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3:オタク、モルモット二日目(?)

「……ん」


 目が覚めると変わらず薬品の匂いが広がる無機質な部屋だった。今日からモルモット二日目か、とげんなりしていると、ガチャリと開かれた扉の先に居た魔術師がドサドサドサ、と持っていたファイルや書類を床に落とした。


「お、起きてる!? 目が覚めたのですか!?」

(ひぇええっ!)


 その魔術師のあまりの勢いに私はビクリと身体を跳ねさせた。

「し、ししし師長に報告……! いやその前にバイタルチェック、いやまてうわぁぁぁぁどうすれば」

「え、えっ」

「何だいそんなに騒い……で……シリスティーナ嬢!?」

「ひぃっ」


 その後騒ぎを聞き付けた宮廷医師が部屋に駆け込んできて、魔術師の後に部屋に入ってきたハーヴェイは今まで見たことないような必死の形相で私の身体をペタペタと触りながら気分悪くない? とか今どんな感じ? と矢継ぎ早に聞いてきた。


「だ、だいじょうぶ」

「本当かい? それなら良かった。バイタルチェックをしよう、横になって」

(ひぇ……っ)


 昨日もそうだがハーヴェイは私を触りすぎではないだろうか。オタクには刺激が強すぎるんだが! と叫びたくなるのを我慢しながら大人しく言うことを聞く。するとハーヴェイは私の脈を取ったり魔力の流れを見たりと色々と確認し始めた。そして満足したのか安堵のため息をつくと、じっと私を見つめてきた。


「うん、三年寝てた割には何の問題も無しだね。いや、毎日チェックはしてたから大丈夫なのは分かっていたけど……」

「さ、さんねん!?」


 つい昨日ハーヴェイの顔の良さに狂ったはずだけど!? と驚きを通り越してぽかんと口を開けていると、ハーヴェイが詳しく説明してくれた。


「騙すような事してごめんね、君に強力な眠りの魔法をかけて、その間に色々と君の魔力やらを調べさせてもらった。あんまり自我があると毎日辛いかなと思って」


 こ、この男、実はド畜生サイコパスなのでは!? と思ったが口に出さずに心に仕舞っておく。しかしそうだとするなら、私は三年も寝ていたらしいが、その間私の身体の成長やら機能やらは止まっていた事になるのだろうか。ぺたぺたと顔や身体を触りながら壁にうっすら反射する自分の姿を捉えると、三年眠っていたとは思えないほど見た目上身体は健康に成長していた。


「君の意識だけが三年止まっていた……と言った方が分かりやすいかな。身体はしっかり成長しているし、君が目覚めたあと日常生活に支障が出ないように外から筋肉を刺激したりしてたから」

「そ、それより、まりょくぼうそうびょうは」

「あぁうん、しっかり完治したし、謎も解明されたよ。協力してくれてありがとね。これ、レポート。まだシリスティーナ嬢には難しいと思うから、分からない所や気になることがあったら遠慮なく聞いて」

「は、はい……」


 その後、色々と質問攻めにしていると、私の意識が眠っていた三年の間に、私と私の他に魔力暴走病を発症したサンプルを複数調査し治療法の確立、治療薬の研究と開発に成功したらしい。しかし『宝石の瞳』を持つには運と元の魔力回路の強さが複雑に絡み合っているらしく、宝石の瞳持ちを量産することは叶わなかったらしい。


「あの! まりょくぼうそうびょうは、もうだれもしなないんですか?」

「うん、あの時は治療法が何も無かったんだけど、シリスティーナ嬢のおかげでね。『宝石の瞳』を持てるかどうかは結局のところ運に過ぎないけど、魔力暴走病を発症しても死ぬことは無くなったよ」

「そ、そうですか」


 私はほっと胸を撫で下ろした。これでもう魔力暴走病によって人が死ぬことは無くなるのだ。今のところ原作通り……に進んでいる感じだ。まさか三年の間眠らされてその間にモルモットになっているとは思いもしなかったが。


「……君の三年は、もう取り戻せない大切な時間だ。君の大切な三年という長い時間を奪った私のことは、一生恨み続けてくれて構わない。時間は戻せないけど……、君が失った時間を埋めるためだったら何でもするから」

「え、えっと」

「私を気が済むまで使い潰すのもよし、私をおもちゃにするもよし、私はそれを甘んじて受け入れるよ」


 さらっとやばいことをたくさん言われたが、本当に三年も月日が経ったという実感が無いからこれといって喪失感も怒りも絶望も感じない。どの感情もピンと来ないまま、先にもう魔力暴走病で苦しみながら死んでしまう人が居なくなるという喜びのほうが来てしまったのだ。そもそも私は一度死んだ身。奇跡の力で転生し第二の人生を歩んでいるわけだし、三年くらいは安いものだ。しかしそれはそれとしてハーヴェイが何でもすると言ったので私は遠慮なくお願いしたいことを口にする。


「じゃあ……おべんきょうおしえてください」

「……そんなことでいいの?」


 こくりと頷くと、ハーヴェイは拍子抜けしたような顔で私を見た。

 三年眠っていたということは周りの同世代よりも教育やら何やら色々と出遅れてるだろうし……前世では勉強が嫌いで必要最低限しかしていなくて大学受験の時に地獄を見たから、今世ではちゃんと計画立てて学びたいのだ。せっかく前世チートが使えると言ってもこの世界のことや魔法のことを知らないとチートも活用できない。あと単純に魔法とか魔術とかかっこいいし詳しく知りたい。

 私は期待に満ちた目でハーヴェイを見ると、彼は目を細めて笑った。

 そして私の要望通り、魔法や魔術について教えてくれることになったのだ。

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