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4:オタク、魔法を勉強する。

 ハーヴェイが魔法を教えてくれるようになって四年が経った。一つ分かったことがあるとするなら、ゲームの世界のシリスティーナはかなりの努力家だったということだ。この四年間、遅れを取り戻すべく魔法から基礎教養、マナーなどありとあらゆることを学び尽くした。私は基礎教養や一般的なマナーに関しては前世と通じる部分があったから今の所何とかなっているが、ゲームのシリスティーナはおそらくゼロから始めている。彼女が十五歳……アカデミー入学の年、つまり今の私の二年後には既にアカデミーに通う必要の無いほどの優秀な一流魔術師になっているのだから、相当な努力を重ねたのだろう。


 今の私といえば、将来宮廷魔術師長になるハーヴェイに魔法を教えて貰っていたものの、あと二年でゲームのシリスティーナと同じだけの魔法の技術になるのか、と不安を感じるレベルだ。魔法以外は特に問題無し、順調なのだが。


「さて、今日の実習は終わりにしようか」

 ハーヴェイはそう言うと、パチン、と指を鳴らし周りに散らばっていた教材や道具を一瞬で片付けた。


「……ねえ、ハーヴェイ。私そろそろ転移魔法とか使えるようになりたいのだけれど」

「無茶を言わないでよ、私だって転移魔法は十年近く特訓して出来るようになったんだから」

「今の魔力量でも難しいのかしら」


 私の言葉にハーヴェイはうーん、と顎に手を当てて考える。そしてじっと私を見たと思えば、スっ、と姿が消えた。瞬間。


「わっ!?」

「……これくらいの距離なら、出来るかもしれないね」

 数メートル先に居たはずのハーヴェイは私の目の前に突如現れ、髪にさらりと触れた。


「ち、近いわよハーヴェイ! 離れてちょうだい」

「あはは、もう四年も経つのにシリスティーナ嬢のパーソナルスペースは一向に狭まらないなぁ」


 残念、といったようにハーヴェイは肩をすくめて私から離れていく。私はほっと胸を撫で下ろし、少し乱れてしまった髪を整えた。


「言ったでしょう。私、顔がいい男に弱いんだって」

「知ってるよ。でも、シリスティーナ嬢は私みたいな人はタイプじゃないでしょ」

「……貴方ねぇ……」


 自分の顔の良さを自覚しろ! と叫びたくなるのをぐっと抑えてため息をつく。

 ハーヴェイ・アレイスターという男は顔もいいし頭もいいし魔力も強い。そして優しく『まほひと』随一の純愛派……と思いきや、少々性格に難が……いやもう難しかないな? あのハーヴェイルートでの彼はどこにいったんだ。確かに優しいし物腰柔らかく誰に対しても丁寧だけれど、それはあくまで表向きの顔……のように思う。本当は自分が興味を持ったもの以外にはとことん無関心だし、何ならそれが人でも物でもどうでもいいと思っている節がある。優しい、というより、無関心故に他人行儀、といった感じだ。そして自分が興味を持ったもの……の興味指数が一定数を超えると、その対象に対する執着心が半端じゃない。前世のゲームではそんな彼の内面に気付くような描写は無かったが、今世で四年も過ごせば嫌でも分かるというもの。

 こいつ……、実は一番ヤンデレ適性があるんじゃなかろうか。二次創作でちょくちょくヤンデレハーヴェイとヒロインが書かれていて、ゲームをしていた時は「いやいやまさか、ハーヴェイはまほひとのほのぼの純愛枠じゃんか」とか思ってたけど、そっちの方向性の方がリアルだったとは。


「シリスティーナ嬢、今失礼なこと考えてない?」

「いいえ? 貴方って性格悪いなぁって思ってただけよ」


 そう言うとハーヴェイはニコニコと笑いながらまたそんなこと言って、と私の頭を撫でた。その手をぺしっと払い除ける。

 ハーヴェイは意外とスキンシップが多い。いや、多すぎる。さっきみたいに髪に触れたり、肩を抱いたりするのはまだいい方で……よくは無いが。私がゲームで見た時はそんな素振りは無かったから油断していたけど、これは完全にロックオンされている気がする。……いや、ロックオンといっても、稀少な魔力回路を持つ私に興味があるから逃したくないだけなのだろうけど。

 そんなことよりも私に向ける執着をそのまま別の男へ向けて欲しい。BLの片方がヤンデレなのは大好物だけれどヤンデレの対象が私になるのはまっぴらごめんだ。例えば……ジゼルに魔法を教えているうちに彼のことに深く興味を持つようになって、その興味が知らず知らずのうちに執着へ。アカデミーを卒業したら本格的に皇太子の仕事やら何やらに時間を割かなければいけないジゼルを少しでも繋ぎ止めておくためにあんなことやこんなことを……。

(うん、やっぱりヤンデレはBLに限るな!)


「シリスティーナ嬢、また失礼なこと考えてるでしょ」

「いいえ、貴方のことを考えてたわ。……あ、でもやっぱり失礼なことを考えていたかも」


 私がそう言うとハーヴェイはやれやれと肩をすくめて苦笑した。

「まあ、そんなところで。次の実習は短い距離の転移魔法でもやってみようか」

「ええ、お願いするわ」

 転移魔法の練習の約束を無事取り付けたところで私はハーヴェイに別れを言って次のレッスンを受けるべくその場を後にした。

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