1、関東地方のとあるオーディション会場で(プロローグ)
三日前、国民的俳優が死んだ。
二日前はVtuberとキッズチャンネルの子供が死んだ。
前日は歌舞伎役者とアイドル声優が死んだ。
そんな不穏極まりない夏の日の出来事である。
関東地方のとあるオーディション会場で、女優、西園寺麗華はステージを見ていた。
三日前に亡くなった俳優の江良は、麗華の片思い相手だった。
知らせを受けた時は、あまりにも現実味がなくて、泣くことすらできなかった。何かの間違いだと思いたかった。
でも、遺影が飾られ、事務所の会議室で彼の席が空席になっていたとき、ようやく理解したのだ。――本当に、いなくなったのだと。
江良の代わりに審査員をやれと言われたときは、胸の奥がざわめいた。
彼の代わりを私が?
でも……江良のライバル俳優が代わりを務めたがっていると聞いて、席を渡したくないと思った。
(江良先輩の代理で審査員を務めるなら、ちゃんとやり遂げなくちゃ……先輩、見ていてください)
舞台にライトが灯る。
歌、ダンス、演技――全力で夢をつかみに来るオーディション番組<ゼロ・プロジェクト>。
その本番が始まる。逃げ場はない。
(江良先輩のためにも。応募者のためにも……この番組は、絶対に成功させるわ)
麗華はマイクをONにし、息を吸い込んだ。
震えそうになる声を喉の奥で押し留めて、ステージに呼びかける。
「エントリーナンバー13番。葉室王司君。パフォーマンスをどうぞ」
ステージ上に設置された巨大モニターには、生配信中のこの番組の映像と視聴者のコメントが流れていた。
:次の候補生、男? 女?
:挙動不審じゃね?
:こいつ知ってる、しょうもないクズ野郎だよ
ステージ上の少年――葉室王司は13歳。
顔立ちは整っている。ショートヘアの黒髪はさらさらで、前髪が長め。
応募書に書かれているより身長が低い。
オーバーサイズのジャージの袖から指先がわずかに覗く姿は頼りなく、中性的な印象だ。
彼は、用意してきたパフォーマンスを披露しなければならない。
なのに、動きがない。渡された資料では、『家柄もルックスもいいがSNSの評判が悪く、落選予定』となっていた。
自分の実力を披露する前に結果が決まっているのは、可哀想だと思う。
でも、配信コメントでも彼は不人気だ。
真偽は不明だが、よろしくない評判がいくつも投稿されている。
:こいつ、女の敵だって噂
:パフォーマンスしないと失格だぞ王司
:金持ちだし顔はいいけど何もできないんじゃ勝てないね
麗華と視聴者が待っていると、王司の手が自分の体に触れた。
頬、首、肩……そして胸元。
まるで未知の物体を確かめるような指先がジャージの裾を握り、ためらいがちに引き上げるので、麗華は目を剥いた。
「えっ? なにしてるの?」
ジャージの下、タンクトップの胸元に、控えめながら女性の性徴を示す膨らみがあった。カメラが寄り、モニターにその映像が映し出される。
「ま、待ちなさい。あなた……」
麗華は言葉を失った。
応募用紙の性別欄は男性に丸がつけられていたのに、葉室王司は女子だったのだ。
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