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【完結】俳優、女子中学生になる~殺された天才役者が名家の令嬢に憑依して芸能界に返り咲く!~  作者: 朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます!
2章、銀河鉄道とマグロとアリス

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137/241

137、ゴールデンラズベリー賞とアカデミー賞

――『#八町演劇祭』


:西の劇団員、楽しそう

:新川が健在で、オレ嬉しいよ!

:誰だよ↑

:星牙~日本代表おめでとう〜〜!#TSWIN!

:【東】のアリス可愛かった

:王司ちゃんの方がかわいい

:チケットが取れなかったので指咥えて配信動画観てます

:ouzi kawaii

:ahhhh

:ouzi kawaiiiiiii

:連休挟んでるけど学生は休んでるの?

:うちの学校の子は休んでるよ 

:西チームで出てる小学生、不登校児だって


 四日目の舞台が終わったあと、私はママが用意してくれたワンピースに着替えた。

 中途半端に伸びた髪には、リボンもつけている。

 この可愛い服装で何をするかと言うと、強力なスポンサーであるおじいさまに媚を売る……いやいや、ご挨拶をするのだ。

 

 可愛く。ワンピーススカートの裾をつまんで、膝を曲げてお嬢様風の挨拶をしたりして――これ、カーテシーというらしい。

 くらえ、おじいさま。孫娘の必殺カーテシー。

 

「おじいさま。本日は、来てくださってありがとうございました」


 可愛い孫娘のスマイル付きです。

 おじいさま、いかがですか。チラッ。


「うむ、うむ。立派な主役だった。クラッカーを捕まえた件といい、おじいさまは鼻が高いぞ、王司。お小遣いをやろう」


 わーい。上機嫌だよ。

 こうしてニコニコ笑顔でいると、ただのおじいさんなんだよな。

 でも、この人の背後で「おお、お孫さんは舞台の上と印象が違いますね」「可愛らしい!」と褒めてくれている人たち、みんなどこかの企業の偉い人なんだよな。

 はあ、お金が群れている……八町、映画の制作費がここに山積みされてるよ。


「ありがとうございます、おじいさま! 今度、お友だちと映画を作りたいなって思ってたんです。映画ってお金がかかるから、お金はいくらあっても困りません」


 アピールすると、おじいさまは少し表情を引き締めた。おや?


「王司、念のために言っておくが、お金をたかってくるお友だちには気をつけなさい。下心のある(やから)が寄ってきやすいものだから」


 おじいさま、今あなたの孫は下心バリバリでお金をたかろうとしていました……。ごめんね。


「そうだ、おじいさま。ママが指につけてるファミリーリング、同じものを2つ用意できませんか?」


 1つは私の。もうひとつはおじいさまの。

 そう言っておねだりすると、おじいさまはすごく喜んだ。


「ファミリーリングか。いいだろう。さっそく手配しようではないか!」

 

 こんな風に家族愛があるなら、おばあさまとも仲良くしていたらよかったのに。


 まあ、いいや。

 お小遣いで演劇祭のグッズを追加購入しとこう――【西】チームのグッズを。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 夜。

 五日目に向けてゆっくり休むぞーとお風呂上がりのほかほかした体でストレッチをしていた私のスマホに動画投稿の通知があった。

 

 動画の投稿者は、『no-name』――Vtuberになって自作の歌を発信しているノコさんだ。


 ノコさんのVtuberアバターは、白いうさぎの耳がひょこりと揺れて、ピンク色のゆるふわロングヘアーは動くたびに艶を見せている。

 水色の瞳は、何を考えているのかがよくわからない。

 いつものように黒いドレス姿で、真っ白な背景にグランドピアノが一つだけ置かれている世界にいる。


 タイトルは――『私が私になる』?

 ノコさんらしいタイトルだな。


 ピアノの弾き語りは、夜に聴くとしんみりとした気分になる。声は、優しくてちょっと切ない、ノコさんらしい歌声だ。


「♪星が流れる 銀の川 私もどこかへ連れて行って」


 出だしのワンフレーズは、甘くて柔らかな低音だ。

 真っ白な世界は変わらないのに、星空が広がったみたいに感じて、わくわくする。

 

「♪どこに行くの? わからない 鏡の向こう ウサギを追いかけ 不思議な国へ」


 銀河の旅に不思議な国……。

 ……あれっ。

 これ、もしかして演劇祭に影響受けてたりする?


