148、ジュエル、歌番組を燃やす
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「お嬢様、本日はアイドルデスネ。イッテラッシャイマセ」
「うん、セバスチャン。いってくるよ」
歌番組収録の日、私が早めに楽屋入りすると、金髪をゆるふわウェーブのハーフアップにした月野さあや先輩がペンタブを動かして絵作業をしていた。
そういえばこの先輩ってVtuberのLive2Dモデラーでもあるんだっけ?
ノコさんのアバターを作ったって噂もあるんだよね。
「おはよー、はむはむ。知ってた? 隣の楽屋……」
さあや先輩はペンタブの先を左右の壁に向け、声を小さくして「こっちの部屋に『オーロラパーティ』がいて、あっちには『ゆりゆりず』がいる」と教えてくれた。
両方とも先輩アイドルグループなのはわかる。詳しい知識はないけど。
「さあや先輩。Vtuberのアバタ作成の依頼受けていらっしゃるんですよね? ちょっと興味があるんですけど」
「おっ? はむはむ、Vになるの?」
「ちょっと興味があるだけです」
さあや先輩はポートフォリオのURLを教えてくれた。へえー、作品がいっぱいあるよ。
料金は要相談? へえー、へえー。お金ならあるよ……。
「さあや先輩。あのー、依頼してみてもいいですか?」
「おおっ、はむはむ。歓迎するよ」
いいんだって。
発注書のテンプレートがスマホに送られてきたので、書いてみるか。
画像を貼ってイメージしやすくしてみよう。あと、「アレンジ自由です、NGないです」も書いておこう。
「ほー、はむはむは男の子になりたいのかー。理想のイケメンになれるのもVtuberの楽しさだよね。ボイチェンも使うといいね。ふむふむー、はむはむの理想のイケメンは江良九足かー」
「さあや先輩。ボイチェンって、もしかして江良さんに似た声にできたりします?」
「あー、どうだろ。難しそうだけど……」
さあや先輩は「ケモミミつける?」とか「服装どうする?」とか聞いて来る。
発注書書きながら相談できるって、いいな。一人で考えながら書くより捗るし、楽しいよ。
「おはよー」
「あ、ヒカリ先輩。おはようございます」
二人でアバター案を練っていると、黒髪ポニーテールの五十嵐ヒカリ先輩を皮切りにどんどんメンバーがやってきた。
みんなで着替える衣装は、カラフルな生地でフリルやリボンがいっぱい。スカートが短くて太もものあたりが寒い。
生地は安物なので、生地に守られている部分の肌もなんか痒い。しかし、贅沢は言うまい。
ヘアメイクさんは「髪が伸びたね」と言って毛先を整えてメイクもしてくれる。ふっ、メイクさん。伸びたのは髪だけじゃないんだよ。
「まつげ美容液も試したので、まつげも伸びているかもしれません」
「えらい、えらい! 可愛いぞー!」
アイドル女子のスタイリングはプレゼントのラッピングに似ている気がする。可愛い包装紙で包んでリボンを付けるんだ。
では誰にプレゼントするのかというと、ファンに、かな。
「おはようございます」
スタジオに行って挨拶をすると、カナミちゃんが「わー!」と目をキラキラさせてはしゃいでいる。どうしたの。
「サインもらっちゃだめかな。芸能人がいっぱいいるよ王司!」
「カナミちゃんも芸能人だよ」
「ガチ? あたしもそうじゃないかと思ってた。やば」
カナミちゃんは初々しくて可愛いな。アリサちゃんは――落ち着いてるなあ。
「ん?」
スカートが何かに引っ掛かったような感触があって後ろを見ると、芽衣ちゃんが私のスカートの端をつまんでいた。
「芽衣ちゃん。スカートめくれちゃう。手を繋いでいこ」
「はい」
手を差し出すと、指先をちょこんと握ってきた。緊張しているのかな、可愛い。
和んでいると、女の子の声がした。
「うわ、最悪。お嬢様のお遊戯会かよ」
――リアルなメスガキだ。
最初に抱いたのは、そんな感想だった。
ガキという年齢ではないかもしれない。たぶん、10代後半から20代前半かな。
ジュエルたちみたいなフリフリミニスカ衣装ではなくて、お姉さんファッションだな。
『オーロラパーティ』ってこれか。どこがオーロラなのかはわからないが、みんなスタイルがよくて綺麗なお姉さんって感じだ。
でも、感じ悪いな。
「中学生だって。ガキくさ」
「歌聞いた? すっげー下手なの」
「いい引き立て役じゃん。下手なのが先に歌ってくれたらうちらの上手さが目立つよ」
言うだけ言って通り過ぎていくじゃないか。言い返す暇を与えない鮮やかな精神攻撃だ。慣れを感じる。
みんな、今の聞いちゃった?
