた。


「ありがとう。no-nameは、私よ」

「あっ。やっぱり。私、声ですぐわかって……ファンだから……前、別の映画の主題歌をしたときも、最初『この歌を歌っているのは誰でしょうか』ってドッキリみたいに質問する企画があったと思うんですけど、そのときもファンはみんな、すぐわかったんですよね。もちろん、私もですよ。わかるんです、なんか特別だから」


 うまく言葉にならないなりに一生懸命伝えると、ノコさんは頭を撫でてくれた。

 香水、変えたんだな。しっとりした大人な香りだ。


「王司ちゃんは本当に可愛いなあ。江良さんと同じことを言ってくれるんだね。懐かしくなっちゃった」


 そういえば、江良のときも似たことを言ったかな?


「王司ちゃん。このゼリー美味しいのよ。食べてみて~」

「いただきます」

 

 ノコさんとご馳走を楽しんでいるうちに、あっという間に楽しい時間が過ぎて行った。

 

   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


「じゃあね、王司ちゃん」

「ノコさんとお話できて嬉しかったです!」

  

 帰る時間になり、ノコさんにお辞儀をして会場を出ると、階段の手前に二俣がいた。


「葉室。俺はお前が伊香瀬(いかせ)ノコと楽しそうにしているから、話しかけるのを遠慮していたんだ。彼女は俺たちのクソネーム仲間だから、本当は俺だって話してみたかったのに」

「二俣さん。クソネーム仲間ってなんですか?」

「お前は俺のことをすっかり忘れて帰ろうとしたばかりか、クソネームの記憶もないのか」

  

 二俣は「はあっ」とため息をつき、私の手を引いて階段をエスコートしながら『クソネーム仲間』について教えてくれた。


「俺とお前が前、話したんだ。俺たちの名前、親のセンスが最悪だよなって」

「ええ……? いい名前じゃないですか」

「お前は、『江良(えら)九足(くそく)伊香瀬(いかせ)ノコもセンスがいまいちだけど本人たちはあのネーミングが気に入ってるって公言してる。しかもみんなに愛されてて、成功してる人たちだ』と言ってた」

「いまいちって。いい名前じゃないですか? 伊香瀬(いかせ)ノコさんなんて、逆から読むとコノセカイですよ。私は好きですよ」


 心の底から言うと、二俣は「それだ」と頷いた。

 

「俺はお前の言葉に救われたんだ。俺は自分の『ミテルヨ、タマニ』が親からの軽いネグレクトメッセージだと思って気にしてたんだ。たまにってなんだよって」

「確かに。いや、でも二俣さん。『がっつりいつも見てるよ』って名前でも、それはそれで嫌ですよ。ストーカーになっちゃう」

「お前は、『自分たちはクソネームという共通点があって仲間だ』と言ったんだ」

 

 そうなんだ? 名前ひとつで人は仲間になれるんだな。

 江良のネーミングには八町も「くそくらえ、なんてよくないよー」とか言ってたけど、ネーミングセンスひとつでも誰かの救いになれてるなら、よかったよ。


「ちなみに、葉室。あとで案内すると言っていた都市伝説スポットは、この階段だ」

「おお……?」


 階段、もう降りちゃったけど。なに? 一段多かったり少なかったりするとか?


「いいか、葉室。手すりの装飾にあるへびの目に触ると、知られたくない隠し事がばれるんだ。気を付けろ」

「二俣さん。触らせてから言わないでくれます?」

「それと、葉室。階段を登っているときに呼ばれても、返事をしてはいけない」

「降りるときはセーフなんですか?」

「うむ」


 二俣はどやっとした顔だ。

 こいつ、お化け屋敷でかなりビビりだった気がするけど、実は怪談好きなの?

