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18、ドッキリ制作班の現場から

 ――【ドッキリ制作班の現場から】

 

 キーボードの音が響く作業室で、映像データの編集作業が行われている。


 編集中の画面では、可愛らしい浴衣姿の女の子が2人、花火大会の会場を歩いていく。

 高槻(たかつき)アリサと葉室(はむろ)王司(おうじ)だ。

 

「2人が浴衣で金魚すくいにチャレンジ中。見るからにお嬢様な女子中学生に振り返る通行人……」


 アナウンサーの声の最後に「あはは……!」というガヤの音声を加える。


 通行人が振り返る時の会話もバッチリ撮れていた。


「あれ、葉室王司ちゃんじゃない?」

「ガチ?」


 この2人の通行人のセリフを文字にして表示する。

 

 テンポよくアナウンサーの声を追加。

「護衛の人たちも心配そう……」

 

「あ、金魚逃げちゃった」

「王司ちゃん! これ私のお気に入りのハンドクリーム。シェアするね」


 画面には2人を遠くから身守る佐久間ADの姿に切り替わり、アナウンサーの声が響く。


「女子中学生を見守る怪しすぎるおじさんと化したAD佐久間――」


 スタジオの画像がポップアップで、お笑い芸人が「事案やぞアイツ」「怪しすぎるわ!」と茶々を入れた。


 アナウンサーの声が続く。


「事案寸前! 通報されたら即終了! 番組の命運を賭け、命懸けの尾行は続く」

「もう終わっとけ!」

 

 スタジオのつっこみに合わせて効果音付きでテロップを入れる。


『事務所と親御さんに許可を取って撮影しています』


 企画概要は『新人子役の追っかけと化した佐久間ADがギリギリ怒られないラインを守りつつ子役を見守るおじさんとなる。

他局でのドラマ撮影現場にも許可を取って潜入しちゃうぞ』。

 

高槻(たかつき)アリサちゃんが友達だとは、王司ちゃんは話題性に事欠かないな」とは、番組関係者の共通見解であった。

 

 高槻(たかつき)アリサちゃんは、歌舞伎役者が浮気して産まれた不義の子だ。

 

 アリサちゃんを産んだときに浮気相手の女性は亡くなってしまい、アリサちゃんは父親に娘として認知された。

 高槻家に引き取られ、血のつながらない母親や腹違いのお兄ちゃんと暮らしている。

 お兄ちゃんとは仲がいいが、両親とは微妙な関係らしい。

 

 高槻家の公式ブログや動画チャンネルには、アリサちゃんはほとんど出ない。 

 

 出さないでいると「家族なのに除け者にされてて、アリサちゃん可哀想」という声が出る。


 しかし、アリサちゃんを公式ブログや動画チャンネルに出すと、今度は「アリサちゃんを見ると浮気騒動を思い出す」「浮気されてしまったお母さんが可哀想に思えてしまう」と言われてしまう。


 しかも、アリサちゃんは幼い頃にお兄ちゃんと一緒に歌舞伎ごっこに夢中で、将来は歌舞伎をやりたいと言っていたようだが、歌舞伎の世界は女人禁制の長い歴史を持つ。

 女性が歌舞伎をするハードルは、まだまだ高い。

 

 そんなわけで、アリサちゃんは現在13歳に成長しているが舞台に出たこともなく、お芝居の夢は諦めたーーと伝えられている。


 そんな彼女が、新人スターで天才と言われている葉室王司と一緒にいる。


 思春期の女の子同士、きっと互いに多くの影響を与え合うだろう。


 もしかしたら、アリサちゃんと王司ちゃんが二人でお芝居をする日も来るかもしれないぞ……!

 

 

   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 ――【王司視点】

  

 期末テストの結果が返ってきた。

 平均して97点なら上出来ではないだろうか?