心にダメージ受けた?
心配して視線を巡らせると、ヒカリ先輩は「おかげでやる気が出たわ。私、誰より上手く歌ってやる」と熱血していた。
「うわあ、漫画とかでよくあるやつだ。ヒカリが好きそう」
「どろどろだー。彼氏にチクってあっちのグループの仕事減らしちゃおう」
さあや先輩と聖先輩はいつも通りのマイペースで、芽衣ちゃんはスマホを見せてくる。
どうしたの……あっ。
緑石芽衣:初めて歌番組の収録をしようと現場入りしたらオーロラパーティが虐めてきました。音声録音したので聞いてほしい(動画添付)
め、芽衣ちゃん! それは炎上するやつだよ。
びっくりしていると、カナミちゃんが軽いノリで自分のスマホを取り出している。
「行動が早いねー、炎上するならあたしもするよ? 待って、今投稿するから。お互い拡散しよう」
「カナミちゃんも便乗しないで」
アリサちゃんがくすくすと笑ってる。いや、笑いごとかなこれ? みんな楽しそうだけど。
この怖いもの知らずな感じは、あれか。若さというやつか?
ここは芸能界の先輩でありセンターである江良お兄さんが一言アドバイスしようじゃないか。
「落ち着いてみんな。ああいうタイプは、私たちだけじゃなくて他のグループにも言ってるから、自分たちはノーリアクションでいいんだよ。そうしたら、犠牲者が増えていって敵だらけになっていくでしょ。放っておいたら自滅で消えることが多いんだ。だから、自分たちのブランドに傷をつけちゃだめだよ」
「芽衣、うちらの投稿は削除しとこっか」
「そうですね、カナミ先輩」
もう手遅れかもしれないが、二人は火消しをしてくれた。
「王司先輩。動画、別のユーザーがアップロードしちゃって拡散されてます」
「うん……それはね、もう……忘れよう。しょうがないね。それより、本番がんばろう。あと、スマホは置いてこようね」
「はい」
芽衣ちゃんとカナミちゃんがスマホを置きに行く。
「新人ちゃんは可愛いね」
「転ばないようにねー」
ニコニコと声をかけているお姉さん2人組は『ゆりゆりず』かな?
