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【完結】俳優、女子中学生になる~殺された天才役者が名家の令嬢に憑依して芸能界に返り咲く!~  作者: 朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます!
3章、人狼ゲームとシナリオバトル

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179/241

179、このクラスには†漆黒の堕天使†がいる


「おはようございます、お嬢様」


 葉室家の執事セバスチャンは、シェアハウスの間はちょっと大変だ。

 生活拠点は今まで通り葉室家で、登下校の送迎をするためにわざわざ『ひだまり荘』まで送迎に来ないといけない。


「セバスチャンおはよう。送迎大変だよね、お疲れ様。あ、郵便物も持ってきてくれたの? ありがとう」

「こちらはママサンからの変態撃退スプレーです」

「ああ、うん。スプレーもありがと」

 

 車に乗り込むとき、エーリッヒがこっちを変な顔で見ていた。

 何かとてもびっくりしたような顔だった。口がパクパクと動いている。うん――「マーカス」って言った気がする。


「セバスチャン。マーカスバレしてない?」

「気のせいです、お嬢様」


 気のせい扱いされちゃったよ。いいのか、それで。

 車に乗り込んで郵便物をチェックすると、西の柿座経由で送られてきたお知らせ書が目を引いた。


============

 

葉室王司様


平素より多大なるご協力を賜り、厚く御礼申し上げます。

この度、貴殿のご尽力により、国際指名手配犯を無事逮捕するに至りました。

その功績を称え、以下の通り表彰式を執り行う運びとなりましたのでご案内申し上げます。

 

============

 

「おぉっ……映画の製作費が増えるよ、八町~」


 詳しく読んでみると、八町演劇祭で偽マーカス捕縛に関わった役者たちが集団で表彰されるようだった。

 日にちはまだ先だ。

 犯人逮捕の寄与度や証拠を審査した結果、偽マーカス捕縛劇の第一功績者は葉室王司だと決まったようで、懸賞金ももらえる。

 2.5億だ。すごいなあ。

 しかしこれ、独り占めするには金額が大きいよね。あのときは役者仲間みんなが協力して捕まえたからなあ。独り占めは心証を悪くしてしまいそうな気もする。

 

 演劇祭のときに作った役者仲間とのグループチャットを見ると、皆に表彰の知らせが届いているみたいで、「お知らせが届いた!」「表彰されるってー」と和気あいあいとしていた。

 よし、決めた。

 演劇祭の仲間全員で懸賞金を分かち合おう。役者もスタッフも、もちろん幹部たちも。

 

 妬み(そね)みは、いちいち気にしていたらキリがない。

 何かを成し遂げたときにセットで付いて来る成功税みたいなものだ。

 でも、時には「ここでこういう立ち回りをすると気に入らないと思う人もいるだろうな。でも、違う立ち回りをしたら回避できるな。しかも自分の株を上げることだって出来ちゃう」という肌感覚みたいなものを感じる瞬間もある。

 今回は、それだ。

 八町の映画の製作費を考えるとお金はあった方がいいが、演劇祭は成功していて、利益を上げている。

 なので、ここは自分の分の懸賞金が減るデメリットよりも好感度を取ろうではないか。

 

葉室王司:懸賞金は山分けにしましょう! もちろん八町先生やスタッフさんや劇団長たちも!

葉室王司:年末に全員でパーッとお祝いとかどうですか?

 

TAKU1:おおおおおお!?

さくら落者(らくしゃ):え、まじ? 大金でしょ?

星牙:さすがお嬢! 気前がええな! 

兵頭(ひょうどう):いくらもらえるんでしょうか? もしや、仕事辞めても生きていけるようになったり?

緑石(ろくいし)芽衣(めい):うれしい。お母さんが喜ぶ

 

 おっ。芽衣ちゃんが喜んでる。

 お母さんとは最近どうなんだろう?

 うまくいってるといいな。

 世の中の全員が幸せ、なんてありえないけど、縁があって親しい関係になった人たちは幸せになってほしい。


 ちなみに、アリサちゃんもお家の車に送ってもらっていて、すぐ後ろに車が続いている。

 

 中学校の門の前で車から降りてアリサちゃんと合流すると、学校の生徒たちが待っていた。

 車から降りると、わっと囲んでくる。賑やかだ。

 

「おはようございます!」 

「王司ちゃん、おはようー!」

「配信観たよー!」

  

 皆シェアハウスの配信を観たらしい。

 「あれってヤラセなの?」とか「実は台本があるの?」とか「本当は撮影終わったら帰宅してる?」とか「誰狙い?」とか聞いて来る。


「ヤラセじゃありませーん。台本もないよ。本当にシェアハウスしてるよ」


 賑やかなのは、嫌ではない。

 シェアハウスの話をしつつ教室まで行き、いつも通りの日常が始まった。

 授業中はメモが回ってきて、「ステイインラブ、誰が好き?」とか書いてある。

 てっきり私だけが答えるメモなのかと思いきや、メモを回した男女が推しの名前を書いているのが面白い。

 寄せ書きみたいだ。

 「アリサちゃん」って書いとこ。

 おや、もう一枚回ってきた?


『レン様に近付いたら呪う †漆黒の堕天使†より』


 ち、近づかないよ。誰だよこれ書いたの。

 †漆黒の堕天使†ってなに? 

 ハンドルネーム? 中二病なの?


