50話
「集まっていただきありがとうございます」
私はクレアとマーガレット、そしてルークを招集していた。
朝の時間だったが三人とも学園にいたので対策を練るために集まってもらった。
「公爵家に王子まで……何なのその人脈……」
後ろからレイラの呟きが聞こえてきた。
レイラには教室の端の方で座ってもらっている。
公爵家が二人と王子がいるこの空間に緊張しているようだ。
「お前、今度は何をしたんだ?」
ルークがまるで私がまた何かをしたみたいな質問してきた。
「そうですわね。私たち全員を集めるなんて、どんなことをするつもりなんですか」
マーガレットも不思議そうに首を傾げて質問してきた。
「まずは事情を話させてください」
そして私は三人に事情と、さっき起こったことを説明する。
クレアは事情を知っているが二人は全く知らないので一から説明していく。もちろんレイラのクレアに対する気持ちは伏せながら。
私がレイラの身に何が起こったのか説明すると二人の表情はみるみるうちに曇っていった。
「酷いですわね……」
「……俺は以前の自分を見ている気分だ」
マーガレットは同情するような、そしてルークは苦い表情で呟いた。
そうですね。あなたは最近まであんな感じでしたよ。
流石にクロードよりは酷くなかったけど。
「なので事件を解決したいんです。お三方の力を貸していただけませんか?」
私は三人へ向けてそう質問する。
「よし、分かった。貸そう」
「もちろん、協力させていただきますわ」
「私もです」
ルークもマーガレットもクレアも躊躇うことなく宣言した。
私は振り返ってレイラに微笑みかける。
「よかったですね、レイアさん」
「なんでそこまで私に……」
レイラは目の前の光景を信じられないのか呆然と呟く。
三人がなぜ自分に力を貸してくれるのか分からないようだ。
「何を言っているんだ。生徒会長という立場の人間として学園の生徒を守るのは当然だ」
「そうですわ。虐げられている者を守るのは私たちの義務ですから」
「……」
ルークとマーガレットの言葉にレイラはポカンと口を開ける。
そうだよね。今までの噂とか評判を聞いてたらちょっと信じられないよね。
「お二人とも……成長したんですね……」
「おい」
「何か言いたいことがあるんですか?」
おっと、心の声が漏れてしまった。
私が感動してハンカチで涙を拭っているとルークとマーガレットが睨んできた。
私は咳払いをして仕切り直す。
「んんっ……と、言うことでまずはレイラさんを護衛したいと思います。取り敢えずは今日一日中は」
さっきのクロードの行動を見る限り、このままレイラを一人にしておけば私たちの目を盗んでもう一度レイラを脅迫しようとするだろう。
「確かにそういう事情なら放課後までその婚約者から遠ざける必要があるな」
「一人だとまた同じようなことをされるかもしれませんからね」
「私賛成ですわ」
ルークとクレア、マーガレットは取り敢えず今日一日レイラを護衛するという案に賛成のようだ。
「今日一日守ってもらえれば、明日には決着がついていると思います」
「分かった。取り敢えずは今日一日は俺がついておくことにしよう」
ルークがレイラの護衛に名乗り出た。
「じゃあルーク王子に今日はお願いします。クレアさんとマーガレットさんは私に付き合って欲しいんですけど大丈夫ですか?」
「構いません」
「大丈夫ですわ」
「それなら決まりですね。取り敢えずそろそろ授業が始まりますから移動しましょう」
私たちは椅子から立ち上がる。
レイラが私を見つめていた。
「ん? どうしましたか?」
「本当に会長だったんだね……」
「そうですよ。この調子でレイラさんをお守りしますからね」
「……あ、ありがとう」
あ、照れた。
と言うわけで、私たちはそれぞれ教室へと向かう。
そしてレイラの教室がある廊下の前へとやって来た時。
「っ……!」
レイラの表情が強張った。
レイラの教室の前にクロードが立っていたからだ。
血眼になって教室にレイラがいないかどうかを探している。
「大丈夫です」
今はルークにクレア、マーガレットもいる。
私がレイラの手を握るとレイラは少しだけ安心したような表情になった。
クロードはレイラに気づいたようだ。
「レイラッ……! さっきはよくも……」
先程クレアから逃げたことがよほどプライドを刺激したのか激怒しながら歩いてきたが、レイラの周りを守るように立っているルークとマーガレット、そしてクレアに気づいて立ち止まった。
ルークがクロードの元へと歩いていく。
「お、王子……」
「何かトラブルがあったようだが、良ければ話を聞こうか?」
「い、いえ何でも……」
クロードはルークの威圧に後ずさりした。
そしてクロードは苦々しく呟くと身を翻して帰っていった。
「ほら、大丈夫だったでしょ?」
私はレイラに向かってそう尋ねる。
「……うん」
レイラは安心した表情で頷いた。
その後ルークが一日中ついていたが、その噂がクロードの耳にも入ったのか、再度レイラに近づいていくることはなかった。
「さて、どうやって復讐しようか……」
帰宅した後自室にて、クロードにどんな方法で復讐しようかと私は思考する。
「うーん、でも私の商会に対しては全く借金とか、無いんだよねぇ……」
私は机の上に無造作に書類を放り投げた。
私が放り投げたその紙はクロードの家のマッケルン侯爵家との取引の記録がまとめられた物だ。
どんなアプローチでマッケルン家に復讐しようか考えるために見ていたのだが、役に立ちそうな情報は手に入れることができなかった。
私は腕を組んで天を仰ぐ。
厄介なことに、マッケルン家はレイラの家であるワトソン伯爵家にお金を貸しているだけあって、ホワイトローズ商会との取引も全て一括払いで支払いが完了しており、特にローンを組んだり借金をしたりといった記録はなかった。
これで借金やローンを組んでいたらそれを使うことができて便利だったのだが……。
紅茶を一口飲み、また別の書類にも目を向ける。
だがそれにもめぼしい情報は書かれていない。
「はぁ……しょうがない。作るしかないか」
私はため息をついて立ち上がった。
借金が無いなら、作ればいいのだ。
傍から見れば公爵令嬢二人と王子に指示を出してる人…。