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恋と愛に挟まれて死ぬ  作者: 夢乃間
1章 夢見る少年
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同居

 敦子姉さんとの二人暮らしが始まったが、困った事が起きている。


「水樹君と寝ます」


「駄目です」


「駄目じゃありません。お姉ちゃん命令です。従いなさい」


「家主は僕です。命令を出すのは僕の方です。従ってください」


「やだ」


「お願いしますよ。どうしてそこまで僕の部屋で寝ようとしてるんですか?」


「だって! 心配なんだもん!」


 家に来てから、僕の部屋で一緒に寝ようと強要してくる。どれだけ断っても、頑なに諦めようとしない。おそらく玄関で僕が取り乱したのを見た事で、僕の心身が心配になっているのだろう。心配してくれるのは嬉しいが、僕の部屋は僕の物だ。

 なにも敦子姉さんが嫌いだから断っているのではない。むしろ頼りになるお姉ちゃんとして尊敬している。でも敦子姉さんと部屋を共用する事になれば、宮田さんとの件がバレてしまう。せっかく更生の一歩を踏み出そうとしているのに、それを邪魔される訳にはいかない。

 だから、なんとしても敦子姉さんを納得させる必要がある。


「……分かりました。では、条件を出しましょう」


「条件?」


「向かいの両親の部屋は今空いています。敦子姉さん用に綺麗にしておいたのですが、元々両親が使っていた部屋ですので、僕の部屋よりも広くて、ベッドも二つあります」


「荷物は少ないよ? 場所は取らないから!」


「そうですね、少なすぎてビックリしましたよ。荷物が仕事用のスーツ二着と、普段着数着だけは少なすぎます」


「私、あまり物を買わない人だからね。服も仕事があって買う気力が湧かないし、水樹君と一緒に住むんだから、水樹君が好きな服を揃えたいから」


「という事で、一緒に寝る事は受け入れます。ただし、両親の部屋のベッドで。一人一つのベッドで」


「一緒に―――」


「一人一つです」


 敦子姉さんはしばらく納得がいかないといった表情を浮かべていたが、仕方がないと言いたげな表情で了承してくれた。たまに表れる敦子姉さんの子供っぽい所は嫌いじゃないけど、少し面倒臭い。

 寝る場所を決めた僕らは、1階に下りて、リビングの食卓に座った。テーブルの上には敦子姉さんが作ってくれた晩ご飯が並べられている。白いご飯とワカメの味噌汁。小皿に乗せられたホウレン草のゴマ和えの隣には、メインである鶏のから揚げが皿に乗せられていた。何故か僕の分だけ全て大盛だ。


「水樹君は男の子なんだから、沢山食べて体を大きくしないと!」


「運動部並にありますね。まぁ、食べますけど」


「それでよろしい! それじゃ、手を合わせて! いただきます!」


「いただきます」

 

 箸を手に取り、始めに味噌汁から口をつけた。濃過ぎず、薄過ぎず、丁度良い塩梅だ。唐揚げに噛りつくと、カリッとした衣の食感の後、中から熱い肉汁が口の中で波立った。生姜の効いた唐揚げの味が口の中に広がり、間髪入れずにご飯を口の中に含んで、よく噛んでいく。


「……美味しいです」


「嬉しいな~! その唐揚げ生姜が効いてて良いでしょ?」


「はい。初めて食べましたけど、結構好きです」


 初めは食べ切れるか不安だったけど、生姜が効いているおかげでいくらでも食べれて、合間に挟むホウレン草のゴマ和えが油ぽくなった口の中をリセットしてくれる。ご飯も味噌汁も美味しいし、文句のつけようが無い。

 勢いが劣ろう事無く食べ進めてから10分が経った頃。僕は完食していた。


「ごちそうさまです。本当に美味しかったです」


「ウフフ、こちらこそありがと! 美味しそうに食べてくれて! やっぱり作ってくれる人の腕ってやつかしら?」


「はい。好きです。敦子姉さんの料理」


「っ!? そんな真っ直ぐ見られながら言われると、て、照れちゃうなー!」


「お風呂どうします? 敦子姉さんが先に入りますか?」


「私はまだ食べ終わりそうにないから、水樹君が先に入ってもいいよ」


「そうですか。それじゃあ、先に入りますね」


 僕はコップに残っていた麦茶を飲み干してから席を立ち、脱衣所へと向かった。脱いだ服を洗濯機に入れ、浴室に入ってすぐにシャワーで体を洗う。浴槽に入る前に必ず一度体を洗うのは、小さい頃から習慣化させられた事だ。

 浴槽に入ると、ほんの少しだけお湯が浴槽から溢れていく。少し肉が付いたという現れ。これからも敦子姉さんがご飯を作り続けてくれたら、白骨化する心配はなさそうだ。あまり肉が付き過ぎるのは考えものだが。

 溶けていくように体から疲れが消えていく感覚に浸っていると、浴室の扉からノック音が聴こえてきた。


「水樹君! 着替えって持ってきてるの? タオルは?」


「着替えもタオルも脱衣所の棚に置いてあります。敦子姉さんのサイズが分からなかったので用意していませんが、着替えはありますか?」


「大丈夫だよ。タオルは使っていいの?」


「好きなのを選んで使ってください。青いのは僕のですから、それ以外で」


「うん、分かった!……ねぇ、水樹君。髪、洗える?」


「洗えますよ」


「体は? 背中とかさ」


「洗えますよ」


「そっか……入るね」


 何の迷いも無く、敦子姉さんが浴室に入ってきた。服は着たままで、シャツの袖やズボンの裾を捲っている。何故入ってきたのか疑問を浮かべている僕を気にせずに、敦子姉さんはバスチェアを自分の前に置き、シャワーヘッドを手に持ちながら僕の方を見続けていた。 


「いつでもいいよ」


 そう言ってニコニコと笑顔を浮かべる敦子姉さんを説得出来る気がせず、僕は浴槽から出て、バスチェアに座った。


「はーい、じゃあまずは髪を洗いますねー!」


「……お願いします」 


 頭に程良いお湯がかけられていき、シャンプーをつけた敦子姉さんの細い指が僕の髪を泡立たせてる。誰かに髪を洗ってもらうのは小さい頃以来だが、他に替えがきかない気持ち良さがある。不思議と懐かしい気分だ。誰かに洗ってもらう事もそうだが、この感覚には憶えがある。


「……水樹君。私ね、今とっても幸せなんだ。こうして水樹君と一緒に暮らせて。ご飯食べたり、お風呂入ったり、一緒に寝たり……今まで感じていた孤独が遠い昔みたい。私、家だと一度も笑わないの。面白い番組とか映画とかアニメとか本とかを読んでも、何も感じないの。幸せを感じられなかった……」


「……僕も、家で独りの時は……いえ、今も笑う事が出来ません。幸せを感じても、表情に出せないんです。笑い方を忘れてしまって、手で笑顔を作ってました」


「知ってる。表情を崩さないように頑張ってたよね……でも、もう作り笑いなんかしなくていいのよ。もう、私達は独りじゃないから。笑い方を忘れたなら、また笑えるように私が頑張るから」


「……ありがとう」


 敦子姉さんは僕の髪を洗い流すと、僕の頬を軽く引っ張った。鏡に映る僕の顔は、手で作った時の作り笑いよりも酷い出来の笑顔だったけど、前よりも自然な感じがしていた。

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