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恋と愛に挟まれて死ぬ  作者: 夢乃間
2章 魔王と呼ばれた少女
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桜の木の下で笑う君よ

 人生二度目の転換期。車椅子生活の始まりだ。病院で調べたところ、やはり僕の右足は壊れてしまっていた。見た目に異常は無いが、中身がもう手を付けられないくらいズタズタになっているらしい。専門的な用語で説明された為、あまりよく分からなかったが、もう二度と右足を動かす事が出来ない事は理解出来た。

 面白かったのが、偶然にも、僕の右足を元の形に治してくれたお医者さんがまた担当してくれた事だ。お医者さんは僕の右足の異常を確認するや否や、感情剥き出しで叱りつけてきた。診察の時間より、説教の時間の方が多かったくらいだ。悪い事をしたなと思いつつも、お医者さんでも怒鳴りつける事があるんだと知れて、感心してしまった。  

 そんな訳で、右足を切断するか車椅子生活かの二択の後者を選んだ僕の新しい日常が始まる。


「佐久間君、おはようございます! 時刻は八時、天気は晴れです! 朝食の準備は完了してるので、一階に下りましょう! さぁ、私の背に乗ってください!」


 これから毎日、こんなハイテンションな花咲さんが起こしに来るのか。寝てないから気分が悪いし、うるさいし、ウザいし、うるさい。努力の方向性を間違ってるよ。

 

「……花咲さん。明日からはもうちょっと静かに起こしに来てください。家から追い出しますよ?」


「ッ!? ご、ごめんなさい……私の所為で佐久間君がこうなっちゃったから、償いたいって思って……」


 花咲さんの事が嫌いになりそうだ。少し注意しただけで、声色を弱くして罪悪感を覚えさせてくる。これじゃあ見捨てようにも、見捨てられない。

 女性の背に乗る抵抗感に抗いながら花咲さんの背に乗ると、花咲さんは勢いよく立ち上がり、一階のリビングへと猛スピードで下りていく。僕と組み合った時も感じたが、花咲さんは力もそうだが、体幹の強さもある。細身に見えるが、中身はアスリート並だ。あの時、背後から仕掛けたのは英断だったな。真正面だったら、逆に僕がやられていた。

 リビングに着くと、敦子姉さんがテーブルに朝食を並べていた。敦子姉さんは僕達、というよりも、花咲さんの背に乗っている僕を真っ直ぐ見つめてきた。


「おはよう」


「……おはようございます」


「朝から暗い顔して、どうしたの?」


「寝起きにジェットコースター体験させられたら、誰だってこうなりますよ……」


「アハハ! 桜ちゃん張りきるのはいいけど、乗せてる人の事も考えないと! 明日からは流し素麺くらいの速さにしておきなさい」


「それ何も変わってないですから」


「佐久間君……迷惑、でしたか?」


「もう面倒くさいんで、早く朝ご飯にしましょうよ」


 ようやく椅子に座らせてもらい、僕達三人は手を合わせてから朝食を食べ始めた。白いご飯、ワカメと油揚げの味噌汁、サンマかイワシの焼き魚。朝から頭を悩ませる目に遭ったが、敦子姉さんの朝食のおかげで、嫌な事が色褪せていく。この全てが優しい味付けの朝食が、空っぽな体を満たしていく。


「佐久間君。何か欲しい物はありませんか?」


「藪から棒にどうしたんですか」


「いえ、その……」


「水樹君。桜ちゃんは水樹君をデートに誘ってるんだよ」


「デート? ああ、お出かけね」


「……木島さん。どういうつもりですか?」


「フフ。淡い恋は応援してあげるのが、年上の使命だからね」


「いきなり欲しい物って言われても思いつきませんし。外の世界を案内してくれますか? なにせ、半年も外に出ていませんでしたから、この周辺に何があるのか忘れてしまって」


「そ、そうですか……! じゃあ、この後すぐに行きましょうね!」


「青春ね~」


 一時はどうなるかと思われた三人暮らしだけど、敦子姉さんが上手く立ち回ってくれるおかげで波風立たない。花咲さんは暴走しがちだけど、色々と楽しませてくれる。僕は役立たず。

 僕らの関係を例えるなら創作活動だ。絵描きの花咲さんが、真っ白なキャンバスの僕に絵を描き、敦子姉さんがより良く描けるように花咲さんにアドバイスする。一つ欠けたら崩壊する絶妙な関係。好き勝手描かれる僕はたまったものじゃないけど。

 仕事に行く敦子姉さんを見送った後、僕と花咲さんは家から出た。僕が使う車椅子は良い物らしく、手で漕ぐ以外にも、手元にある操作レバーで動かせるらしい。とりあえず手で漕いでいるが、僕が乗っているのも忘れてしまうくらいに軽い力で進める。


「本当に私が押さなくていいんですか?」


「足が駄目になっても腕はマトモなままだ。鈍らせたくない」


「そうですか、残念です……それで、まずは何処に行きましょうか?」


「そうだな……公園。家からほんの少し離れた場所にある公園に行きたい。昔、よく両親に連れて行ってもらったから」


 僕の過去の道と、花咲さん現在の道を照らし合わせながら、僕達は公園に向かった。道中、何度も道が変化している所があった。人の変化だけに留まらず、道までも変わっていく。たった半年の間に、こうまで変わるのかと驚いてしまう。前よりも改善された良い変化だが、その変化に置いてけぼりにされている僕は、なんだか惨めだ。

 そうして、僕達は目的地である公園にやってきた。思った通り、公園も僕の記憶とは違った姿になっていた。遊具は消え、子供の姿も消え、ベンチと木だけが残された殺風景な公園になっている。


「随分、物悲しくなったね」


「年々遊具が減らされていましたから。去年にはもうこうなっていました」


「そうか……中学生になってから、一度も来なかったからな。最後に来たのは、小学校の四年生くらいか。あそこにあったブランコでお母さんと競争して、その光景をお父さんが撮って。あっちにあったジャングルジムでお母さんとおいかけっこして、またその光景をお父さんが撮って……あぁ、でもあれは、そのままみたいだね」


 公園の中央に生えている一本の木。今は枯れ木のように見える木だが、春になれば満開の桜を咲かす桜の木だ。

 僕は桜の木の下まで行き、確かめるように木に触れた。その瞬間、走馬灯のように両親との思い出が蘇り、満開の桜の木の下で笑い合う三人の姿が幻影となって現れた。確かに幸福で、確かに温かった両親との思い出。両親に可愛がられている幼い頃の僕が羨ましい。戻れるなら、この頃に戻りたい。この頃のまま、時間が止まってほしい。

 

「佐久間君……」


「……時間が戻らない事は、もう嫌という程に分かってる……でも、やっぱり……あの頃に戻りたいよ……」


 涙が止まらない。この幸せな幻影が消えてしまう気がして、涙を拭えない。外に出られるようになっても、これからどんな幸せが訪れても、両親がいた頃の幸せを超える事は無いだろう。

 僕の右手に花咲さんの体温が伝わってきた。多分、花咲さんが僕の手を握ってくれたのだろう。花咲さんの体温のおかげで、僕がもう独りじゃない事が実感出来る。失った過去ではなく、これから得られる未来に目を向けるべきだ。それが今の僕がすべき事だとは分かっている。

 でも、僕は花咲さんの方へ目を向ける事は出来なかった。身を引こうとしている過去を離さずにはいられなかった。

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