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【完結】俳優、女子中学生になる~殺された天才役者が名家の令嬢に憑依して芸能界に返り咲く!~  作者: 朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます!
3章、人狼ゲームとシナリオバトル

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154、GAS、会議する

――【八町(やまち)大気(たいき)視点】

 

 ドラマアカデミー賞の発表後、すぐの月曜日。

 八町大気は六本木ヒルズ森タワーのオフィスフロア内の会議室にいた。

 これから、GASの関係者で会議をするのだ。

 グローバル・アクター・サポート(Global Actor Support, GAS)は、日米の共同プロジェクトになってしまった。大規模プロジェクトである。

 真面目な顔で資料に目を通しながら、八町は親友とのLINEログを思い出していた。

 

葉室王司:八町、八町

八町大気:なにかな、江良君


(ああ、親友といつでも他愛のないやり取りができる喜びよ。これはお互いが生きているから味わえる嬉しさなんだ。江良君。僕たち、生きててよかったね)

 

葉室王司:GASの中で発言力がどれくらいあるのか知らないけど

葉室王司:恭彦を強化指定役者から外すのを止められないかな?


(江良君にとって、僕は頼もしい味方なんだよね。GASの中で僕は正直、それほど強権を持っていないんだけど、それを教えたらがっかりされてしまうのだろうなあ)


八町大気:僕はこれから会議なんだよね

八町大気:意見は言ってみるよ

葉室王司:映画の1作目の脚本は直せた?

八町大気:あれね、火臣さんには結局、出演を断られてしまったんだよね

八町大気:でも、代わりの俳優は確保できたから、低予算スピード重視で作ってしまうよ

八町大気:新人社員たちの慣らし運転も兼ねてね

葉室王司:即戦力だね。頼もしいメンバーだなあ。会議がんばってね

八町大気:会議が終わった後、食事でもする?

葉室王司:今日はママとレジェンドホラー映画祭だよ

八町大気:じゃあ、映画館で合流しよう

 

(今日は江良君とママさんと3人で映画鑑賞だ。それってまるで……僕がお父さんみたいだね……悪くないな……)

 

「こほん、こほん」


 誰かが咳払いしたので視線を向けると、会議が始まるようだった。

 まず口を開いたのは、アメリカから招かれたプロジェクト総監督だった。


「今日の議題は、強化指定役者たちの育成プログラムについてです」


 通訳が生真面目な表情で仕事をしている。

 

「我々は日米の若手役者を集めて、期間限定のシェアハウス生活をしてもらう計画を考えています。それを定点カメラで撮影し、恋愛リアリティショーのように配信する……彼らの成長と葛藤、ラブラブキュンキュン……? 失礼、企画書にノイズが。こほん。それを全世界に発信すれば、グローバルな支持を得られるのではないかと考えているんです」


 話を聞いた瞬間、テーブルの向かいに座っていたケストナー監督が口を開いた。


「確かに、日米の若手役者が共同生活を通じて互いに成長していく姿を映すというのは、新鮮で興味を引く企画でしょう。しかし、考慮すべき課題が多々あるのも事実です」

 

 彼は不安定な初級者の俳優マーカスを壊してしまった過去があり、それがトラウマになっている。

 なので、ノーモアマーカス、ノーモアマーカスと事あるごとに連呼するのだ。


(ケストナー監督は日本が嫌いなら早くアメリカに帰ってくれればいいのに。なんだかずっと睨まれている気がするよ)


「ケストナー監督のおっしゃりたい考慮すべき課題が、僕にはわかります」

 

 八町は続きを引き継いだ。

 「ぜんぜんわかってないから日本の面倒見てやる」と言われるよりは「わかってるから面倒見てもらう必要ないけど? 楽しい遊びに混ざりたいって言うなら混ぜてあげてもいいですよ?」と言いたいので。


「まず、恋愛リアリティショーという性質上、彼らの振る舞いが大衆の関心を引く形で切り取られる可能性が高いわけです。それに、視聴者が物語を求めれば求めるほど、出演者側もショービジネスを強く意識して振る舞うようになりますね」