 誰が回したのか知らないが、このクラスには†漆黒の堕天使†がいるんだなぁ。

 メモにお返事を書いて次に回そう。


『レン様に近付いたら呪う †漆黒の堕天使†より

 ↑このクラスに堕天使がいるなんてびっくり。どうして堕天したのかな? 葉室王司より』

 

 書けた。アリサちゃん、どうぞー。

 

「ふっ……、くくっ……」


 あ、アリサちゃんが笑ってる。面白いよね。

 アリサちゃんはメモに書き足して、次に回した。

 メモはどんどん教室内を巡り、最終的には先生に没収されていった。


 回覧メモの弱点は、自分の元に再び巡ってくる前に没収されたら誰が何を書いたのかわからないことだな。

 グループチャットならわかるのに。でも、チャットでは味わえないスリルと人間味があっていいと思……、


「葉室、にやにやするな。ちゃんと反省するように」

「はい」


 私が悪いの?

 いや、でもメモが発生する原因は私だったか。

 うん――いや、でも、私が悪いの……? 違くない?


 私はちょっとだけ理不尽な気分になった。


「せんせー、葉室さんはどっちかというといじめられそうになってたんじゃないかと思いまーす。だって、レン様に近付いたら呪うって、脅しだもん」


 あ、廊下側に座ってた女子が手を挙げてくれた。

 委員長も「同感でーす」と言ってくれる。


 ありがとう、クラスメイトたち。

 ところで、†漆黒の堕天使†って誰なんだろう……。

 

   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

  

 †漆黒の堕天使†という中二病なクラスメイトが存在することが判明しつつ、授業は平穏に過ぎて行った。

 

 休み時間になると、別のクラスからカナミちゃんのお友だちグループもやってきた。

 仲がいいのか、いじめなのか微妙に判別つかないような騒ぎ方してた子たちだ。

 

 そういえばカナミちゃんは今日、見かけないな。

 チャットも無言だ。


「カナミが可哀想。カナミ、今日休んでるんだよ」

「えっ? なに? カナミちゃんお休みなんだ?」

高槻(たかつき)さんとばかりてぇてぇしてるの酷いと思う。もっとカナミとてぇてぇしてあげて」

「ええ……?」


 あれか? 「三人組で二人だけ仲良くするの禁止」みたいなやつ?

 なんかすごいことを言ってくるんだな。さすがカナミちゃんのお友だちだ。

 

「カ、カナミちゃんとも仲いいよ。チャットとかもよくしてる。プライベートで」


 夜寝る前に「おやすみ」ってスタンプを送り合ってるチャットログでも見せてあげようか――と、スマホを見て、通知に気付く。

 

「あっ?」


 ネットニュースがバズってる。

『LOVEジュエル7の炎上担当・三木カナミがカラオケバトルで予選突破、年明けに予定されている地上波生番組での決勝に向けて意気込みを語る!』

 

「み、みんなー! カナミちゃんがバズってるよ!」


 大声で言うと、びっくりしてる。


「今度は誰の悪口書いたの?」

「また訴えられた?」


 みんな、カナミちゃんをなんだと思ってるの? 

 そっちのバズじゃないよ!

 

「え、うそ! カナミが……っ、炎上じゃない方のバズり方してる……っ!?」

  

 カナミちゃんのお友だちは、なんと目を赤くして涙を流した。

  

 カナミちゃんのグループは、ちゃんと友情がある関係なんだな。

 カナミちゃん、お友だちに愛されてる――。

 

 私はハンカチを泣いている子に渡し、自分でも優しいと感じる声で言った。


「よかったね、カナミちゃんいつも頑張ってるもんね。メッセージ送っとこう。おめでとうーって」


 なんか、自分がすごく穏やかで優しい女の子になれている。

 

 友達の成功が嬉しい。友達が愛されていて嬉しい。

 そんな喜びが私を優しくしてくれているんだな。

 つまり、カナミちゃんのおかげだ。カナミちゃん、ありがとう。


葉室王司:カナミちゃんおめでとうー!

  

 みんなに見守られながらカナミちゃんにメッセージを送ったタイミングで、ちょうど休み時間の終わりを知らせるベルが鳴った。いいタイミングだ。

 ベルが鳴ったので、教室に戻ってくださーい。

 

 休み時間ごとに生徒がやってきてワイワイ騒ぐ賑やかタイムは続き、最終的には、先生が「ほどほどにな」と注意してきた。

 先生を連れてきたのは海賊部の男子たちで、先頭でふんぞり返っているのは二俣(にまた)夜輝(よるてみ)だ。

 先生より偉そう。二俣は腰に手を当てて、先生より長々とお説教を始めた。

 

「みんな、浮かれすぎている。距離感を大事にしろ。芸能人を気にするな。スマホを断て。学業と自分の未来を見つめろ。葉室、これは俺のLINEアカウントのQRコードだ」

「二俣さん、私はスマホを断つのでQRコードは遠慮しておきますね」

 

 二俣とフレンドになるリスクを回避してスマホの電源を切ろうとした間際に、通知が見えた。


三木カナミ:王司ありがとう!

三木カナミ:嬉しい!


 わー、カナミちゃんが喜んでる。お返事しよっと。


「おい、葉室。スマホを断つんじゃないのか」

「二俣さん。もうちょっとだけ」

「断てない奴は皆そう言うんだ」

 

葉室王司:カナミちゃんのお友だちがカナミちゃんのこと心配してたよ 

葉室王司:ネットニュース見て喜んで泣いてたよ


 これで、よし。顔を上げると、円城寺(えんじょうじ)(ほまれ)が正面にいた。そして、リラックマのメモ帳をくれた。


「葉室王司ちゃん」

「あ、はい」

「これ、僕のアカウントだよ。フレンドになってね。ブログの話とかしよう。よっくん、そろそろ時間だし、僕たちも教室に戻ろうね」


 円城寺はふんわりとした美少年スマイルで話を切り上げ、二俣を引っ張って去って行った。

 

 やっぱり円城寺、掛け算で左になるタイプだ。私は円城寺x二俣派閥に戻ります。

 あとでカナミちゃんにも報告しとこう。



読んでくださってありがとうございます。

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