百合営業(本当という噂もある)しているアイドルデュオだ。
こっちのお姉さんたちは、好意的に挨拶してきた。「可愛い」とか、「困ったことあったら助けるから頼ってね」とか「お菓子あげるから後で楽屋においで」とか――いや、でも「可愛い。ハグしていい? キスしたい」「あたしはもっと大人なことを教えてあげたいな」とか言われるとなんか怖いな。
百合営業の一環か。それともガチか。熱を孕んでうっとりとした目付きが本気っぽいんだよなぁ。
手を握られると、なんだか逃げたくなるなぁ……。
「ジュエルちゃんたち、お姉さんたちと後で遊ばない?」
「いえっ、結構です」
ジュエルたちを守らなければ。私は使命感を胸にみんなを移動させた。気分は保護者だ。
逃げろー、みんなー、逃げろー。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
――【紫黒トーヤ視点】
AXEL7は、20代から30代で構成される7人組の男性アイドルグループだ。メインボーカル紫黒トーヤは、22歳。歌唱力が高く、「ハイパークール」「ストイック」「エロ格好いい」とカリスマ的な人気を誇る美男子である。
「やべぇ、ジュエルやべえ。おいお前ら、やべえぞジュエル」
アクロバティックなダンスパフォーマンスを持ち味とするメンバーのリョウスケが騒ぎ出したのは、歌番組の収録前の出来事だった。
リョウスケは道端に花が咲いてただけでも「やべぇ!」と騒ぐので、メンバーは慌てることがない。日常の温度感だ。
「ジュエルって最近話題のちびっ子?」
「共演するんだっけ。ロリ趣味はないけど可愛いよな」
「グループの年長はロリじゃないぞ」
「アイドルの見分け付かねーわ。可愛ければOKみたいなのも好かん」
「女優に歌舞伎に開示請求にスポンサーの愛人にキッズチャンネルに絵師だぞ。イロモノ集団すぎてウケる」
メンバーが好き勝手言う中、リョウスケはジュエルちゃんのラミネートカードをポケットから出した。
お前ファンなの? それ葉室王司じゃね?
「ロリやべえよ。あいつら、オーロラパーティにいじめられてたんだけど」
「なんだ、そんなことかよ」
トーヤは肩をすくめた。
珍しくもなんともない。アイドル女子は特に、思春期に容姿や若さを売り物にして人気を競うのだ。
ファンに向けた顔と同業ライバルに向けた顔が違う子は多いし、足の引っ張り合いだってある。
堂々と相手をディスる奴もいれば水面下で陰湿にいじめる子もいて、まあドロドロしているのだ。
ここは、そういう世界だ。
芸能界に夢見る世間知らずのお嬢ちゃんたちに「現実は甘くないのよ」と最初に洗礼を受けさせて教えてやったのだろう。「いっそ優しい」とすら思うトーヤである。
しかし、リョウスケは「いや、ジュエルが可哀想とかじゃねえんだ」とかぶりを振る。はあ?
「速攻で録音SNSにアップして拡散されたの確認してすぐ投稿消して知らん顔しやがった。スポンサー彼氏に言いつける奴もいた。やべぇよ。敵対したら潰される」
そりゃ、やべぇわ――メンバーたちは面白がって声を上げた。
「オーロラ終わったな」
「今日の番組視聴率高くなるぞ、気合い入れてけ」
「ヒュー!」
クソみたいな盛り上がりだ――トーヤはため息をついた。
騒いでいるうちに、出番になる。
「おいお前ら。他の連中なんてどうでもいい。数字も気にするな。ただ、最高のパフォーマンスを見せつけて帰る――それが俺たちのやることだ。他のことは帰った後にしろ」
トーヤはメンバーの気持ちを切り替えさせ、両手を組んで額に当てて目を閉じた。本番前に集中を高める儀式みたいなものだ。これで自分の音楽の世界に没入する……。
「あっお前もラミカ持ってんのかよ」
「トークの時に出したらウケるかと思ってさ」
「お前アリサちゃん派か。敵だな」
「甘く見るなよ。俺はアリサちゃんと王司ちゃんペアで持ってる」
メンバーはトーヤが知らない間にジュエラーになっていた。
なんだラミカって。どこで売ってんだそれ。
買うつもりはないが、うちのメンバーをアイドルオタクに染めしやがって。
俺たちの音楽を邪魔するな、葉室王司め。
何がぺんぺんだ。美少女だからってあざとい真似をしやがって。
……いけない。俺の集中を葉室王司が妨げる。
女はこれだから憎らしい。
可愛いという理由だけで俺の心に住もうとするんだ。音楽に没頭しろ、俺!