「♪自分の影が囁くよ 『誰にもなれない』その声に 耳をふさいで走り出した」


 『no-name』のアバターが、悲しそうな顔をする。

 この表情って、リアルの表情筋を読み取ってるんだっけ? すごいなあ。

 突然リアルの顔に切り替わったりしたら大事故だよね。

 Vtuberアンチのクラッカーがイタズラしたりしないんだろうか。


「♪何者かになりたい 光を追いかけ 手を伸ばして 掴みたい」


 切実な声に、ぐっとくる。

 「何者かになりたい」……よく聞く言葉だ。

「よく聞く」ということは、それだけ世の中の人がよく思うことでもある。

 江良だって、例外ではなかった。


「♪時計が回る 夢の汽車が 音をたてる」

 

 ああ、ノコさんって、もしかして私の舞台を観てくれたのかな。

 どうなんだろう。自意識過剰かな。

 

「♪耳をすませば ほら 私を包むこの星空が 今、私の歌になる」


 真っ白な世界なのに、星空が見える。

 歌の力って、すごいんだ。


「♪輝くあなたをここで見上げて 今、私が私になる」


 今日の歌は、ひたむきな感じで、綺麗で、なんだか希望が持てる感じの歌だった。


 ノコさんの歌は、心がそのまま表れている感じがする。

 もしも私の舞台でノコさんにプラスの影響をあげられていたら、すごく嬉しいな。


葉室王司:新作の歌、とても素敵でした! この歌、大好きです!


 コメントを残して、私はベッドに潜り込んだ。

 飼い猫のミーコは「待ってました」と言わんばかりにベッドに飛び乗り、私のおでこの上にお腹をのせて寝そべった。


 変な寝方を覚えたなぁ、ミーコ……。 


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


――『演劇祭最終日 第三会場』


 今日は演劇祭の五日目、最終日だ。


 シャッフル公演は午後なので、午前は八町(やまち)を眺めて過ごすことにした。

 一緒に第三会場に遊びに行ったのは、高槻(たかつき)アリサちゃん。

 それに、「応援にきたよー」と言って今日も来てくれた三木(みき)カナミちゃんだ。

 

 第三会場の透明ブースの中で、八町(やまち)大気(たいき)が生活している。

 観客は、動物園で動物を眺めるみたいなノリで八町をウォッチングして過ごしていた。みんな、正気か。写真や動画を撮ったりしてて、楽しそうだな。

 

 『八町が檻の中で仕事をしているのをウォッチングできます。静かに見守ってね!』という立て看板が増えていた。

 あと、モニターも増えてる。人だかりがすごい。そのモニターなに?


「王司ちゃん、これ、八町大気がリアルタイムで作業してる画面だって」

「へえ……」


 なんと、モニターには八町が書いてるデジタル原稿が表示されているではないか。

 Wordファイルかな? 

 読んだことのない話だ。女の子が主人公っぽい。

 しかも、このデジタル原稿、ところどころに付箋みたいな校閲コメントがついてるよ。

 編集者からの改稿指示だ。

 

「わ~、原稿が修正されていくね……こういうのって見ていいのかな、王司ちゃん?」

「いいから見せてくれてるんじゃないかな、アリサちゃん?」


 アリサちゃんは八町の心配もしてあげるのか。優しいなあ。

 大丈夫だよ。いくら八町でもちゃんとOKもらって公開してると思うよ。


「この動画はさすがにSNSに投稿しない方がいいね」

「うんうん。リアルで観れた人の特権って感じで」

「八町先生の新作、楽しみだなあ」

「女の子主人公は珍しいね」


 貴重なものが見れたね、と喜ぶファンたちを見ていると、なぜか私が誇らしい気分になる。

 親友が人気なのは嬉しいものだよ。


 モニターを見ながらニマニマしていると、聞き覚えのある声が英語で会話しているのが聞こえた。


 あ、中学校のAET (アシスタントイングリッシュティーチャー)、アニー先生がいるじゃないか。

 アニー先生の連れは、どうも私と同じぐらいの年齢っぽい白人の男子と黒人の女子。3人組だ。


「Yamachi Taiki is no big deal, but Japan is just so behind」

 

 これは、白人の男子が言っている……「八町大気たいしたことないね! ジャパンは遅れてる!」?

