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11、成績は悪いより良いほうがいいよな?

「葉室王司ちゃん。おはよう。制服、似合うね」


 教室に行く途中の廊下で声をかけられて振り向くと、チョコレート色の髪をした背の低い美少年がいた。


 笑顔が優しそうで、儚げとか中性的とか言われるタイプ。

 人によってはショタとも呼ぶかもしれない。可愛い系だ。


 なんか、周りの生徒がざわっとしている。

 

円城寺(えんじょうじ)様が葉室様に挨拶なさったわ」

(ほまれ)様が……」


 校門で見かけた二俣(にまた)夜輝(よるてみ)とは別のタイプのアイドル的存在らしい。


 円城寺誉君か。この子も金持ちなんだろうな。


 ところでこの学校、生徒同士で「様」って付けて呼び合うの? 漫画かよ。


 ……「様」つけたほうがいいの?


「円城寺様、おはようございます……?」

「どうしたの葉室王司ちゃん。僕に『様』なんて付けなくていいよ?」

「あっ、そうでしたか。いえ、そうじゃないかと思っていました」

「君って面白いね」


 やばいぞ、こいつ恋愛ドラマや少女漫画に出てくる王子様キャラみたいなセリフ言った。変なフラグ立ってないだろうな。


 女子からの視線が痛い。逃げよう。


「教室に行くので失礼します」

「僕たち同じ教室だよ葉室王司ちゃん。教室はこっちだよ葉室王司ちゃん? ほら、ついてきて」

「あっ、あ、あう」


 なんでいちいちフルネームで呼ぶんだろう。

 円城寺と王司は以前はどんな仲だったんだろう。情報がない。


 教室に入ると、円城寺はにっこりと笑って「やあみんな。注目の女子をエスコートしてきたよ」と言って机まで教えてくれた。


 そして、私が着席すると教室を出て行った。

 ん?


「あの……円城寺さんってどこ行ったんでしょうか?」


 おそるおそる隣の席の女子に聞くと、とても驚いた顔をされる。

 姿勢がよくて目がぱっちりとした可愛い子だ。

 制服が似合っていて、胸くらいまでの黒髪を二つに分けて結んで、前に垂らしている。


「円城寺様は隣のクラスだから」

「ええ……」


 なんで「同じ教室だよ」なんて3分でバレる嘘をついたんだ?

 試されていた……? 怖っ。


「なんでびっくりしてるの、葉室さん……?」 

「あ、ううん。気にしないで。教えてくれてありがとう……えっと……」


 名前がわからない。

 困っていると、相手は察してくれたようだった。


「私、アリサだよ。高槻(たかつき)アリサ」

「ありがと、アリサちゃん!」

「王司ちゃんって呼んでもいい?」

「うん」

 

 アリサちゃんがいい子でよかった。

 ホッとしていると、教室に教師が入ってきた。

 

「Good morning everyone」

「おはようございます皆さん」


 教師は二人いて、片方が日本人男性、もう片方が外国人美女だ。

 アシスタントイングリッシュティーチャー?


 ネックストラップに顔写真付きの名札がある。日本人教師が田中(たなか)勝利(かつとし)先生。外国人教師がアニー・スミス先生。

 名前を覚えるのが大変だ。


「How are you today? I went to the cinema and watched "Look Back." Various emotions welled up inside me, and I remembered the song "Don’t Look Back In Anger." Have any of you felt angry recently? Like not being able to forgive someone or feeling displeased with the world?  Have any of these feelings come up for you?」


 アニー先生がぺらぺらと喋って、田中先生が通訳してくれる。


「アニー先生は映画館に行ってルックバックを観て、様々な感情が湧いてきて、Don’t Look Back In Angerという曲を思い出したのだそうです。皆さんが最近、不満や怒りを感じたことがあれば教えてほしいと質問しています」

  

 美女に指名されて何人かの生徒が英語で受け答えしている。


 これ、質問内容がうまいよな。

 いじめられてる子が暴露しやすいじゃないか。


「では次、王司さん」

「はい」

   

 英語は前世で身に着けていたので、簡単な受け答えならできるよ。


「私は、最近、自分の知らないことが多かったり、自分にはどうしようもできないことに遭遇したり、もっとうまくできたかもしれないのに失敗してしまったりして、無力感や自分への不満を感じました。Recently, I've felt powerless and frustrated with myself because there are so many things I don't know, I encounter situations I can't do anything about, and I fail at things I could have done better」


 日本語のあとに続いて英語で答えると、教室の生徒たちが「え?」って顔でこっちを見た。なに?


 隣のアリサちゃんがびっくりした顔で囁いてくる。


「王司ちゃん。いつも英語しゃべれなくて何も言わないで俯いちゃうのに。しゃべれたんだね! すごいキレイな発音で上手だよ!」


 あっ。元々の王司は英語ダメだったんだ……?


 アニー先生は嬉しそうに微笑み、「アナタと会話できてうれしい」と日本語で言ってくれた。

 田中先生も「グッド!」と言ってくれている。


 評価されたのはいいことだよな?

 もうしゃべっちゃったし。

 成績は悪いより良いほうがいいよな?


「では授業を始めます。教科書の32ページ開いて」

  

 こうして授業は始まり、葉室王司は「休んでたと思ったらいきなり勉強ができるようになってる」とみんなに驚かれた。


「王司ちゃん。グミあげる。こっそりね」


 アリサちゃんはグミをくれた。

 なんか、友だちって感じだ。いいな。

 

 学校、楽しいかもしれない。

 

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