ファンは俺のストイックでワイルドでクールな歌を欲しがってるんだ。
ロックに行け。クールになれ。
ビークール。俺はビーグルだ。尻尾を振るな。野生的に吼えろ!
トーヤはクワっと開眼した。
そして、クールなボーカルのペルソナをかぶって1カメラへと目線を送った。
「……!」
カメラの後ろには葉室王司がいて、デコレーションケーキみたいなアイドルコスチューム姿で自分を見ていた。
大きな瞳はキュラキュラしていて、小さな爪はちゅるんだ。
ドキッ――目があった瞬間、心臓が跳ね上がった。
運命的なものを感じる。特別な感覚が脳を揺らし、胸を焦がす。
カジュアルボーイッシュなコーデが多い国民的美少女は、アイドルコスチューム姿だとギャップ萌えがあった。
暴力的なまでに蠱惑的な「可愛い」がそこにあった。
「……くっ……!?」
こ、この可愛いモンスターめ!
俺は負けない……!
トーヤは拳を握り、歯を食いしばって目力を振り絞り葉室王司を睨んだ。
「トーヤ? どした?」
「アイドルが可愛くてやばいか? 女に目覚めたか?」
メンバーの声に答える余裕もない。
目と目がずっと合っている。これはバトルだ。どちらが先に目を逸らすかの戦いだ。
「俺は退かねえ! 女ァ! てめぇが目を逸らせぇ!」
気づけば声が漏れていた。しかもマイクにしっかりと音が拾われ、響いていた。
「え、なに?」
「トーヤが変なこと言った」
「暴言?」
ざわっとするスタジオで、葉室王司は珍獣を見るようにトーヤを見て隣の女の子と何か話した。
ピンクのぷるぷるした唇を読む――「あのお兄さん、どうしたんだろうね、アリサちゃん」?
トーヤは頭が真っ白になって、その後の記憶が抜けた。気づけば収録は終わっていた……。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
――【葉室王司視点】
「王司ちゃん、びっくりしたねえ。歌番組ってお化け屋敷みたい」
「アリサちゃんの感想がピュアで和んじゃう……」
今のはシャウトだったんだろうか。いやー、なんか音楽的ではなかったなあ。
アイドルに詳しいヒカリ先輩とカナミちゃんがコソコソと話している。
「トーヤ、格好いいわよね。ワイルド! 音楽にストイックで、朝起きてから寝るまで音楽のことしか頭に入れないってインタビューで答えた人なのよ」
「彼氏にしたいとかじゃないんだけど、尊敬するねー!」
「急に吠える彼氏は怖いよ」
「あはは」
なるほど、アーティスト気質の人なのか。気持ちが昂って暴走したのかな。
「あっ、始まるよ」
「わあ……」
AXEL7の歌が始まると、スタジオの空気が一変した。
「BLACK FATE!」
メインボーカルのトーヤがタイトルらしきものを唱えて中央に立つと、観客から「キャー!」という黄色い声が一斉に上がる。
彼は鋭い刃のような眼差しで客席を見据え、フロア全体に冷たい静寂を生むような圧を放った。すると、観客は口を手に当て、全員が黙ってしまう。すごい。なんだこの技は。無言で黙らせたぞ。
「♪痛みさえ愛しくて 刹那の夢、過去へと沈む」
トーヤの表情は研ぎ澄まされ、歌に入り込んでいるのが伝わってくる。
あー、こういう路線ね。中二感あるやつね。シルバーの十字架とかドクロとかグッズで出るやつ。江良は音楽業界には詳しくないが、なんとなくわかるものがあった。右目を押さえて「俺の……運命!」とか叫ぶやつだ。
「♪マイ・フェイト!」
ほら、全員で叫んだ。正解だ。なんか「当たった!」って嬉しくなっちゃった。
どこか影を感じさせるその瞳には、決して折れない意思が宿っていた。
なんかダークテイストな世界観がある。いいな、格好いい。