「俺の勝ちだ」


 学年1位の二俣(にまた)夜輝(よるてみ)は、全科目満点らしい。

 漫画に出てくるキャラみたいな奴だ。


 二俣はわざわざこちらの教室にやってきて、私の机の前でドヤ顔をしている。

 もちろんニコイチの円城寺(えんじょうじ)(ほまれ)も一緒だ。

 

 リアクションを欲しがっているんだよな、わかるよ。

 今日はそんな欲しがりの二俣のために、アリサちゃんと一緒に考えたハンドサインを披露しよう。

 

 両手の人差し指を同時に立てる。『2人』という意味だ。

 立てた指を仲良く一緒に、教室の入り口に向けて倒しましょう。クイッ。

 これは『2人とも、お帰りください』という意味である。

 

「全科目満点の1位はすごいですね。おめでとうございます」

 

 クイッ。『2人とも、お帰りください』。

 

「ふん。当然だ。(ほまれ)は葉室に負けて3位とは情けないな」

「ごめんね、よっくん。葉室王司ちゃんはすごいね。2位おめでとう」

 

 二俣=よっくんなの? 可愛い呼ばれ方されてるじゃないか。

 よし、ちょっと怖くなくなってきたぞ。

 クイッ。『2人とも、お帰りください』。

 

「葉室。その可愛い合図はなんだ?」

「なんでもありません、よっくん」

「俺をよっくんと呼んでいいのは誉だけだ。二度と呼ぶな」

 

 あっ。威圧感と殺気がすごい。


「しゅいませんでした……」

 

 ハンドサインは伝わらなかったが、授業開始の時間が迫ってきたので、2人は帰ってくれるようだった。

 背を向けて教室の入り口に向かう2人の会話が聞こえてくる。

 

「あいつ俺を馬鹿にしたぞ。なんだあのハンドサイン」

「あのハンドサイン、1位と2位になれて嬉しい♡ って意味じゃないかな? よっくんが好きなんだよ。仲良くなりたいんだ。可愛いね」


 そんな意味じゃないよ!? 


「勘違いしないでください! そんなんじゃないですから! 好きじゃないですから!」


 立ち上がって全力で否定すると、大声に教室中の生徒がビクッとした。

 全生徒の注目が集まる中、二俣は驚いた顔をして数秒黙ってから、頷いた。


「お前の気持ちはわかった。もう何も言うな……こんなところで恥ずかしいだろ。ばか」


 おい、目を伏せて恥じらうな。

 嬉しそうな顔するなよ。お前は絶対わかってない。

 

 クラスメイトが「きゃー!」とか言ってる。

 やめて? 騒がないで?

 

 円城寺は絶対、確信犯だ。腹を抱えてげらげら笑っている。

 絶対楽しんでる。ひ、ひどい。

 

 誤解を解くチャンスを与えられないまま、夏休みがやってきた。

 夏休みは長いし、勘違いされたことも休みの間に忘れてもらえるかもしれない。期待していいかな……?


 夏休みの予定を整理しつつドラマの台本を読んでいると、セバスチャンが頼んでいた情報を持ってきてくれた。


 分厚い紙の資料に、USBメモリと、情報量が多そうだ。


 がんばってくれたらしい。褒めてほしそうな顔をしている。

 なんか床に手をついて這いつくばってる。なんだあのポーズ?

 

「オダイカンサマ」


 あ~~、時代劇? 

 

「よくやったぞセバスチャン。褒めてつかわす」

「ハハアー、アリガタキ幸せ」


 なんて嬉しそうなんだ。


「今から資料を見るから、座っていなさい」

「ハハアー、アリガタキ幸せ」


 忠実な執事を床に座らせて、私は真実に手を伸ばした。

 俳優の仕事をしていると、たくさんの資料に目を通して理解するっていう作業がよくある。

 好奇心が満たされるし、楽しい作業だ。

 知らなかったことを知るのは、気持ちいい。どれどれ~?

 

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