 火臣恭彦君などは、特にその傾向が強い――八町は言葉を飲み込んで先を続けた。


「純粋な恋愛感情ではなく、目立つためだけの戦略的な恋愛ごっこを仕掛ける子も出てくるかもしれません。その相手に計算抜きで本気で恋愛してしまう子も出てくるでしょう。視聴者も同じです。ビジネス恋愛だ、いいやガチ恋だと騒ぎ、ショーが終わったあと何年も後を引きますよ。温度差は悲劇を生むのです」


 何か話そうとしたケストナー監督を視線で牽制し、先を続ける。

 

「出演者の関係性や行動の一つ一つがネット上で玩具にされ、誹謗中傷の対象となることも、過去の例を見ても明らかです。彼らが恋愛や友情の葛藤をする姿は売れるエンタメかもしれませんが、その影響は彼らの人生に長く暗い影を落としかねない……大問題です」


 その発言には、頷く者が多かった。

 恋愛リアリティショーを巡るトラブルは過去にも多く発生していて、自殺してしまった参加者もいるからだ。


 ケストナー監督も、これには文句がない様子で「その通り」と頷いている。

 そのまま「八町が全部わかってるから国に帰るよ」と帰ってくれると嬉しい――八町はこっそりと願った。業界的に格上で、かつ自分のアンチである監督と一緒に仕事なんて、自己肯定感が下がるではないか。

 

 八町は熱弁を奮った。

 

「話題になればいいのか。金になればいいのか。コンテンツを作り、社会に影響を与える側である我々には、責任があるのではないのか――僕の親友、江良君ならば、きっとそう問いかけたことでしょう! ふうっ」

 

 熱弁を奮うのは気持ちがいい。善良なことを言って正義の側に立つなら、なおのこと。ケストナー監督がフンフン鼻息を荒く演説する気持ちがわかってしまった。興奮するのだ。


 彼がフンフンおじさんなら、僕はふうふうおじさんか。

 なんか弱そう。


 八町が「もっと強そうなおじさんになれないものか」と思考を変な方向に飛ばしていると、反論が湧いた。

 

「しかし、きれいごとだけで事業は成り立ちません。大衆はトラブルや他人の不幸を欲しがっていて、荒れるものは品行方正で無難なものよりも人気が出るのですよ。数字、数字、数字。成功とは、いかに数字を作るかです。きれいごとで結果が出せないで終わるより、結果を出して誇りましょうや」

 

 すると、そこから次々と声が上がった。

 

「人の命が失われるほどの危険なコンテンツを『話題になるから、数字が跳ねるから、金になるから』と言って安易に扱い、青少年の心を見世物にする。そんなプロジェクトを良しとは言いたくありませんね」 

 

「もし本質的に数字、数字、数字であっても、建前上はもっと飾り繕っていただきたい。責任ある立場の発言として、NOと言わないといけない、問題意識を持っていると言わなければならないことではありませんか」


 ひとつの意見を置いて全員が頷いて終わるより、反対意見を戦わせた方が健全な組織っぽい――八町は紛糾する会議を見守り、煎茶を啜った。いい匂いだ。渋くて美味しい。口の中が清められる心地がする。

 お茶というのは、良いものだ。おや、茶柱が。


 このタイミングで思い出したのが、目を付けていた「親子丼」火臣父子であった。

 父親は「俺は売れればなにをしてもいいとは、もう思わない。やはり出演を断る」と言って来て、息子はコソコソと「俺は売れるなら悪魔に魂を売ってもいいです。やりたいです」と自分を売り込んで来たのだ。なんともはや。


 八町は苦笑気味に口を開いた。

 

「みなさんのおっしゃることは、いずれもごもっともです。 ビジネス主義と人道的懸念――きれいごとだけでも成り立ちませんし、数字目当てに道徳観念を失ってもいけません。バランスを取ってまいりましょう。過去にも、メソッド演技の影響で心身のバランスを崩してしまった俳優もいました。ケストナー監督のご懸念は、マーカスに由来するのだと僕は理解しています。この手のプログラムには、心理的ケアの体制が欠かせない……それを理解していることが重要なのではないでしょうか」


(心理的ケアをしつつ、安全確認して健全にやろうではないか。できれば、江良君が気に入る形で)

 

