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恋と愛に挟まれて死ぬ  作者: 夢乃間
2章 魔王と呼ばれた少女
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濁流

 トンネルを抜けた先に道は無かった。いや、あるにはあるが、伸びっぱなしの雑草や地面に木の根が浮き出ていて、人の手が入っていない。純度百パーセントの自然だ。人々から追われているリリーからすれば、人の手がつけられていない場所に隠れられるのは好都合だが、車椅子の僕が通れる道じゃない。 

 引き返そうか悩んでいると、僕の目の前でリリーがしゃがみ込んだ。具合が悪いのか? まさか、僕を背負うだなんて言うんじゃないだろうな。


「ここからは私がおぶる」


「えー……」


「車椅子じゃ進めないでしょ?」


「それは、そうですけど……」


「大丈夫! こう見えても私、水樹よりも力が強いから」 


 力の強さ弱さは関係ない。小さな女の子に背負われるのが嫌なんだ。僕が10代前半なら抵抗なく背負われただろう。だが10代後半になると、プライドというものが明確に芽生える。男は男らしく、女は女らしく。

 僕は男だ。その男のプライドが僕に訴えかけてくる。リリーに背負われるのなら、いっそ殺してくれと。

 しかし、そんな僕のプライドを無視するように、リリーは僕の両腕を肩に置き、そのまま強引に僕を背負った。


「ね? 私は大丈夫。むしろ、水樹は男の子にしては軽すぎるよ」


「……屈辱だ」


「見た目は幼くても、歳は水樹よりも遥かに上なんだから、気にしなくていいのに」


「人はね、他人に格好つけたい生き物なんですよ」


「水樹は、自分が格好いいと思ってるの?」


「それって馬鹿にしてる?」


「馬鹿にしてないよ」


 そう言って、リリーは僕を背負って森の中を進み始めた。陽の光を遮る木と、リリーの冷たい体温に凍えてしまう。今が夏じゃなくて良かった。

 森の中を進み続けてどれくらい経っただろう? 依然と景色は変わらず、自然に溢れている。何処かから聴こえてきていた水の音が近付いてきているのから察するに、リリーはそこへ向かっているのだろう。こんな森の中にある水が飲めるものかは知らないが、水がある場所は休むのに良い場所だ。

 自然に溢れた森の中から、開けた場所に出ると、川が流れていた。さっきまでより雑草は薄く、川の近くな所為か、清潔感があるように思える。川の前に下ろしてもらい、僕達は肩を並べて、川が流れていく様を眺めた。


「……ここは、何処なんだろう? 家から、町からどれくらい離れられたんだろう?」


「随分離れたと思うけど、そんなに離れられていないとも思う」


「今頃、家では花咲さんが大騒ぎしてるんだろうな。手紙でも残しておくべきだった」


「……ごめんね」


「謝らなくていい。僕が勝手に家を飛び出したんだ」


 穏やかに川が流れている。木の葉がユラリユラリと川に落ちていき、川の流れに沿って遠くへ流れていく。もう秋だ。これからすぐに冬が来る。雪が降れば凍えるし、食べる物だって無い。そもそも、冬が来るまでに飢え死ぬ。

 僕は何をしているんだろう? トラウマを克服して外に出られるようになって、悪夢から身を守る術を得て、ようやく人間らしく生きられるようになった。なのに、今は死ぬ事が分かっている道を進み続けている。死にたくないのに。

 

「……水樹。ありがとう」


「急にどうした?」


「私のワガママに付き合わせて……ずっと長く生きてるのに、水樹よりも子供っぽい」


「だから、僕が勝手に決めた事だ。リリーのワガママに付き合ったとか、そんなのじゃない」


「……皆ね、対価を求めてきたの。ワガママとか、単なる頼み事でも、何かしらの対価を求めてきた……でも、水樹は求めてくれない。ねぇ、水樹は何が欲しいの?」


「今日のご飯と寝床」


「それは確かに欲しい! アツコの料理は美味しかったな~」


 敦子姉さんの料理か。いつもみたいに、何処からともなく現れて、弁当でもくれないかな?


「水樹もそうだけど、アツコも違うんだよ」


「違うって、何が?」


「雰囲気、とかかな? 言葉にすると難しいけど。人ってね、初対面の相手でも、雰囲気とか身なりで大体の事を把握出来る。でも、二人は違う。どっちも謎だらけ」


「普通は謎だらけだと思いますけどね。そうじゃなきゃ、交流が楽しくなくなりますよ」


「そうね。あの家で過ごした1週間ちょっと。本当に楽しかった。アツコは優しくて、ハナサキはうるさくて、水樹は……なんだろうね」


「僕だけ印象が薄いんですか?」


「一緒に夜を過ごしたのに、印象が薄いわけないでしょ? むしろ逆。色濃い所為で、一言で表せない」


 随分と僕を高く評価してるもんだ。敦子姉さんや花咲さんもそうだが、そんなに惹かれる存在か? 僕からすれば、佐久間水樹に関わろうとは思えない。不幸を伝染させる気がして。まぁ、人の好みはそれぞれだもんな。

 地面に寝そべって、空を眺めた。陽の光と青い空。そこに鳥の群れが通っていく。


「……ん?」


 鳥の群れは急旋回し、丁度僕らがいる真上で円を描いて回り続けていた。不自然だ。そういう習性があるとしても、僕らの真上で回り続けているのはおかしい。何か変だ。嫌な予感がする。ここから離れないといけない。


「リリー、ここから―――」


 起き上がったと同時に、背中に何かが刺さった。手で探り、背中に刺さっている物を抜き取って見てみると、それは注射器のような物だった。


「なに……こ……れぇ」


 突然、重い睡魔が僕の体を襲った。普通の睡魔よりも、抗い辛い。耐えようとしても、どんどん睡魔は酷くなり、体に力が入らなくなる。地面に寝そべってからは、全く体が動かなくなっていた。辛うじて動かせる目で状況を把握しようとしたが、朦朧とする意識の所為で、視界が歪んでいる。

 あれは、リリーだろうか? 僕に叫んでるようだが、何かの喧しい音の所為で聞き取れない。空を切るような……あれは確か、昔聴いた……ヘリコプターの……

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