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45話


「……」


「ん? そこのところどう思ってるんだ?」


「その……その件については大変申し訳なく思っており……」


 私はクレアに肩を組まれて、メンチを切られていた。

 先日、クレアにメイド服を着させてレイア達と鑑賞しているとルークが乱入してきて、風紀委員のルークに怒られないように私たちは逃げ出したのだが、その時にクレアを置いてけぼりにしてしまったのだ。

 現在はクレアにその時のことを責められている最中だ。


「よくも置いて行ってくれたな……?」


「すみません……あのどさくさで忘れちゃってたんです」


 突然ルークが来たので動揺して、クレアを逃すことを忘れてしまったのだ。

 本当に申し訳なく思っています。はい。


「あの後制服が見つからなかったから、メイド服で帰ったんだぞ? どうしてくれるんだ、ん?」


「それは別に私のせいじゃないというか……」


 制服がなくなったのは私のせいじゃない。

 大方クレアのファンの子達が持っていったのか、あの騒ぎで無くなってしまったのだろう。


「口答えするな」


「はい……」


 だがしかし、現在裁かれている最中の私には発言権は無い。


「ちゃんと埋め合わせしろ」


「私もクレアさんのメイド姿見たかったですわ……」


 マーガレットが残念そうに頬に手を当ててため息をついた。

 クレアはブンブンと首を横に振った。


「嫌だ! 絶対に見せないぞ!」


「でも絶対に似合いますわよ」


「はい! 凄く似合ってました! ていうか、もうメイド服を着るために生まれて来たんじゃないかって思うくらい──」


「お前は黙ってろ」


「はい」


 クレアに黙らされた。

 どれだけクレアにメイド服が似合っていたのか語りたかったのに、残念だ。

 あの時のクレアはそう、まるでスポットライトが当たっているかのように光り輝いていた。

 確かに、あの場にいたレイラやその他のお嬢様もメイド服を着ていたし、似合っていた。

 でも、クレアの可愛さはその中でも飛び抜けていた。

 先日のスケッチは姿絵代わりに額縁に入れて家に飾っているくらいだ。


「とにかく、昨日の埋め合わせはしてもらう。俺はメイド服で学園を歩く羽目になったんだからな!」


 まあ、確かにメイド服でクレアを帰らせてしまったのは可哀想な気がする。

 代わりの制服を用意できて無かったのも私たちにも責任があるとも言えるだろう。


「くっ……分かりました! それなら今日はカフェで全て奢らせていただきます……!」


「ふん、それでいい」


 フッ、チョロい。

 クレアは甘いものが好きなので、こういう時は大抵甘いものを奢ると言っておけばいいのだが、今回もそれで切り抜けることができたようだ。

 実は、この方法は案外コスパが良かったりする。

 クレアは一応男子だが、この細い体では流石にそんなにスイーツを食べることはできないのだ。流石に私よりは食べるけど。


「マーガレットさんも一緒にどうですか?」


「残念ですが、私は今日は用事が残っているのでやめておきます」


「そうですか」


 マーガレットは今日は来れないらしい。残念だが遊ぶ機会はたくさんあるので、また一緒に行けばいい。


「じゃあ今から行きましょうか」


 ということで、私とクレアは学園通りへと向かった。




「な、な……」


 私はお会計を見ながら愕然としていた。

 会計で示された額が、いつもの三倍ほどの値段だったのだ。


「ふーっ、美味しかった。今日は昼を抜いてきた甲斐があったな」


 どうやらクレアは私に奢ってもらうことを見越して、予めお昼を抜いてきたらしい。

 道理で今日一緒にお昼を食べてる時に野菜ジュースしか飲んでないと思った……! なんで忘れてたんだ私!


「ぐ……でもこれで貸し借りなしですよ!」


「はいはい」


 予想外の出費だったが最初から奢るという約束だったので、私は支払いを済ませる。

 そして支払いを済ませて店の外に出て来ると、まだもう少し遊べそうな時間だった。


「どうしますか。まだ時間はありますけど」


「そうだな……確かにまだちょっと何かしたいな」


 クレアもまだ帰る気分ではないらしい。

 そういうことならと私は一つ提案をした。


「それなら、ぬいぐるみをみていきませんか?」


「ぬいぐるみ……?」


「はい、最近商会で新しくぬいぐるみを売ってるお店を作ったんですけど、クレアさんにも意見が欲しいんです」


「意見? 俺は男だぞ」


 確かにクレアは男性で、ぬいぐるみのお店に対する意見なんてどんな役に立つのか、という意見も分からなくもない。


「はい、知ってますよ。でも、最近は男の子もぬいぐるみを贈るようになってきて、男性目線の意見も欲しいんですよ」


 私はスラスラとついてきて欲しい理由を説明する。

 と、理由を並べてみたが、もちろんこれは建前だ。

 本当は私がただクレアがぬいぐるみを抱いているところを見たいだけだ。

 きっと可愛いクレアがぬいぐるみを抱いたなら、それはもう可愛さの渋滞を引き起こすことだろう。

 無論、本当にクレア目線の意見は欲しい。でも男の子の意見が欲しいなら、孤児院の子供達の意見を参考にすればいいだけだ。


「うーん……けどな……」


 女性が多くいる店には行きにくいという心理的抵抗があるのかもしれない。

 甘い物好きの男性が可愛いお店に行きづらい、という悩みは前の世界でもあったし。

 でもあれは女性客の中で浮いてしまう、というのが悩みの原因なので、今の見た目のクレアには関係ないと思うのだが……。


「分かりました。では、クレアさんには先日商品化したクッションを奢らせていただきます。新しくいくつかバリエーションを追加しましたし」


「む、それは魅力的だな」


 クレアは行く気が出てきたようだ。


「よし、それなら付き合ってやる」


「はい、行きましょう」


 どさくさに紛れて、クレアに沢山ぬいぐるみを持たせてみよう。

 私はそう考えながら店へと向かった。



「ここです」


「結構混んでるな」


 店にやって来たのだが、放課後ということもあり、店は学園の生徒やその他の客で混んでいた。繁盛しているのはいいことだ。

 店に入ると棚に沢山のぬいぐるみが飾っており、手にとって触り心地を確かめられるようになっていた。

 ちなみにこの世界にはまだミシンが存在しないので、私が足で押して使うタイプの足押しミシンをステラに作ってもらい、生産性を爆上げしてもらった。

 他の商会ではぬいぐるみはまだまだ手縫いで、私の商会のように大量に生産することは出来ない。

 今はまだ小規模だが前の世界でもぬいぐるみは人気のあった商品だし、大量生産されたぬいぐるみはいつか商会の主力商品となるだろう。


「すごいな……こんなにぬいぐるみが」


 クレアも大量に陳列されたぬいぐるみに驚いている。


「これどうですか。触り心地とか教えて欲しいんですけど」


 そう言って私は大きなクマのぬいぐるみをクレアに持たせた。


「ん、これ触り心地いいな……」


 ぬいぐるみを持った途端、クレアは触り心地の良さに驚くと同時に表情が緩んだ。

 かかか、可愛い……!

 ぬいぐるみを抱きついて癒された表情をしているクレアはまるで無垢な少女のようで、実は男の子だというギャップに私の脳が破壊されるんじゃないかと思うくらいに可愛かった。

 次はどのぬいぐるみを抱いてもらおうか、と考えながら店を見渡していると。


「ん……? あれはレイラさん?」


 レイラがぬいぐるみを手に取っていた。

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