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46話


 レイラがいた。

 混雑して人が多いせいか、レイラ私とクレアに気づいていないようだ。


「はぁ……可愛い……!」


 レイラは感情が溢れ出したのかぬいぐるみを見て「可愛い」を連呼し始めた。

 レイラはキョロキョロと辺りを見渡して誰もいないか確認すると、手に取ったぬいぐるみをぎゅうっ、と力強く抱きしめた。

 そして「はぁ〜っ!」と長いため息を吐く。


「なんで世界はこんなにめんどくさいんだ……」


 そしてレイラはぬいぐるみに顔を埋めたまま愚痴を吐いた。

 私はその背中に恐る恐る声をかける。


「レイラさん」


「エ、エマ!?」


 私が声をかけるとレイアは飛び上がるくらい驚いて、ぬいぐるみから顔を離した。

 そして「どうしてここに!?」という表情で手を振る。


「こ、これは違うんだ!」


「レイラさんもぬいぐるみを買いに来たんですか?」


 私はレイラがぬいぐるみを買いに来たのかと質問する。

 するとレイラはハッと何かに気付いたのか慌てて言い訳を始めた。


「あ、これは違うんだ。ここまで顔を埋めたからにはもちろん買うつもりだったよ? ってそうじゃなくて! その……あの」


 レイラはチラチラと私に視線を向けながら、控えめに質問して来た。


「………………みた?」


「何のことですか?」


 私がそう言うとレイラは安心したように胸を撫で下ろす。


「良かった……流石に見られて──」


「あ、レイラさんが「可愛い」って言いながらぬいぐるみを抱きしめて顔を埋めていたことですか?」


「全部見られてたの!?」


 私に一部始終を見られていたことが分かり、レイラは頭を抱えて唸り始める。


「あああ……最悪だ……まさか見られるなんて」


「そう言えばレイラさんって、可愛いものが好きなんですか?」


「え‘’?」


「だって、クレアさんのことが好きだし、それにたまに可愛い女の子とか、ぬいぐるみをすごく凝視してますし。可愛いものが好きなんじゃないかなって思ってたんです」


 私がそう言うとレイラが冷や汗をかいて焦った表情になった。


「き、気づいてたの……?」


「はい。分かりやすいですから。レイラさんはよくここに来るんですか?」


「うん……ストレスが溜まった時はよく……って違う! 待って待って、エマ!」


 レイラが無理やり話を遮ってきた。


「どうしたんですか?」


「私ってそんなに分かりやすい?」


「うーん……分かりやすいかどうかで言ったら、かなり分かりやすい部類だと思いますね」


「そ、そうなんだ……っていや! これも違う! 私が聞きたいのはこれじゃない!」


 レイラはショックを受けたような表情からブンブンと頭を振って切り替えると、胸に手を当てて不安そうに質問してきた。


「その……おかしくない? 私みたいなのが可愛いものが好きなんて……」


「え? 何がおかしいんですか? 別にいいと思いますよ?」


「……」


 確かにレイラは「王子様」なんて呼ばれて、学園ではそういうキャラで通っている。

 レイラが言いたいのは、そんなかっこいい自分のイメージと違って可愛いものが好きだから変な目で見られていないか不安なのだろう。

 しかしかっこいいイメージと可愛いものが好きなのとは別の話だ。

 好きなものなんて人それぞれなんだし、別に可愛いものが好きでも全然おかしくない私は思う。


「そっか……」


 そういう意味で言ったのだが、そう言った途端レイラは俯いて黙ってしまった。

 その場に沈黙が流れる。

 え? 私、何かおかしなこと言った!?