 そんな本音を噛みしめつつ、八町は再び煎茶を啜った。

 はあ、お茶が美味しい。

 ひと息ついていると、ケストナー監督は八町の望まぬ方向の提案をする。

 

「メンタル不安定な子を外そう。何をやっても心が傷付かないようなしたたかな子だけでショーをすればいい」


 やはり、この男は敵だ。

 煎茶をのんびりと啜る隙もない。八町は敵に眉を顰めた。

 

「ケストナー監督は愚かなことをおっしゃる。何をやっても心が傷付かない人間なんていません。不安定だからと言って才気あふれる尖った子を切り捨てていては、大きな成功にはつながりませんよ。ハイリスクハイリターンを怖がらず、リスクを低くしてローリスクハイリターンにするのです。ホームランを狙うならバントの構えではなく勇気を出してバットを振りに行きましょう」

 

 自分の言葉に夢中になっていると、ケストナー監督は被せるように何かを言った。八町には聞き取れなかったが、通訳は翻訳してくれた。


「八町監督。何をやっても心が傷付かない人間はいます。私の妹もそうでした」

「ケストナー監督。それは思い込みですよ。妹さんがお嫌いなのでしょう? ひどいことをおっしゃるなあ。妹さんにも傷つく心はありますよ。ところでケストナー監督に妹さんがいらっしゃるというのは、初めて知りましたね」

「妹は既婚子持ちだ。興味を持つな。婚活なら他を当たれ」


 ケストナー監督は毛虫を見るような眼で八町を見るので、八町はムッとした。


「僕はそんなにガツガツしていませんよ。僕の恋人は映画ですし、僕の愛娘は江良君なんです」


 会議室は数秒間、冷えっ冷えに沈黙した。


「八町先生はお疲れのようです。一度休憩しましょうか」

  

 優しすぎる声でプロジェクト総監督が提案して、会議室に「おいたわしや」という呟きが広がる。

 ケストナー監督が「それはどういう意味の日本語だ」と確認してから「ヤマチ、オイタワシヤ」と嘲笑った。その笑顔には敵意しか感じられないので、八町は大いに気分を害したのだった。


 

   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

 

 ――【葉室王司視点】

 

 レジェンドホラー映画祭に参画している映画館で、私は芸能界ファミリー大集合特番に向けて「芝居ファミリー作戦」を開始した。

 スパイファミリーに似ているが、スパイではない。

 

「ファミリー大集合でいきなりファミリーをしようとしても、無理でしょう。慣らし運転をするんです」

 

 これは実は、「共演NGを一時的に撤回してファミリーとして特番に出たいんです!」と佐藤マネージャーに泣きついたときに一緒に考えてもらったアイディアである。

 

 ママは「テレビには出たいけど火臣さんとファミリーは嫌」とはっきりと難色を示した。他のメンバーならテレビでは演技をしてくれるところだが、ママは役者ではない。

 いきなり本番に連れて行って「今から演技してね」と言っても、無理だ。

 

「王司ちゃんがパパとファミリーしたいだなんて、これは夢だろうか。なあ恭彦。よかったな恭彦。な! ファミリーしような!」


 恭彦は不満そうだが、打犬はデレデレしている。こいつは文句は言わないんだ。喜ぶんだ。そして、打犬が娘にデレデレすると恭彦とママは不機嫌になるんだ。

 自覚してほしい。


「できれば打犬さんは存在感を消して静かにしててください。きっと喋るとウザくなるんだと思います」

「王司ちゃん、パパがウザいのは血が繋がってる証拠なんだ。近親相姦を防ぐための本能なのさ。ちょっと練習でパパって言ってみようか。練習は必要だもんな。さあ、さあ」

「だから、そういうのがウザい……」

 

 火臣家の二人と映画館で合流して話し込んでいると、「いたいた」と声がかけられた。

 おや、この声は八町ではないか。


「ふふっ、僕は今日、江良君の父親枠でご一緒しようかと思い……あれ、火臣さん? なんでいるんです?」

 

 八町は火臣家の父子を見て、なぜだかとても驚いていた。

 いるとは思わなかったらしい。そういえば言ってなかったもんね。


「父親がなんですって、八町先生?」

「いえ……なんでもないのです」


 八町はなんだか残念そうな顔だった。

 なぜだろう……。

 

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