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5話


 次の日。


「まずいことになった」


 またクレアから呼び出しがかかり、昨日の教室までついていくとクレアはそう切り出してきた。


「何なんですか昨日の今日で。あなたと一緒にいるところを見られたら私まで変態だなんて噂されちゃうじゃないですか」


「別に俺も変態とは噂されてないんだが」


「私が吹聴しておきました」


「お前が噂したのか!?」


「冗談です。そんなことより、何ですか昨日の今日で。また何かあったんですか?」


「っ……!!」


 クレアは私に何か言いたそうだったが、話が進まないと思ったのかぐっと堪えた。


「今日呼び出した理由は俺とお前が派閥を作ったって噂が流されてることについてだ」


「え? それが何か問題なんですか?」


「問題大アリだ! 俺は派閥を作らないようにしてきたんだぞ!」


 何でも、派閥を作ると色々と政治的に面倒な問題が多くなるそうだ。

 一番大きな問題はマーガレット派閥からより目をつけられることだそうだ。


「でもなんで私たちが派閥を作ったなんて噂が流れてるんですか?」


「マーガレットだよ。昨日俺たちが言った言葉から派閥を作ったって勘違いして、噂を流しているらしい」


 私たちが言った言葉と言えば、協力関係だと言う言葉だろうか。

 マーガレットにはそれが派閥を作った宣言に聞こえたらしい。

 クレアは言わずもがな、私の方にはマーガレットに見捨てられ、敵対するクレアに取り入るという動機はある。

 確かに思い返してみれば協力関係、という言葉も派閥を作ったと宣言したように聞こえなくもない。

 そのためマーガレット達は私たちが派閥を作ったのだと勘違いしたのだろう。

 昨日取り巻き達が驚いていたのは、そういう理由があったのか、と納得する。


「でも勘違いなんですから、私たちが派閥を作っていないと言ったら大丈夫じゃないですか?」


「そんなの誰が信じるんだ。逆に噂の信憑性を高めるだけだぞ」


 なるほど、貴族はどうも疑い深いらしい。

 まあ噂されてる本人が否定したところで、逆に真実のように聞こえるというのも理解できる。

 その時、私はあることに気がついた。


「え、じゃあ今私たちが一緒にいるのもまずいんじゃ……」


「もう噂は出回ってる。今更距離を置こうとした所で無駄だ」


「そんな……! 私この変態の仲間だと思われてるってこと!?」


「誰が変態だ! お前そろそろ本当に不敬罪で罰するぞ!?」


 クレアが私の頭を勢いよく叩いた。


「くっ……! まあいい……! とりあえず今は派閥の話だ。これから俺とお前で派閥扱いされるのは避けることができない。不本意だがな。しかしメリットもある」


「メリット?」


「もうすぐパーティーがあるからな。派閥でいるなら俺たちはペアを組む必要がなくなる」


「ああ……なるほど」


 私は納得した。

 私たちが通うセントリア学園には一定の周期でパーティーが開かれる。

 学園にある大きなホールを貸し切って行われる華やかなパーティーで、貴族の生徒はドレスを着てダンスを踊ったりするほど本格的なものだ。


 パーティーが開かれる目的はズバリ、将来のためだ。

 このパーティーで味方を作ったり、はたまた敵と対立したり、派閥に入ったりとそういった『貴族の身の振り方』をこのパーティーで学ぶのだ。ちなみに、これらの事情から貴族の生徒はほぼ強制で、平民の生徒の参加は自由となっている。

 私は前回はマーガレットの取り巻きと参加して、ずっと後ろをついて行っただけなので正直パーティーについてよく覚えていない。

 ケータリングの食べ物とお菓子が美味しかったのは覚えている。


 つまりクレアの言っていることを大まかに要約するなら、私とクレアでパーティーに派閥として出る、ということだろう。


「これまでは派閥に入ってないと男女ペアで参加する必要があったが、派閥で参加するならその必要がないからな」


「それは分かりました。でも、何でそんなに派閥で出たいんですか?」


「………派閥で出ないと、また奴に誘われるかもしれない」


 クレアが苦い表情で呟く。

 そして誰とは明言していなかったが、クレアの言葉で私は前回のパーティーの様子を思い出した。


「そういえば、前回はルーク王子がクレアさんをエスコートして、とんでもない騒ぎになりましたね」


 前回は婚約者がいるのにルーク王子がクレアを誘い、パーティー会場がとんでもない大騒ぎになっていた。


「あれは最悪だった……! マーガレットが隣で睨んでいたのにそれに気づかずに誘ってきやがったんだ。しかも、王族だから断りきれなかった……」


「クレアさんも大変なんですね……」


 クレアは当時の状況を思い出したのか苦虫を噛み潰したような表情になった。

 同じくマーガレットの命令に振り回されていた私は少し同情した。


「というわけで、俺とお前で出るからな。覚えとけ」


「わかりました。私もわざわざ男性を探すのは面倒ですしね」


「おい、一応言っておくが俺は男だぞ」


 クレアが何か言いたそうな目で私を見ている。


「今のクレアさんは女装してるじゃないですか」


「ぐっ……!」


 私は肩をすくめて答える。

 クレアは何も言い返すことができないようだった。

 そうして、私とクレアでパーティーに出ることになった。

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