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【完結】俳優、女子中学生になる~殺された天才役者が名家の令嬢に憑依して芸能界に返り咲く!~  作者: 朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます!
2章、銀河鉄道とマグロとアリス

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149、ジュエル、歌番組で泣く

――【葉室王司視点】


 私たちの出番が回ってくる。

 

 歌番組が生放送じゃなくてよかった。

 致命的なやらかしをしても取り返しがつく――撮り直しや編集ができる。

 

「努力した成果を見せて、夢を掴むの。……ここからが本番よ」


 ヒカリ先輩が呟く声に、心がグッと掴まれた感じがする。

 ジュエルの中でも、この先輩は「アイドルになりたいの! 本気なの!」と意気込んで努力してきた子だ。

 こういう子が何人も集まって、ぶつかり合ったり励まし合ったり、挫折したり夢を叶えたり……そんなドラマが、芸能界にはある。

 この先輩のためにも、がんばろう。

 

「♪ねえねえショーが始まるよ、王司が旗を振りますね、これオムライスに立てる予定!」


 このグループは、ショーをするんだ。可愛いショーだよ。


「♪初めてだから、手が震えちゃうけど」 

 

 お兄さんグループと違って、声を荒げることはない。

 イメージするのは、「初々しい女の子」。

 葉室王司は、緊張しているんだ――そんな意識をしたからだろうか。

 

「♪みんにゃのジュエりゅっ」

 

 声が裏返る。噛んだああっ。

 恥ずかしがりながらマイクをバトンリレーすると、カナミちゃんがマイクをしっかりと受け取ってくれた。

 目が合うと、励ましてくれるような温かさが感じられた。

 大丈夫、と言ってくれているのがわかる。

 

「♪きらきら光りゅっ!」


 カナミちゃんは、私に合わせてくれたみたい。

 語尾を真似したみたいにしてくれた。優しい!

 その手がアリサちゃんにマイクを渡すと、アリサちゃんは、いたずらっぽく微笑んだ。

 

「♪しょれじょれ違う色だけどぉ~っ!」


 アリサちゃんは元気いっぱいに音を外して、変顔を披露した。か、可愛い。

 ヒカリ先輩はそんなふざけた年少メンバーに小声で「こら」と笑って、マイクを受け取って真面目路線に戻してくれた。

 

「♪ひとつになって 輝くの!」

「♪ここにいる全員 ジュエラーだね」


 凛とした歌声を響かせるヒカリ先輩に、さあや先輩が背中をぴったりと合わせて明るく歌い上げる。

 2人が一緒にマイクを握り、次の2人へ。

 

「♪宝石箱から星を見て、夢見るわたし」

「♪飛び出しちゃった、これ秘密!」

 

 芽衣ちゃんと(きよみ)先輩がマイクを受け継ぎ、マイクは私に戻ってくる。

 

「♪最初で最後の今日だから、君と一緒に遊びたい!」 

 

 あぁ、この瞬間をみんなと分かち合っているんだ。

 グループっていいな。


「♪みんなのジュエル!」

「♪きらきら光る!」

「♪それぞれ違う色だけど」

「♪ひとつになって 輝くの!」


 曲のテンポに乗って、メンバーと一緒に踊る。踊る。踊る。

 もう、演技とかじゃない。普通に楽しい。

 普通に「全力で歌うぞ」って気持ちになれている。みんなのおかげだ。


「♪宝石箱から星を見て、夢見るわたし。飛び出しちゃった、これ秘密!  最初で最後の今日だから、君と一緒に遊びたい!」

 

 歌いながら、気付いた。

 観覧席に、見たことのある映像エンジニアのお姉さんがいる。

 ドラマ『鈴木家』でもお世話になったスタッフさんで、名前は神崎(かんざき)凪沙(なぎさ)さん。

 恭彦の風呂シーンを性癖ましましに神編集したが、会社の上司にお叱りも受けて辞めた、という噂があるお姉さんだ。元気そうでよかった。私服でスタッフカードなしということは、プライベートで見に来てるのか。


「♪好き好き 大好き! いちばん好きなの、だ・あ・れ? みんなー? それとも わ・た・し?」


 アイドルちゃんは愛情いっぱい、大好きな気持ちを精一杯込めて歌うんだ。

 画面の向こうの誰かに、この気持ちが届きますように――。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


――【三木(みき)カナミ視点】 

 

 三木(みき)カナミは、色彩と光の溢れる世界に立っていた。

 

 赤、青、黄色。

 フリフリ衣装はカラフルで、花が咲き乱れたみたいに視界が華やかだ。

 照明は眩しくて、熱い。喉が緊張で乾く。でも、声は出る。

 溌剌と。メリハリをつけて。リズミカルに――実力を発揮するんだ。歌い出せば、もう大丈夫。

 

『歌聞いた? すっげー下手なの』 

『いい引き立て役じゃん。下手なのが先に歌ってくれたらうちらの上手さが目立つよ』 

 

