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【完結】俳優、女子中学生になる~殺された天才役者が名家の令嬢に憑依して芸能界に返り咲く!~  作者: 朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます!
3章、人狼ゲームとシナリオバトル

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168、二俣邸のトイレがすごい

 二俣邸の玄関ホールに足を踏み入れると、まず目につくのはキラッキラのシャンデリアだった。


「うわあ、やばい。高そう。落ちてきたら人が死ぬ。あたし、王司を突き飛ばして守る役するね」

「カナミちゃんはどうしてシャンデリアが落下する想像をしてるの?」

 

 案内されたのは、東側の棟の2階。大きな会議室みたいな部屋だ。


「東棟は来客向けの部屋が並ぶ棟なんだ」

 

 二俣の部屋に通してくれるわけじゃないんだな。ちょっと見てみたかったのに。

 窓の外には、木々の紅葉が見えた。その景色を背負うようにして、二俣は私たちに号令をかけた。


「さあ、勉強を始めるぞ」

 

 広い部屋なので、海賊部とアイドル部が全員椅子に座れる。大会議って雰囲気だ。

 議長は二俣だな。

 二俣はタブレットをテーブルに置いた。

 

「いいか、みんな。これは『勉学は最強の遊びだ』がキャッチフレーズの勉学系YouTuberの学人(まなと)ニキによる『一緒に勉強・作業会』配信だ。今日は全員でこれに参加する」


 勉学系YouTuber?

 タブレット画面を見ると、ポモドーロという文字が書いてあった。

 集中する時間と休憩時間を繰り返すんだってさ。へえ~。開始前のコメントが賑わってる。


:よっすー

:明後日テストあるー

:これ何時まで?

:自分の馬鹿さがいやになる

:がんばろう

:テスト先週終わったけど勉強する

:これ何時まで?

:休憩挟みながら1時間だよ

:お腹すく

:みんなシャーペン何使ってる?

:俺はモンスト周回しながら応援する係するからよ

:数C、化学、生物します!


 普段こういう配信を観ないから、新鮮だな。

 

 スマホで検索すると、同じ動画チャンネルが出てきた。フォローしておこうっと。

 周りを見ると、他のみんなも同じ考えのようだ。自分のスマホで動画チャンネルを検索している。

 みんながスマホを弄り出したのを見て、二俣はWi-FiのIDとパスワードをノートに書いて配ってくれた。それに――、


「失礼いたします」


 二俣家のメイドさんがワゴンを押して紅茶とスコーンのおもてなしをしてくれるではないか。

 スカートが長い英国風クラシックメイド服だよ。我が家の和風メイド服もいいけど、二俣家のメイド服も趣味がいいな。


「お坊ちゃま、こちら、お持ちいたしました」

「うむ」

 

 二俣はメイドさんから赤い法被(はっぴ)を受け取り、いそいそと羽織った。その法被、何かあるたびに着てるな。ラッキーアイテムか何か? 鉢巻(はちまき)までしちゃって……。

 

 時間になると、学人(まなと)ニキがコメントを出した。

 

学人ニキ:みんなでがんばっていきましょー!おー!LINEでお得な情報も発信してますので、画面のQRコードから是非友達追加もお願いします! 


 顔出しなんだ、このニキ。

 何歳だろう。20代~30代?

 プロフィールがなんかすごい。『株式会社MANABE CEO、東大医学部在学中に司法試験に一発合格。自己啓発系や当代一発合格ニキが語る云々系の書籍があれこれ発売中。最強の履歴書を作るために各種難関資格試験に挑む!』だって。

 

「なんかすごい人だね」

 

 二俣は配信にコメントをした。


よっくん:俺たち、元解放区の中学生グループです。全員で期末試験の勉強します。

  

 あ、コメント欄が「解放区だ」とざわついてる。

 覚えられてるんだ、解放区中学生。爪痕を残したってやつだな。

 でも、画面の中のニキは真剣な表情で何かを勉強していて、コメント欄を見ていない。

 

