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恋と愛に挟まれて死ぬ  作者: 夢乃間
2章 魔王と呼ばれた少女
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出入口

 ここは実験施設か何かか。見渡す限りの人と、周囲から聴こえてくる色とりどりの喧しい音楽。僕の思い出に付き合わせてしまったお返しに、花咲さんが行きたい場所へ行こうと言ったのが間違いだった。  

 僕達が今いる場所は、先月出来たばかりの店舗集合体のデカい建物。食品売り場や雑貨屋はもちろん、ゲームセンターや娯楽用品、屋上には小型の遊園地がある。これだけ店があれば、どんな人間でも必ず一つは興味が惹かれる店があるだろう。現に、どの店にも人が埋め尽くされている。あれじゃあ、ゆっくり品定めする余裕も無い。


「佐久間君はどのお店を見たいですか?」


「何処も喧しい。人通りが多すぎて通路が意味を成してない。迷子の放送が周囲の声で掻き消される。欠点が多すぎる」


「アハハ……まぁ、確かに人は多いですね。せっかく色々なお店があるのに、落ち着いて店内を回れませんよ」


「先月でしたっけ? ここがオープンしたのは」


「はい。【全てを詰め込んだ夢の場所】っていう売りで開店しました」


「夢ねー。まぁ、間違ってはないですね……ん?」


 何処の店も繁盛している中、一際異彩を放つ店舗に目が留まった。白い壁の中央に木製の扉があるだけの店。客の姿はおろか、店員の姿も無い。商売をする気があるのだろうか? 

 でも、他の店とは違う事もあってか、異様に気になってしまう。


「あそこ、行ってみませんか?」


「でも、誰もいませんよ? 物も無さそうだし」


「見るだけ見てみましょう」


 店に入ってみたものの、やはり何も無く、誰もいない。あるのは扉だけ。扉のドアノブを捻って開けてみると、頼りない照明に照らされた一本道が続いていた。スタッフの裏口か何かなのか? 例えそうだとしたら、一般客が入らないように注意書きがあるはずだ。

 つまり、この先にこの店の本性があるという事か。なんだかワクワクしてきたな。昔、テレビで観た洞窟を探検する番組みたいで、この先で何が待ち受けているのかが気になってしまう。


「進んでみましょうか」


「え!? ほ、本当に行くんですか……!? 暗くて怖いですよ……!」


「包丁持ってた花咲さんよりは怖くありませんから」


「さ、佐久間君が大丈夫でも……あ! 待ってくださいよ!」


 薄暗い道を進んでいくと、二手に分かれる分かれ道に行き着いた。右の道は明るく、左の道はより暗くなっている。


「どっちに進む?」


「右です! 断然右!」


「なんでそんなに怖がってるの?」


「暗いのが苦手、だからですよ!!」


「そ、そっか。じゃあ、右に行きましょうか」


 花咲さんの望み通りに右の道へ進んでいくと、急に照明の明かりが消えた。途端にパニックになった花咲さんの絶叫に、心臓が跳ね上がってしまう。その花咲さんの絶叫に混じって、壁に何か重い物が叩きつけられたような音が響くと、照明の明かりが戻った。

 先程聞こえた音の正体を探ろうと、周囲を見渡していくと、息を荒げた花咲さんの足元に人の形をした何者かが倒れていた。服は酷く汚れており、顔には目と鼻と眉毛が無い。


「……ん?」


「ささささ佐久間君!!! 早く!!! 早く進みましょう!!!」


 再び暗闇になる事を恐れてか、花咲さんは僕が乗っている車椅子を押して走り出した。その道中で、また人の形をした何者かが現れ、その度に花咲さんが瞬く間に叩き潰していく。  

 この店の正体が分かった。ここはお化け屋敷だ。一見化け物に見えるあれらは人が仮装したもので、入ってきた客を驚かせるキャストさんなのか。そうとなれば、花咲さんがやってる事は迷惑行為を通り越して犯罪行為という事になる。止めようにも、暴走状態の花咲さんを止める術が無い。僕が出来る事といえば、この後の謝罪の言葉を今の内に考えておく事だ。

 

「佐久間君!!! この道、何処まで続いてるんですか!?」


「この度は迷惑をお掛けして……でも、注意書きしてない店側の非もあるし……いや、それでも謝るべきか」


「うわ~ん! 佐久間君もおかしくなっちゃったー!」


 この後の事を考え込んでいると、お化け屋敷の最後の仕掛けであり、最大の見せ場らしき場所に辿り着いた。設置されていた棺桶から、裸にオーバーオールを着た豚頭の大男が出てきて、チェーンソーを掲げながら唸り声を上げた。言ったら失礼だが、かなり変態だ。離れているのに届いてしまう程、臭いがキツい。

 でも、あれだけの大男、しかも手にはチェーンソー。暴走しているとはいえ、流石に花咲さんも殴りかかりにいかないだろう。

 そう思った矢先、大男に向かっていく花咲さんの姿が視界に映った。花咲さんは躊躇なく大男の股間を蹴り上げ、大男が怯んだのと同時に殴り倒し、執拗に顔面に蹴りを振り下ろし続ける。最初はあれだけ元気な唸り声を上げていた大男も、今では静まり返ってしまっていた。


「花咲さん。もう止めてください。殺す気ですか?」


「だってチェーンソーを!」


「持ってましたけどね? 今の彼を見てくださいよ。よーし、今から驚かすぞーって棺桶から出てきたのに、棺桶に戻さなきゃいけなくなってますよ」


「あ、そっか!」


「あ、そっかじゃない。棺桶に戻そうとしないで。なんで一回り以上も大きい男性を担げるんですか。あなたが一番化け物ですよ」


「じゃあどうすれば!?」


「そっちに分かり易い出口があるでしょ? そこ行けばいいんですよ」


 照明に照らされた扉を指差すと、花咲さんは僕を飛び越えて、車椅子を押して出口の扉へと向かった。扉の先に出ると、僕達は入り口に戻っていた。通路には相変わらず沢山の人が行き来し、喧しい音楽と目に優しくない眩しい光に溢れている。


「も、戻ってこれたー……!」


「……そう、ですね」


「佐久間君? どうかしたんですか?」


「……いえ、なんでもないです。それより花咲さん。お腹空いてません? こんなに広くて色々な店舗があるんですから、花咲さんの好きな場所で食事にしましょう」


「私が決めていいの? それじゃあ、美味しいパンケーキが食べられるって口コミのお店に行きませんか? じ、実は、ここに来たのはそれが目的みたいなもので……」


「パンケーキ? あー、ホットケーキですね。じゃあ、そこ行きましょう」


「やった! じゃあ、私が案内しますね!」


 花咲さんはさっきまでの狂乱とした様子から一変し、眩しい程の笑顔を浮かべながら通路へと出ていく。僕もその後に続き、通路へと出た。

 僕は答え合わせをするように、お化け屋敷の店の方へ振り向いた。そこには真っ白な空間が広がっているだけで、僕達が出入りした木製の扉など無かった。喧しい音楽と人の声は掻き消え、迷子の放送をしている機械的な女性の声だけが聞こえてくる。


『引き続き、迷子のお知らせです』

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