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42話


「これで最後だから」


「わ、分かってますよ。任せてください」


 レイラが冷たく言い放つ。

 私は必死に頭を働かせてどうにかアイデアを捻り出す。


「最後の作戦は……」


「最後の作戦は?」


 むむむ、と唸っていると、その時私の頭に革命的なアイデアが降ってた。


「同調圧力を使おう! です!」


「同調圧力?」


「はい、メイド服を嫌がるなら、メイド服を着ざるを得ない空間に放り込めばいいんです」


「なるほど。でも、それって私たちもメイド服を着なきゃいけないんじゃ……?」


「レイラさん。クレアさんのメイド服姿を見ることと、恥、どちらが大切なんですか?」


 私がレイラの両肩を持って諭すと、レイラはハッとして頷いた。


「君の言うとおりだ。お姉様のメイド服姿以外に大切なものなんてなかった」


「………………チョロ」


 クレアを引き合いにだしたら何でも引き受けるんじゃないだろうかと心配になってきた。


「ん? 何か言った?」


「いえ何でも! それじゃ早速行きましょう! まずはメイド服の調達から!」


 そして私たちは最後の作戦を実行しに行った。




「お帰りなさいませ!」


「……これは何?」


 私に案内されて中に入ったクレアが店内を見て呆然と呟く。

 店員から席に座っている客まで、私たちは全員でメイド服を着ていた。

 ここは以前レイラと来たカフェで、一時的に借り上げてある。貴族が集まれば店を貸し切ることも、人数分のメイド服を瞬時に用意することも容易い。


「これはメイドカフェです。本来のとはちょっと違うけど」


 このメイドカフェは客までメイド服を着せられる仕様だ。

 ちなみに皆メイドの格好をしてるのにお嬢様口調で話しているので店内はかなりシュールだ。


「何かお前から招待されて来たのに、何だこれ……」


「それよりも私の格好どうですか!? 似合ってますか? てか似合ってるって言いなさい」


 私はメイド服を広げてフフン、と笑う。

 自分では初めてメイド服を着てみたが、最高級の生地を使っているせいか中々着心地がいい。

 というか、コスプレ自体前の世界でもしたことが無かったから、新鮮な気持ちだ。


「え、ああうん……似合ってます」


「よろしい」


 とりあえずクレアが紳士としてのマナーを果たしたので(女装してるけど)私は席へと案内する。


「さ、こっちに座ってください。ケーキと紅茶をご馳走しますから」


 クレアの肩を押して案内する。

 クレアは周りの大量のメイドに気圧されながらも席に座る。

 そしてクレアが席に座ると同時にケーキと紅茶が運ばれてきた。


「お待たせしました。お姉様」


 運んてきたのはレイラだ。

 トレーにケーキと紅茶を乗せたレイラは仕事の出来るメイドみたいだった。


「ありがとうございます」


 スッと公爵令嬢としての仮面を被ったクレアは笑顔でレイラにお礼を述べる。


「ど、どうですかお姉様……私、似合ってるでしょうか?」


 レイラは頬を染めてクレアにメイド姿の感想を聞く。


「よくお似合いですよ」


「あ、ありがとうございます……!」


「良かったですねレイラさん」


 憧れの人間に褒められてレイラはパッと明るい表情を浮かべる。

 ていうか、いつもは王子みたいなのにクレアの前だと途端に乙女になるなこの人。

 実は中身は結構乙女なのだろうか。

 と、そんなことはさておき。

 私は本題に入った。


「でですね、当店ドレスコードが決まっておりまして」


「はぁ……」


「こちらがドレスコードとなっております」


 私はすっとメイド服を差し出す。


「嫌だ」


 しかしにべもなく断られる。


「そこを何とか!」


「お願いしますお姉様!」


 私とレイラは腰をきっちり直角に折り曲げてお願いする。


「いや」


「皆クレアさんのためにここまできたんですよ!?」


「いや、私のためじゃなくて自分たちのためですよね」


 それはその通りだ。


「ああもうっ! クレアさんっ!」


 私はじれったくなってクレアの肩を組む。

 そしてクレアの耳元に口を寄せた。


「そう言えば、クレアさん私を生贄にして逃げましたよねぇ……?」


「……それは、その」


 私が至近距離でガンたっぷりに睨みつけてあげるとクレアは気まずそうに目を逸らした。

 勿論、あの時生け贄として置いて行かれた恨みを私は忘れてなどいない。

 ほらほらどうなんです? 何か言ってみてくださいよ。おぉん?