 二俣はそれを見て「ニキを見ならえ」と会議室のメンバーを鼓舞した。

 

「この配信は雑談交流する場ではない。誘惑に負けず、それぞれが己に勝つ。負けそうになったとき、ニキが戦ってる姿を見て『俺も負けないぞ』と心を奮い立たせる。チャット欄で雑談してしまっている奴を見て『俺は負けないぞ』と反面教師にする。そんな場だ――説明終わり。よし、取りかかれ!」

 

 二俣が王様の声で言うと、みんなはそれぞれの勉強に取り掛かった。

 人がいっぱいいるのに、誰もしゃべらない。すごいな。テスト中の教室みたいになってるじゃん。

 じゃあ、私も勉強するかー。数式解くかー。


 カリカリカリカリ。ペラっ。ぱらり。

 静かな室内に勉強の音だけが響く中、少しして誰かが呟いた。男子の声だ。


「ピストンってえろいよな」


 おい、何を勉強してるんだ。女子がいるんだぞ。

 私がびっくりしていると、二俣が注意してくれた。

 

「タツヤ? お前……みんなの集中を乱すどころか下ネタとはどういうことだ」

「すいません二俣さん。気象観測と雲のでき方のページで、雲をつくる実験図にピストンが出てきて、つい」

「女子がいるんだぞ。下ネタは厳禁だ」


 二俣は呆れたように言ってタブレットに指を滑らせた。

 何をするんだ――みんなが集中するふりをしながらコソコソと目をやっている。あ、コメントを投稿してる。


よっくん:タツヤが実験図を見て「ピストンがえろい」と言い出した。次やったら俺はタツヤを勉強会から追放する。


「つ、追放される! お許しください二俣様!」

「よっくん。それ、配信のチャットで宣言する意味あるの?」

「休憩しましょう二俣さん。集中切れました」

「まだ始まったばかりなのに……」


 海賊部の男子メンバーがワイワイ騒ぎ出した。誰が何を言っているかわからない。こうなると、もうだめだな。


「ちょっと男子~!」


 おっと、アイドル部の女子からお約束みたいなセリフが出たぞ。

 これはもうダメだ。勉強会は学級崩壊します。


「本当にすみません。彼女は募集中です」

「みんな、タツヤに負けるな。集中だ」

 

 集中力を乱されながら勉強を続けるうちに、アラームが鳴った。休憩時間だね。

 

「よし、10分休憩ののち、後半戦だ。みんな、英気を養うんだ」


 二俣は何と戦ってるんだろう。

 疑問に思いつつ、私は席を立った。トイレを借りるためだ。実はちょっと我慢してた。

 いつも思うんだけど、この体はトイレが近いんだよね。

 来客向けの部屋が並ぶ棟だからか、トイレは個室が多くて助かった。

 大行列になって順番を待つのは辛すぎる……。あれ、女子たちが騒いでるぞ。

 

「王司やばい、二俣邸のトイレまじやばい」

「どうしたの? カナミちゃん」

「みてみてみて」


 女子部の子たちも「みてみて」と言ってくるので尿意を我慢しつつ覗いてみると、見たことのない白い装置みたいなのが壁についていた。なんだろう。

 というか、先に用を足してからじゃだめかな、みんな? 

 私は今、我慢してるんだけど? 漏れちゃうんだけど?


「トレルナっていうんだって、王司ちゃん」

「う、うん」


 アリサちゃんが説明してくれて、カナミちゃんはスマホでアプリを見せてくれた。

  

「アプリをインストールして、QRコードを読み取ったらね」

「うん、うん」


 アリサちゃん、カナミちゃん。私ね。今ね、ちょっとね。

 

「無料でここからナプキンがもらえちゃうの。すごいよね」


 すごいね。あのね、すぐそこにある便座がね、私を待っているんだよね。

 

「わあ、すごい……あのね、アリサちゃん、カナミちゃん。すごいのはわかった。あのね……私、ちょっと……おしっ……トイレ」


 漏れちゃうよ。涙目で言うと、二人はわかってくれた。

 