 

「二俣さん、それでは私は、これで。楽しいパーティでした。よいお年を。また来年」


 この日何度も挨拶した「よいお年を」を言ってお辞儀すると、二俣は満足そうに「またな」と送り出してくれた。

 階段の上で円城寺(えんじょうじ)(ほまれ)が手を振ってるや。 

 円城寺もまたね~。

 

 ……すっかり「友達」って感じになったな。いい友達だよ。

 

   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

 

 家に帰ると、和風メイドのミヨさんとセバスチャンが年越しのごちそうを用意してくれていた。

 テレビは大晦日の特番を垂れ流していて、男性グループのAXEL(アクセル)7(セブン)が歌っていた。


 メンバーの中でも人気の高いトーヤは汗に濡れた前髪をかきあげ、カメラ目線でママからの「格好いいわね」というコメントを引き出している。

 

『今年は俺たちの真似をした女子セブンが出てきたが、あんな可愛いモンスターに俺は負けない!』


「王司。トーヤ君が言ってる女子セブンって、もしかしてLOVEジュエル7のことかしら。可愛いモンスターですって。王司のことだったりしないかしら?」

「いやー、まさか。中学生をライバル視するわけないよ」

「そうよねえ。あら、SNSで『トーヤ、意味不明』って言われているみたい」

「トーヤって人、たぶんそういうちょっと変なことを言う天然キャラとして売ってる人なんじゃないかな?」

 

 歌番組が進む中、ママはニンテンドースイッチとノートパソコンを持ってきた。

 飼い猫のミーコがいつもと違う雰囲気を感じてか、興奮気味に走り回っている。落ち着いて。

 

「王司。これからあちらのご家庭と、モノポリー配信をするわよ」

「うん?」

「1戦だけだから、すぐ終わるわ。あちらからのご提案で、GASへのアピールですって」

「へえ……ゲームするだけでいいの?」

 

 ノートパソコンを見ると、火臣家の配信が映っていた。

 記者たちや江良組の俳優たちが集まって、宴会をしている。みんな酔っぱらって踊ったり歌ったりの混沌とした配信だ。


『これから葉室家のお二人とオンラインでモノポリーをするよ~』


 テンションの高い火臣打犬と、どこか困惑顔の火臣恭彦が画面に映っている。

 このカメラワーク――パトラッシュ瀬川(せがわ)が撮っているな。

 

『王司ちゃん。モノポリーやったことあるかい。パパが教えてあげるよ。人生は勝ち負けではないと』


 いや、これ「人生は勝ち負けではない」ってゲームじゃないだろ。相変わらずつっこみたくなる奴だな。

 

「セバスチャン、代わりにプレイしていいよ。私は観てるよ」


 うちの執事はゲーム好きなんだ。

 モノポリーを遊ぶ家族を観戦していると、LOVEジュエル7のメンバーが「配信観てるよー」とメッセージを送ってきた。

 グループチャットがあっちもこっちも年末の挨拶で盛り上がってるや。


月野(つきの)さあや:今年一年おつかれさま꒰( ˙ᵕ˙ )꒱

三木(みき)カナミ:王司ー、あたしたちもモノポリー配信しよー!

高槻(たかつき)アリサ:お兄ちゃんが「来年もよろしく」だって

こよみ(きよみ):彼氏とデートしたよー

緑石(ろくいし)芽衣(めい):うちは両親が最近仲良しです。お正月も3人で出かけるんだって

葉室(はむろ)王司(おうじ):それ、たぶんいいことだね、芽衣ちゃん?

緑石芽衣:親が仲いいの嬉しいです

月野(つきの)さあや:よかったね꒰( ˙ᵕ˙ )꒱

五十嵐(いがらし)ヒカリ:みんな、来年はライブもあるわね( ゜д゜)!

こよみ(きよみ):デビュー&解散ライブ…… 

五十嵐(いがらし)ヒカリ:がんばろう( ゜д゜)!

三木(みき)カナミ:おー!

 

 西園寺麗華からも「パーティではお話できなかったわね」とメッセージが来ている。返信しておこう。

 佐久間監督や加地監督、佐藤マネージャーからもだ。星牙からも来てる。


「お嬢様。負けマシタ」

「あ、うん。セバスチャン、おつかれさま」


 メッセージに夢中になっていると、いつの間にかセバスチャンが負けていた。


「お風呂タイムのあと、そばタイムデス」

「はーい」

 

 ママと順番に入浴を済ませると、セバスチャンはえび天が載った年越しそばを作ってくれた。


 そばを啜り、寝る時間になり、この体で迎える初めての大晦日は幕を下ろした。


 寝る前にスマホを見ると、八町からメッセージが届いていた。


八町大気:来年は映画を撮ろう


 そうだな、八町。来年も撮ろう。

 今年一年、お疲れ様。

 

よいお年を!

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