「クレアさんが逃げた結果、私一人でここまでしたんですから、ちょっとぐらい手伝ってくれてもバチはあたらないんじゃないですか?」


「う……」


 険悪だった仲を一人だけでここまで改善して、あとちょっとのところまで来ているのだ。メイド服くらい着てくれてもいいだろう。

 私はその意味を込めながらクレアを責める。

 クレアは以前置いていった罪悪感と、私の主張に一理あると思ったのか、メイド服と私を何回か交互に見た。


「着るか着ないか、どっちなんですか?」


「う……着る」


 苦渋の決断のうえ、クレアはメイド服を着ることに決めた。


「本当ですか!?」


「やっ、やったぁっ!」


「クレア様のメイド服姿が見れるんですの!?」


「ついにわたくしたちの目指したユートピアが!」


 私とレイラ、そしてお嬢様達は感激する。


「着替えスペースはあちらです!」


 私はクレアを着替えスペースへと誘導した。



 そして十分後。



「うぅ……なんでこんなの」


 着替えスペースから出てきたクレアはメイド服に見を包んでいた。

 膝ぐらいまであるスカートを引っ張り、クレアは恥ずかしそうに頬を染めている。


「か……可愛いっ!!」


 私の口からは自然にその言葉が漏れ出ていた。


「可愛いすぎる!」


「最高ですわ!」


 レイラもお嬢様達も次々とクレアを褒めそやす。

 実際にクレアのメイド姿はとても可愛かった。

 クレア自体いかにも公爵令嬢という雰囲気の高貴な見た目とメイド服が絶妙にマッチしている。


 そして私の独断により追加されたニーソが最高である。


 勿論、スカートは膝まであるので所謂『絶対領域』は普通にしていれば見えないのだが、たとえばお辞儀したときやスカートがふわりと風に煽られたときに、それはちらりと覗く。

 これぞ職人技。安易に見せず、敢えて見せないことによりより想像力を掻き立てる匠の技だ。

 私は一人いい仕事をした余韻に浸りながら、手元にあるスケッチブックに爆速でクレアの姿を描いていく。


「あ、あれは何ですの……」


「もしかして、スケッチしてますの……?」


「あんなに早いスケッチ見たことありませんわ……」


「しかもあの早さで描いてるのに、なんで結構お上手なんですの……」


 私のことを遠巻きに見ていたお嬢様たちが若干引いていた。


「私もやってみようかしら……」


「そうですわね、クレア様のお姿も残すことが出来ますし」


 しかしスケッチに興味のある人間もかなりいるみたいで、興味の有りそうな目で見ているお嬢様ご何人もいた。

 そしてクレアの姿を写し終わると、私は額の汗を拭いふぅ、と息を吐いた。


「エマ」


 名前を呼ばれたので隣を見ると、レイラが立っていた。

 レイラはあまりにもクレアのメイド服に感動したのか、静かに涙を流していた。

 私もそれぐらい感動してもらえて嬉しい限りだ。


「君の仕事は最高だった」


「……ええ、私も喜んでいただけて光栄です」


「ありがとう。君のおかげで私たちはついに理想郷を見ることができた」


 レイラが握手を求めてくる。

 私達は熱い握手を交した。

 そこには理解しあった者同士の、固い絆が結ばれていた。

 しかしその時。


「ここで何やら不審なことが行われていると言われたんだが……」


 ノックと共にルークがカフェのドアを開けて入ってきた。

 どこからか私たちがしていることを嗅ぎつけて注意しに来たのだろう。

 ルークはまず初めにこの空間にいる全員がメイド服を着ていることにぎょっと目を見開き、その後メイド服を着せられたクレアと私を見つけると眉を釣り上げた。


「お前たち一体何をしていたんだ! それになぜ全員メイド服を着ている! 学園の風紀を乱した罪でお前ら全員連行──」


「やばいの来た!」


「みんな逃げて!」


 ルークから不穏な単語が聞こえたため、私達はレイラの合図で散り散りに逃げ出す。


「あっ、おい! お前ら!」


 ルークの静止を振り切り私達はカフェから逃げ出す。


「やばい! 何でルーク王子がここに!」


「ルーク王子は風紀委員長だからだよ!」


 隣を走るレイラが説明してくれる。


「くっ……! なんでそんな役職に! でも私たちは散り散りに逃げたんです! きっとルーク王子も追ってこれないはず──」


 そうだ。二兎を追う者は一兎をも得ずということわざがあるように、バラバラに逃げた私達を捕まえることは出来ないはずだ。

 私は後ろを振り返る。


「待て!」


 ルークが走って追いかけてきていた。


「何でこっち来るんですか!」


「黙れ! 主犯はお前だろ!」


「酷い決めつけだ!」


 最初から話も聞かずに私を犯人認定するなんて、そんなの酷すぎる!


「でも実際にその通りなんだけどね!」


「うるさいですよレイラさん!」


 そんな事を今言ったら──


「やっぱりお前が犯人か!」


「ほら! バレたじゃないですか! やだ! 怒られたくない! あの人絶対ネチネチ叱ってくるタイプだもん!」


「よし! お前は特別に一時間増しで説教してやる!」


「なんで火に油を注ぐようなことを言うんだ!」


 余計なことを言ってしまった!

 これは本当に捕まったら面倒くさいことになる。

 どうにかして逃げないと……と考えていると。


「ん?」


 隣でルークの言葉を聞いてレイラが首を傾げた。


「私は別に追われてないのか……?」


「ちょっと」


「ごめんエマ。私、ちょっと用事が……って何でくっつくの!? 離せ!」


 私は走りながらレイラの腕に引っ付いた。

 レイラは慌てて私を引き剥がそうとするが、全力で引っ付いて離れないようにする。


「ルーク王子! レイラさんも共犯ですよ!」


「あっ! エマ! 何て事を!」


「当たり前じゃないですか! 私だけ一人で怒られるなんて絶対に嫌です! レイラさんも道連れだ!」


 そして私たちは今逃げていることも忘れて掴み合う。

 肩にポン、と手が置かれたので振り返る。


「あ」


 ルークがいた。

 ルークは笑顔で廊下を指差す。


「お前達、ちょっとそこに正座しろ」


「「はい……」」


 その後ルーク王子にこっぴどく怒られた。

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