169、田中君って誰だっけ
心霊写真の話題が出ると、何人かがチラチラとこっちを見る。あいつのクラスだ、って目だ。
うん、その通り。
「うちのクラスだよー。お祓いしたよー。その後は何もないよー」
私が言うと、アリサちゃんも「これだよ」と写真を出した。すぐ写真出せるのすごいな。
集合したクラスメートの真ん中に置いた日本人形が黒くもやもやっとしてる写真は、いつ見てもオカルトだ。
オカルトと言えば、指輪が溶ける動画送ったのに八町は反応を返してこなかったな。この写真も送ってやろうか。
八町〜、現実には不思議な現象があるんだよ〜!
「うわー、ガチだ」
「祟られてる」
「田中じゃね?」
「おい、やめろ」
写真を見てみんなが騒ぐ中、アリサちゃんはサッと別の写真を見せた。
「これね、家に帰って見せたらお兄ちゃんがお祓いしてくれた写真」
アリサちゃんは隙あればお兄ちゃん語りだ。
どれどれ?
これは……高槻大吾が神主さんっぽい衣装を着てお札を書いてる写真だ。
さらに、完成したお札の写真……。お札には『アリサをよろしく』と書いてあった。うーん、この。
「ブラコン……」
「シスコンだ……」
みんなが言ってるから私の感想は正しいようだ。
高槻家に負けてはいられない。
私も何かお家の写真を見せよう。何がいいかな。猫?
「見て見て。これ、うちの猫。ミーコだよ」
「猫だ~、可愛い」
よし、みんな猫に釣られたな。次はママだ。
「こっちはペンライトをダーツだと言い張るママ」
「葉室、勉強始めるぞ。親離れしろ」
二俣。まだ写真には続きがあるんだよ。次は兄の写真だったのに。女子が喜びそうなのがいっぱいあるのになあ。
「みんな、葉室に惑わされるな。後半戦を開始する」
「別に惑わしてないのに」
勉強会の後半戦は、みんなよく集中していた。
私も集中できたので、気づいたら試験範囲の問題集が終わってた。いいことだ。
「おつかれー」
「外が真っ暗~」
来たときと同じように、みんなして車に乗り込んで相乗りで送られていく。
私も、アリサちゃんやカナミちゃんと一緒の車だ。
「葉室王司ちゃん」
車に乗る寸前で、声がかけられた。
円城寺誉だ。仲間とわいわい過ごして、ちょっと元気が出たのかな? 表情が明るい。
「円城寺さん、今日はお疲れ様でした」
自分でも無難すぎると思う挨拶をしたところ、円城寺はにっこりと微笑んだ。
チョコレート色の髪が夜風にさらさらと靡いて、お姉さんが10人いたら9人が「可愛い」と褒めるような美少年ぶりだ。
「他の子に聞いたんだけど、僕のお父さんを励ましてくれたんだよね? ありがとう」
「私は、二俣さんや円城寺さんが言ってたことを伝えただけですよ」
事実をそのまま言うと、円城寺は眩しそうな目をした。
「葉室王司ちゃんって、謙虚だよね」
おお、褒められた。謙虚かどうかはさておき、悪い気はしないな。
「葉室王司ちゃんは、褒められるのも好きだよね。可愛い。芸能人に向いてる子って感じがするよ」
「それは褒め言葉ですよね? ありがとうございます?」
「田中君のブログって見たことある?」
田中君のブログ? なんだろう、と首をかしげていると、円城寺は小さなメモを渡してきた。
ほう。リラックマか。好きなのか?
「URLを書いておいたよ。仲良しだったよね? 気が向いたら、どうぞ」
「ほう……? ありがとうございます?」
田中君って誰だっけ。
ブログ?
よくわからないまま車に乗り込み、帰宅してから思い出した。
田中たけし君――王司の友達だ。あの子、ブログやってたんだ……?