 あたしは下手じゃない。

 練習できない友達をカバーできるぐらい、練習したんだ。

 あたしが上手く歌って、友達を守るんだ。うちらのグループを悪く言わせたりするもんか。

 「どう、よかったでしょ」って見返してやる。

 

 リズミカルにステップを踏むと、太ももの上でスカートが揺れて、涼しい。

 

 空気を感じる。空気があるから息ができる。あたしの歌が、響いてく。

 あたし、空気がある環境に人間として生まれてよかった。

 歌を歌うことができるから。聞いてもらうことができるから。地球、サイコーだよ。

 宇宙人がいるなら、マウント取りたい。

 

「♪もっとずっと キラめきたい」

 

 想いをぎゅっと歌声に乗せていく。

 オーディションに応募すると決めた日、お風呂の鏡に向かってポーズを取ったり、熱唱した自分を思い出す。

 

「♪みんなで過ごす 今日が大好き!」

 

 あたし、がんばったな。

 でも、王司の唯一の相方にはなれていないな。

 みんながいちばん好きなのは、あたしじゃないな。

 それが当たり前のこととして頭にある。

 でも、あたしはがんばったし、それを誇れる自分がいる。

 

「♪好き好き大好き! いちばん好きなの、だ・あ・れ? わたしー?」


 あたしを推して。あたしを聞いて。

 あたしを見て。あたしを愛して。――好きになってよ、あたしのことを。

 

「教えてあげる、最初で最後ー!」


 SACHI先生を思い出す。

 あんな風になりたいな。あたしが目指すのは、あんな女だ。托卵なんて、しないけど。

 

 ――先生、どうして悪いことをしちゃったのかな。

 あたしが悪口を匿名掲示板に書き込んだみたいに、なんか気づいたらそんな自分だったって感じなのかな。

 

『君の一番になりたいの!』

 

 全員でキメのポーズを取る。

 ライトが一段と強く照らされて、王司の姿がアップで映されている。

 収録が終わった瞬間、スタジオに拍手が沸き起こった。

 あぁ――終わった。歌は歌えた。

 上手く歌えた、と思う。実力を出した手ごたえがある。


「みんな、おつかれ~」


 王司がふにゃっとした緩めの笑顔で労ってくれた。汗がにじんでいるから、ハンカチで拭いてあげる。隣にいられるメンバーの特権だ。

 この子、たまに疲れてたり気が抜けたときに足を広げて座ったりするし、「男の子のふりをしていた頃の癖が出てるな」って思う瞬間がある。さっきの紫黒(しぐろ)トーヤみたいに肌チラしちゃわないか心配になるわ。

 

「王司、座ってるときも気を抜いたらダメだよ。短いスカートだから気を付けてね」

「うん、うん。このスカート本当に短いよね」

 

 可愛いスカートの裾を撫でる王司の手付きは、可愛いものに触り慣れていないみたいに優しい。男の子のふりをしていたから、女の子っぽいものに慣れていなくて、ちょっと恥ずかしそうに……でも嬉しそうにするんだ。そこが、キュンとなる。

 可愛いの好きなんだ、王司。好きだったんだね。

 不憫な背景事情がわかっていると、抱きしめたくなるくらい可愛らしいのが、葉室王司だ。

  

 この可愛い子はあたしの友達で、同じグループの仲間なんだ。

 あたしは頑張って、その特別なポジションをゲットしてるんだ――テレビを介してあたしたちを見るであろう全国のファンに向けて、あたしはドヤ顔でピースサインをした。

 

「王司。次はもっともっと輝けるように、もっと素敵なジュエルになれるように……あたし、頑張るよ!」

「カナミちゃんは、とびっきりキラキラだったよ! 歌がすごくよかった! カナミちゃんは歌が上手で、すごいなあ」


 王司はこっそりと耳元に口を近づけて、「あとね、最初の方、合わせてくれて嬉しかった」と囁いた。

 耳を吐息がくすぐって、嬉しそうな声が胸をキュンっとさせる。

 

 あ~~、あたし、頑張ってよかった……!

 ほんとに、ほんとに!

 

 思わず熱いものがこみ上げる。

 肩を震わせて涙をこぼすと、ヒカリ先輩や(きよみ)先輩も釣られたみたいに一緒に涙を流して泣いてくれた。


「わ、わっ、ジュエルちゃんたちが泣いちゃってます。が、がんばったねえー! か、かわいいー! やだぁー、青春ー! おねえさんもウルッとしちゃうー! この子たちピュアすぎ……!」


 ついでに、司会のお姉さんも泣いてくれた。いい人だ。

 芸能界は、いじわるな人もいるけど、すごく優しい人もいる。

 それって、どこの世界でも同じだ。社会って、そんなもんだ。


 カナミは仲間たちと抱き合い、温かい体温を分かち合いながら、そう思った。

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