 

「Hey, Erich. You better stop, or you'll make the Japanese angry」

 

 白人の男子を「エーリッヒ」と呼び、「こらこらー」って感じで眉を寄せているのが、アニー先生だ。

 えーと、意味は「やめなさい、ジャップが怒るわよ」かな?

 

「Annie, it's fine. The Japanese don't understand English. We can insult them all we want, idiots……oh……」

 

 ふむ。「へーきへーき、日本人は英語わかんないから。ばーかばーか」? こ、こいつ。

 おや、「エーリッヒ」がこっちを見た。

 

 目が合った……うん? 

 口元を手で押さえて顔を背けられちゃったよ。

 どうした? 顔が赤いぞ?

 悪口言っといてジャパンガールと目が合っただけで恥ずかしくなったのか?

 

「Annie, I actually think it's true that Japan is behind. They don't receive a proper education. It's still an uncivilized, barbaric country」

 

 黙ってしまったエーリッヒに代わるようにして、黒人の女子がアニー先生にちょっと意地悪な笑顔で何か言っている。

 えーと……「日本、遅れてるわよ。ちゃんとした教育を受けてないの。文明開化してない野蛮人ね!」?

 この子たち、日本嫌いなのにどうして日本に来ちゃったの。なぁぜなぁぜ……。

 

「オウ、オージー、アリサー、カナミー」


 あ、アニー先生が気付いたみたい。


「コンニチワー、舞台、ステキデシター」 


 私とアリサちゃんとカナミちゃんは、お行儀よく先生に「こんにちはー!」と挨拶をした。


「この女の子は、ワタシの親戚のジョディ・ジャーマンさん。ゴールデンラズベリー賞の常連者で名誉挽回賞の受賞を逃し続けている映画監督、グレイ・ジャーマンの愛娘よ。男の子は、エーリッヒ・ケストナー君。エーリッヒ君は、アカデミー賞を受賞した映画監督フレイミール・ケストナーの愛息子よ。二人は、スクールメイトデス」

 

 じょ、情報量が多いな!


 まず、ゴールデンラズベリー賞はアメリカの映画賞なんだけど、一種のジョーク賞だ。

 毎年、アカデミー賞授賞式の前夜に「この映画はさ、最低だったよね(笑)」という映画が選ばれる。その常連がグレイ・ジャーマンなんだ。

 常連さんのための名誉挽回賞もあるんだけど、ジャーマン氏は名誉挽回する気がないのか、最低の座を独占し続けている、愛されおもしろ映画監督なんだよ。


 そして、フレイミール・ケストナーは、「彼は何を撮っても最高だね」と言われる監督だ。

 賞レースにめちゃくちゃ強い! そして、日本嫌い、八町大気アンチで有名。

 八町がいつも「ケストナーがまた僕の作品を酷評してる」と愚痴っていたよ。


 おーい八町~、お前の敵の息子がここにいるぞ~。

 

 笑顔で挨拶しつつ、私はスマホでナイショ話をした。

 ナイショ話の仲間は、八町ではなく、女子の友達だ。

 エーリッヒ君は子どもだし、八町が出てきても八町の評判が悪くなるだけだと思ったので。

 

 アリサちゃん、カナミちゃん。スマホを見て。私のメッセージ見て。


葉室王司:アリサちゃん、カナミちゃん

葉室王司:今この外国人たち、日本をボロカスに言ってなかった?

葉室王司:私の英語力によると、「ヤマチタイキなんて大したことない。日本はレベルが低いね」とか「日本人は英語がわかんないんだ。悪口言い放題だよばーか」とか「日本のレベルが低いのは事実」「ちゃんとした教育を受けてないのよ。文明開化してない野蛮な国なの」とか言われてたよ

高槻アリサ:言ってるなーって思ってた(笑)

三木カナミ:は?ぜんぜん聞き取れなかったけどそんなこと言ってたの?