観客たちの視線を強く引きつけて離さないのも納得だ。
男でも「うおお、かっけえな」と見惚れてしまうやつ。そして、真似して痛い奴になっちゃうやつだな。
一方で、トーヤの周りに控えるメンバーたちも一流のパフォーマンスを見せている。1人1フレーズずつ歌うらしい。
「♪Break me free! この夜を裂き」
「♪闇を切り裂いて まだ見ぬ光探し出せ!」
「♪Take my soul, into the black night」
「♪揺るぎない誓いを胸に刻む」
「♪終わりなき運命を越えて」
リズムに合わせて動く全員が息がぴったりで、キレのある振り付けが個人としても全体としても決まっていて、観客を高揚させるんだ。
だが、彼らの動きはあくまでトーヤを引き立てるためのもの。
トーヤが歌い出すと、その圧倒的な存在感に他のメンバーは自然と影のように馴染み、舞台全体がひとつの「トーヤの世界」として成立する――そうだ。舞台演劇と同じだ。ほら、全員で歌唱リレーをしているよ。
「♪Burning in silence 狂おしいほど」
「♪消えないこの衝動 暴れ出す魂」
「♪繋ぎとめているものを壊せば」
「♪解放される未来が見える」
トーヤの声は低く、甘さを抑えた冷徹なトーンだ。
ジュエルちゃんたちの歌が春のお花畑遠足だと例えると、トーヤはエベレスト登山だ。登った後は山頂から地獄に堕ちるやつ。例えが酷いか?
「♪ブレイク!」
また全員で吠えた。
こいつら、突然吠えるんだ。びくっとするよ。
お化け屋敷みたいだな。
「♪Burning in silence 狂おしいほど 消えないこの衝動 暴れ出す魂」
トーヤのパワフルなハイノートを響いて、スタジオの空気は一気に緊張した。
「♪繋ぎとめているものを壊せば Break me free! 終わりなき夜」
感情が爆発するような声に、私も一瞬息を詰めてしまった。
「♪Take my soul, into the black night 破壊するほどに求める真実 揺るぎない誓いを胸に」
ラップのパートではメンバーがラップバトルするように掛け合い、ディスりあい、声を合わせて歌パートに戻る。
ラストは、トーヤのセリフで締めくくられた。
「運命を、越えて行け」
目力がすごい。迫力がある。へえー、へえー!
江良は歌にあまり興味がなくて色眼鏡で見ていたけど、アイドルソングのイメージが変わりそうだよ。いや、面白かったし、なんかエネルギーがすごかった。若さの暴力みたいな。
ステージが終わり、トーヤが一瞬視線を外し、息を整える。
滴る汗が煌めいていて、色気がある。ほお……ファンたちが……な、泣いてる……だと……。
「……ふっ」
トーヤは泣いているファンを冷ややかに一瞥して、鼻で笑ってシャツで汗を拭った。
おい、あざといな。
めくれたシャツの下の腹筋が見えてファンが「キャー!」と叫んだぞ。
卒倒している子もいる。す、すごいな。これがアイドル様か。
「王司ちゃん。なんか、すごいね」
「ね、アリサちゃん。なんか気絶したファンもいるよ」
「心配だね」
「うんうん、心配だね……」
ジュエルたちを見ると、ヒカリ先輩とカナミちゃんが手を握り合って「生だよ!」「生だ!」と興奮していた。卒倒しないでね。
さあや先輩はそんな二人を微笑ましそうに見ている。
聖先輩は「彼氏にカラオケであれやってもらおう~」とか言っていた。この二人は安心だな。
アリサちゃんはのほほんとした普段通りの雰囲気で、芽衣ちゃんは――み、耳栓をしている?
目が合うと芽衣ちゃんは耳栓を外し、「怒鳴り声が怖かった」と呟いた。
そっか。ちょっと怖い感じするよね。
歌番組に耳栓持ってくるとは、用意周到だな、芽衣ちゃん……。