「あっ。ごめんね王司ちゃん。してきて……」

「ごめん王司ー!」

 

 くっ……恥ずかしい。

 

 もじもじしながら個室に閉じこもると、なんだか外の子たちが無性に気になる。

 ドアの板を一枚挟んでの距離が、こう……「音が聞かれたら恥ずかしいな」と思ってしまうのである。

 男のときには気にしなかったものだが、これは肉体に引っ張られての意識変化だろうか……。

 

 しかし、二俣邸の来客用トイレには音姫も完備されていて、ぽちっと押すと音が出る。

 ああ――解放感。

 ありがとう二俣邸。私は二俣を見直したよ。すっきりだ。

 

「ふう……」


 漏らさなくてよかった――手を洗い、廊下に出ると、大人の来客グループがいる。

 大人たちも休憩時間とかなのだろうか?


 円城寺のお父さんもいるみたいだ。白髪が多いが、チョコレート色の髪がよく似ている。

 親子って不思議だなあ。

 

 二俣は「選挙に落ちた」って言ってたけど、このお父さんは政治家で、企業の顧問みたいな重役でもあるんだっけか。

 家庭では、養子の善一によかれと思って優しくしていたら脅されるようになっちゃったんだっけ? 

 善一の件はやっぱり影響してるんだろうな……。

 

 円城寺のお父さんは、見るからに元気がない。

 痩せたし、顔色も悪いし。

 なるほどなあ、父親がこんなんじゃ、息子の円城寺誉も元気をなくすわけだよ。

 

 カナミちゃん、アリサちゃんを始めとしたアイドル部の女子たちは大人たちに気付いて顔を見合わせている。

 あのグループの傍を通らないと、会議室に戻れないからだ。

 

「なんか、真面目なお話してるっぽい」

「お辞儀して、そーっと静かに通り過ぎよう」

  

 みんなで固まってそーっとそーっと近づいていくと、会話が聞こえてしまった。

 

「二俣さんは諦めるなと言ってくださったのですが、やはり善一の件は親の責任が大きい。世間様に大変なご迷惑をおかけしたのは紛れもない事実。人前に出ることも憚られるような申し訳ない身の上です。このような私が……おや、君は……」


 円城寺のお父さんが、ふっと言葉を途切れさせた。

 お、重い話をしてたところを邪魔してしまったー!

 恐々と頭を下げると、目が合った。


「葉室王司さん……」

「あっ、あっ、はい」


 円城寺のお父さんは、近くで見ると頬がこけていて、まるで病人のようだった。


「以前は、善一がご迷惑をおかけして本当に申し訳なく……誉にもよくしてくださって……ありがとう……」


 なんだか声を詰まらせて言うので、はらはらしてしまう。

 

 弱ってる。追い詰められてる。疲れ切ってる……この人はきっと、今日までずっと思い悩んできたんだろうな。

 当然、善一の件では世間から激しく叩かれてきただろうし。

 やらかした養子に対しても思うことはいっぱいあるだろうし。

 

 じ――……自殺とか、しないだろうな?

 心配になっちゃうな。

 八町という前例があるからな……。

 

「い、いえいえ。えっと……『過去よりも未来を見つめろ』と、二俣さんや円城寺さんがこの前、私に言ってくれました。私はいい言葉だなーって、思いました……」

「息子が、そんなことを?」

  

 円城寺のお父さんは、目をぱちぱちと瞬きさせた。

 そして、ぎこちなく笑顔を作ってくれた。

 元(?)政治家のくせに、作り笑顔が下手だな。不器用な感じだ。

 

「……ありがとう、葉室王司さん」

 

 いちいちフルネームで呼ぶのが、息子と似てるや。親子だな。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 思いがけない大人との邂逅をしつつ会議室に戻ると、海賊部の男子たちは、なぜかカーテンを引いて照明を落とし、怪談を始めていた。なぜ?

 

「怖い話と言えば、文化祭で心霊写真が撮れたクラスがあるらしいぞ」


 それ、うちのクラスだよ……。

 


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