葉室王司:アニー先生は「こらーだめよー」って注意してくれてたと思う

高槻アリサ:日本、ばかにされてる~

三木カナミ:英語で言い返してやれ!あたしはできない!


 言い返したくなるよね、うんうん。

 よーし。


「Erich Kästner」

 

 名前を呼ぶと、エーリッヒはびっくりしたような顔で両手を自分の胸に当てた。

 

「I recorded your voice. Shall I post the recording on social media, saying that the son of Freymir Kästner was mocking Japan? Since many Japanese people are not good at English, let's include a translation as well」


 『君の発言を録音してやったぜボーイ! 翻訳付きでSNSに晒してやろうか!』という意味のつもりだ。伝わった?

 あ、伝わってるっぽい。

 もちろん、録音はしてないんだけどね。

 ハッタリは大事だよ、ハッタリは。


 私がじーっと半眼がちに睨んでいると、アニー先生が「オー、オージー、許してアゲテークダサイ。センセイも謝ります、ゴミンナサイ」と謝ってきた。そして、エーリッヒとジョディに「めっ」と叱ってくれた。

 

「This girl's mother is well-known for being aggressive when it comes to lawsuits for defamation!」

 

 うん、うん。

 『王司のママは訴訟積極勢として有名?』――ま、間違ってはいないかな……。


 私が「その通りだし、ママについてはノーコメントでいいかな」と首をかしげていると、騒ぎに気付いた八町大気が透明ブースから出てきたようだった。

 ファンたちが「きゃー!」と黄色い声をあげている。

 八町、人気だな。

 

「ハロー、海外からのファンも来てくださったのですね。光栄です。罵倒が聞こえた気がしますが、僕はマゾなので問題ありません。ところで、この場にお集まりの皆さまに、SNSで先日お話した強化指定役者を紹介しましょうね」


 八町はぺらぺらと適当なことを言い、私とアリサちゃんの肩に手を置いた。

 距離感に気を付けろ八町。セクハラは相手がセクハラだと思ったら成り立っちゃうからな。


葉室(はむろ)王司(おうじ)さん。高槻(たかつき)アリサさん。この二人は、僕の北島(きたじま)マヤであり、夜凪(よなぎ) (けい)なのですよ!」


 お客さんたちが「おお!」とどよめき、拍手をしてくれる。

 写真や動画だって、いっぱい撮られてる。

 ちなみに、北島(きたじま)マヤと夜凪(よなぎ)(けい)は、両方とも演劇漫画の主人公だ。

 どっちも未完で、有名なんだ。


 お客さんが「確かに、二人とも天才だもんね」「現実でこんなプロジェクトを応援できるとは、面白いなあ」と盛り上がる中、「はーい」と手をあげて八町に質問する子がいた。

 黒人の女子、ジョディだ。ジョディはスマホに向かって英語を言い、翻訳アプリで日本語にして質問をした。


「キョーヒコも、ソダテマスカ」


 おや、ジョディちゃんは恭彦ファン?


「Yes! He is my son!」

「?????」


 おい八町。ヒーイズマイサンだと「彼は僕の息子」だぞ。いいのか、その答えで。

 外国のお客さんたちが「え、そうだったの?」って顔しちゃってるよ。


「ちょうど恭彦君が来たところですね。では、有名なあのセリフを言いましょうか」


 八町は絶対に悪ノリしてる。

 第三会場に入ってきた恭彦を見つけて、「おいでおいで」と手招きをして……。


「I am your father!」


 スターウォーズのダース・ベイダーのように渋く言い、恭彦にハグをした。


「……おおおっ」


 お客さんたちが大喜びで写真や動画を(略)

 この人たち、ちゃんとジョークだとわかってるかな?

 

 あと、恭彦お兄さんがすごく嫌そうな顔で「うえっ」って言って白眼を剥いた。

 そして、八町の腕の中でぐったりとしている……あの、気絶してない? 大丈夫?


「あっ。……恭彦君。おーい、恭彦くーん。彼には冗談が通じなかったか……しまった。やらかしたな」


 「しまった。やらかしたな」じゃないよ八町。

 あーあ、SNSにやらかしが投稿されちゃってる。拡散されてるよ……。

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