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恋と愛に挟まれて死ぬ  作者: 夢乃間
1章 夢見る少年
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大人と子供

 今日も今日とて繭さんと通話だ。初めて通話したあの日から、夜になってパソコンのメッセージを確認すると、滝のようにメッセージを送られていた。僕が返事をすると、すぐに通話が始まり、決まってこの言葉で僕らの会話は始まる。


「遅い!!!」


 本来の座り方を知らないかのような椅子の座り方で、こちらを睨みつけてくる繭さん。酷く不機嫌に見えるが、通常運転だ。


「繭さん。今日は何をして過ごしていましたか?」


「寝て、今起きた」


「一日のエネルギーを僕にぶつけないでください。何でもいいので、何かしてくださいよ。繭さんは毎回話題を出す僕の大変さを知った方がいいです」


「は? アンタは年下。私は年上。下は目上の者を楽しませるための努力を惜しむな」


 ここ数日で、なんとなくだが、繭さんが引き籠ってる理由が分かった。この人は自分の思い通りにいかないと納得出来ない性格で、いつでも自分が上の立場じゃ無ければ気が済まない。当然そうはならないのが外の世界だ。上と下を使い分け、他人と繋がる事が人付き合いというもの。

 僕もそうだが、外の世界で生きるには、あまりにも壁を高くし過ぎている。他人と線を繋げようにも、その高い壁とは裏腹な短い線では、繋がる事は不可能だ。壁を低くすれば繋がる事は可能になるが、それが出来れば繭さんは引き籠ってはいない。そして僕の場合は、まず自身の高い壁を登る事からだ。

 

「繭さん。今日は試してみたい事がありまして……これなんですけど」


 僕はインターネットに載っていた画像をそのまま書き写した紙を掲げた。


「何それ? 何かの絵?」


「ロールシャッハテスト。これが何の絵に見えるか答える……いわば、その人の考え方を知る為の遊びです」


「あー、聞いた事はある。ちなみに、水樹はどう見えたの?」


「黒ですね」


「黒? い、いや、確かに黒い絵だけど……うーん、なんだろう。人の、顔?」


「え? 人の顔? どこかですか?」


「見えるでしょ!? よく見てみなさいよ!」


 言われるがまま、僕は紙に描いた絵を凝視した。離したり、近付いて見たりしたけど、やっぱり黒としか思えなかった。発想の違いか、あるいは今の僕の精神状態が自分で思っているよりも深刻なのか。


「水樹ってさ、何かやりたい事とかあるの?」


「いきなり急ですね……」


「アンタも急にテストしてきたでしょうが。で? 無いの?」


「やりたい事……外に出る事ですかね?」


「出て、何をしたいの?」


 外に出る事ばかり考えていた所為で、出た後の事は考えていなかった。外に出る事は僕にとってトラウマを克服した証。そうして僕はようやく新しい人生を始められる。

 でも、その後はどうするんだ? 新しい人生を始めて、僕は何をして、何処へ目指すんだ? 


「答えられないの?」


「……すみません。分からないんです。出る事ばかりを考えていたので」


 僕は勘違いをしていた。外に出る事がトラウマを克服した証じゃない。外に出て、自分の道を見つけて歩き出すようになれた時こそが、トラウマを克服した証になるんだ。今のままでは、例え外に出れたとしても道が無く、結局この家に戻ってきてしまう。

 繭さんの事を少し見直した。確かに彼女は引き籠っているが、僕よりも歳が上な分、見えるものや見たものが多い。一度は引き籠りから外へ出られるように更生出来たし、その時の経験から僕にアドバイスをしているのだろう。


「繭さんって、僕より年上なんですね」


「は?」


「僕にアドバイスをくれたじゃないですか。繭さんのアドバイスは、今後の僕にとって、とても有益なものです」


「……私は、水樹が羨ましいよ」


「え?」


「水樹。アンタはまだ10代で、まだ子供だ。外の世界で迷っても、誰かが助けてくれるし、交流の場も多い……でも、私はもう20代。外の世界で迷っても、自分で抜け出さなきゃいけないし、交流の場は少ない。精神が幼くても、歳が成人というだけで、大人として生きなきゃいけなくなる。私は、まだ子供なのに……」


 大人と子供の違い。その事を繭さんは包み隠さず僕に打ち明けてくれた。成長性は人それぞれで、誰でも最終的には大人になれる。

 でも、外の世界にある【社会】では、人が大人に成長するまで待ってあげる悠長さはない。外の世界のルールで成人と定められた年齢に達するまでに、人は大人に成長しなければいけない。その為に学校があり、その為に学生生活があり、そうして大人に必要なスキルを習得する。なんのスキルも持たず、年齢が成人になったとしても、本当に大人として成長した他人と一緒の道には進めない。

 繭さんは多分、大人としての道を進めなかったんだろう。やり直そうとしても、時間がそれを許さない。時間は前に進むばかりで、戻る事はないのは当然だ。一人の為に時間がある訳じゃなく、人の為に時間がある訳じゃない。時間は、ある意味では神様と同等の存在だ。


「……水樹。アンタは、私みたいにならないでね」


「……善処はします」


「……もし、さ。もしもだよ……? もし、水樹が外に出られるようになったら……私の事も外に連れ出してほしい……」


「外に連れ出して、僕はどうすれば?」


「好きにして……私はもう、一人じゃ外に出られない……水樹が歩いていく道に、私を連れて行ってよ……」  


「……決めました。繭さんに会いに行きます」


「え……?」


「僕が外に出られるようになったら、まず初めに繭さんに会いに行きます。あんまり遠いと、行く気がしませんけど」


「……そこは、絶対行くって言ってよ」


「交通機関の使い方を忘れかけてるんですから、仕方ないでしょ。というか、外に出られるようになったら、まず学校に連絡しないといけませんね。繭さんみたいに里帰りしない為にも」


「……なんか、ムカつく……フヒヒ……!」


 ようやく笑ってくれた。相変わらず変わった笑い方だけど、変わってるから分かり易い。他人と同じような考えや笑い方ばかりの中でも、他人と変わっていればすぐに見つけられる。

 場が和んだ事をキッカケに僕が話題を変えようとした瞬間、僕の部屋の扉からノック音が聴こえてきた。


「何の音?」


「あー、今日はここまでにしときましょう。また明日」


 僕は急いで通話を切った。繭さんと良好な関係を築けているのは、繭さんが同じ独りだと僕を見ているからだ。もしここで他の誰かの影が見えてしまえば、せっかく築いた繭さんとの関係にヒビが入る。そうなってしまえば、修復は不可能だろう。

 パソコンの電源を切り、ヘッドフォンとマイクを隠してから、僕は部屋の扉を開けた。部屋の前に立っていたのは、やはり敦子姉さんだった。


「どうしたの敦子姉さん? 何か僕に用?」


「用って程じゃないけど……ねぇ、水樹君」


 敦子姉さんの顔が僕の顔に近付いてくると、途中で軌道を変え、僕の耳元に敦子姉さんの唇が触れた。僕の意識が敦子姉さんの吐息がかかる耳に集中し、その耳に敦子姉さんが囁いてくる。


「頑張ってね」

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