「ごご、ごめんなさい! 私何かおかしなことを言いましたか!?」


 もしかしてまたおかしなことを言ってしまったのではないかと思い、私はあたふたと慌てふためく。

 するとレイラは「ふふっ」と笑いながら目元の涙を拭った。


「何でもないよ。何でも」


「それなら良いんですけど……」


 表情を見る限りレイラの機嫌を損ねるようなことを言った訳ではなさそうなので、私はとりあえず安心した。


「待って!? まさかエマがいるってことはお姉様もここにいるの!?」


 あ、元のレイラに戻った。


「い、いますけど」


「どこ! どこにいるの!」


 この店内でいないと嘘をついてもバレてしまうので、私は本当のことを言う。

 私からクレアの存在を聞いたレイラはすごい勢いでクレアを探し始めた。


「いた! お姉様!」


 そして驚異的なスピードでクレアを見つけ出したレイラはクレアの元へと走っていく。

 いや、その索敵能力があるならなんで私たちに気づかなかったんだ。

 クレアはぬいぐるみから顔をあげてレイラの方を向く。


「レイラさん」


「ぬ、ぬいぐるみを抱いたお姉様……可愛い!」


「ふふ、そうでしょう」


 私がプロデュースしたクレアだ。可愛くないはずがない。


「何でここにいるんですか?」


 クレアが不思議そうに首を傾げてレイラに質問する。


「うっ……それは……」


 レイラはいくらクレアともいえど自分が可愛いものが好きだと言うのが怖いのか、クレアに理由を聞かれた途端強張った。


「大丈夫です」


「エマ……」


 私はレイラの手をぎゅっと握る。


「クレアさんは笑ったりしませんから」


「……うん」


 レイラはこくりと頷くと覚悟を決めてクレアに向き直る。

 そしてゴクリと唾を飲み込むとクレアに向けて自分の趣味を言った。


「じ、実は私……可愛いものが好きなんですっ!」


「へえ、そうなんですね」


 クレアの反応はこちらが驚くほどにフラットだった。

 普通ならもうちょっとリアクションあるでしょ、となりそうなものだが、レイラは逆にその反応に嬉しそうに見つめていた。

 私はふふ、と微笑んでレイラに耳打ちする。


「ほら、大丈夫だったでしょう?」


「ああ……やっぱりお姉様は最高だ!」


 レイラはグッと拳を握りしめる。

 その瞳は以前よりもクレアに対する狂信度が上がってそうな目だったが、まあ大丈夫だろう。


「さてと、じゃあ今日は記念に何かお揃いの物を買いませんか?」 


「お姉様とお揃い……! 私は賛成!」


「別に構いませんが……」


 私が何か買わないかと提案するとレイラは即賛成し、クレアも肯定的な反応を示してくれた。

 最初は可愛いものなんて興味がなさそうだったのに、ぬいぐるみを見ているうちに何か買いたくなって来たのだろうか。


「何が良いですかね……」


 私は顎に手を当てて考える。

 ぬいぐるみはちょっと今から買って帰るには嵩張るし、お揃いで買うのも違う気がする。お揃いなのに普段から身につけられないし。

 ここは小さくて、普段から身につけられるものが良いだろう。


「これ、どうですか?」


 私が手に取ったのは小さなクマのストラップだった。

 ストラップだったら鞄につけられるし、お揃いで買うにはぴったりだろう。


「可愛い……!」


「良いんじゃないですか」


 レイラとクレアの反応は上々だった。


「じゃあお二人ともお好きな物を選んでください。クマ以外にも色々種類がありますから」


 そして二人は各々ストラップを選んだのだが、二人とも私と同じクマのストラップだった。


「何で二人とも同じなんですか……」


「私は特にこだわりはないので」


「私はお姉様とお揃いがいい!」


 なるほど、クレアとレイラらしい理由だ。


「じゃあこれにしましょう」


 私たちはお会計の場所までそれぞれストラップを持って行って会計を済ませる。


「ふふ……お姉様とお揃い」


 レイラは買ったストラップを大事そうに抱きしめる。

 本当に嬉しかったんだということが伝わってきて私まで温かい気持ちになった。


「じゃあ、私はここで失礼するよ。帰りの馬車を待たせているから」


 レイラはそう言って店の前で別れることとなった。

 私たちは学園の前に馬車を待たせているので、また歩いていくことになる。


「今日は楽しかったですね」


「そうだな」


「クレアさん」


「なんだ」


「レイラさんのことについてなんですけど、何でお揃いのストラップを買ってくれたんですか?」


 私は普段のクレアならお揃いのストラップを買おうと提案したところで却下される可能性があると思っていた。

 だからレイラと一緒のストラップを買うと聞いて驚いたのだが、何故クレアは一緒にストラップを買ってくれたんだろう。


「別に、そんなに大した理由じゃないけど」


「それでもいいので教えてくださいよ」


「可愛いものが好きだって言うの、多分覚悟決めて言ったんだろ? だったら、少しでも肯定してやりたかった。それだけだ」


「……」


 そうだった。

 あの時はただレイラに興味が無いだけだと思っていたけど、こういうところが気づける人間なのだ。クレアは。


「ふふ、やりますね! 色男!」


「なっ、何だよ!」


 私がクレアの脇を肘で突くとクレアは照れたような声を出す。

 そんなことを話しながら、私たちは帰り道を歩いて行った。

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