マコトの嘘
最近気づいたのだが、どうやら俺には嘘を現実にする力があるらしい。
例えば明日の降水確率が八十パーセントだとして「明日は真夏日ばりの快晴になるんやって!」とうそぶく。周りの人たちはオオカミ少年ばりに煙たく扱い、まともに取り合わない。
しかし俺の嘘の通りに「真夏日ばりの快晴」が訪れる。律儀に傘を握っている連中を横目に、ほらなというドヤ顔で通り過ぎていく時の快感といったら。
天気予報なんて確率の問題だから、なんとでも言えるじゃないかって? こっちだってそう言われるのは想定済みだ。
小テストの正しい範囲ではなく、嘘の範囲を広める。
オカンのプリンを食べてしまった時に「いやオトンが食べてたで」と言う。
捕まらない空き巣泥棒の、嘘の目撃証言。
しょうもない嘘から最初からありもしない嘘まで。
“嘘から出たまこと”なんてことわざの通り、次の瞬間には現実になってしまうのだ。
何故こんな能力が目覚めたのか。俺の名前がマコトだからだろうか。
安直ではあるし、説明にもなっていない。が、神様からの突然のギフトを使わないわけにはいかないだろう。
「聞いてや。俺、彼女できたんよ。めっちゃ美人で気立てのいい子! ホンマ運命やわ」
「ユタカ先輩いるやんか。俺、あの人の率いる軍団と一人で喧嘩して、圧勝したんやで。それから軍団のリーダーってわけや!」
「俺、最近宝くじ買ったんやけどな。なんと! 一等の五億が当たったんや! 凄いやろ。これでお金持ちの仲間入りや!」
小さな嘘から徐々に収拾のつかない嘘をまことに変えていく。
俺の嘘で現実にできないことなんてないと生きてきて早十五年。
俺は脂汗が滴った借用書を両手で握りしめて震えていた。
「堀ユタカの連帯保証人? 俺が? なんかの間違いやろ。しかも三億なんて。子どもでももっとまともな嘘つくで。それにな、俺は借用書にサインなんかしたことなんかない!」
まさか他人の嘘までまことにするなんて、一体誰が想像ついただろうか。