40話
今日からレイラ達との協力関係が始まった。
目的はクレアにメイド服を着させることだ。
だが、クレアのガードはかなり固い。
私が以前調子に乗ってクレアに色々と着せてしまったせいなのだが、それは間違ってもレイラ達に言わないことにしよう。
「ううむ……どうするべきか」
私は頭を悩ませる。
昨日、私とレイラ達は協力関係を結んだわけだが、真の意味で和解したわけではないのだ。
自分の目指す理想の世界を目指して協力関係を築いているだけだ。
だから早急にクレアにメイド服を着せる方法を考えなければならない。
「どうしたんだ?」
私が悩んでいるとクレアが声をかけてきた。
私は悩ましげな表情で答える。
「いえ、どうしたら服を着て貰えるのかな、と」
「? 孤児院の話か?」
「ええ、そんなところです」
メイド服を嫌がるクレアにどうやって着せようか……。
私は適当に答えておく。
さて、どうしよう。
私にはクレアにメイド服を着せるアイデアが全くない。
まあでもこのまま表面上の協力関係だけ維持して、のらりくらりとかわしていけばいいか。
と、そう考えていた時、急に廊下の方が騒がしくなった。
「なんだ?」
「なんでしょう」
私とクレアがそちらの方を向くと、教室の扉の前にレイラが立っていた。
騒がしかったのはレイラを見た女子生徒が騒いでいたかららしい。
「エマ・ホワイトさんはいるかな?」
レイラはそう言って教室を見渡し、そして私を見つけるとニコリと笑った。
「ちょっといいかな」
「は、はい……」
レイラが私に話しかけると周りのレイラを好きなファンの女子生徒たちが、レイラと親しげにしていてる私を「誰コイツ」と言いたげな目で見ている。
そして私はその視線から逃げるように教室から出た。
「何か御用でしょうか……?」
「昨日お姉様にメイド服を着せる算段があるって言ってたよね?」
ギクリ。
「それ、詳しく教えもらうと思ってね。まぁ、ないとは思うけど、このままずっと引き伸ばされるっていうのはアレだから」
「あ、あはは……」
私は乾いた笑い漏らしながら冷や汗をダラダラと流していた。
どうしよう。全部見透かされてた。
どうやら引き伸ばしてしまえばいいという私の考えなどお見通しだったらしい。
「策があるなら、今ここで言えるよね?」
「そ、そうですね……」
私は目を泳がせる。
全くアイデアが無いのだ。
レイラの疑惑の視線から目をそらし、私は必死に頭を働かせる。
どうにかしてクレアにメイド服を着せる方法を思いつかないと……!
そして全力で回転している私の頭脳は、一つ名案を思いついた。
「そうだ……!」
「え? 今そうだって言った?」
「言ってません! さぁ、レイラさん! 今すぐクレアさんにメイド服を着せに行きますよ!」
「むっ! それはすぐに行かないと! そうだね! 今すぐにメイド服を着せに行こう!」
よし。なんとか誤魔化せた。
「こんなところで何をするんだい?」
レイラが辺りを見渡して私に質問してくる。
私達がやって来たのは私とクレアの教室の前だった。
「ふふ……それは見てからのお楽しみです」
私は思わせぶりに笑っておく。
「レイラさん。私の演技に合わせてくださいね」
「え? うん」
「じゃあいきますよ……クレアさん!」
レイラが頷くと、私は教室の扉を開けて急いだ様子でクレアの名前を叫んだ。
「どうした!?」
クレアが私の焦った声を聞いてただならぬことが起こったと思ったのか、急いでやって来た。
私は具合の悪そうな顔をしながら、ドアにもたれかかる。
「うっ……!」
「お姉様! エマさんが急に体調が悪くなって……!」
「顔色が悪いですね。どうしたんですか……」
崩れ落ちそうになった私をクレアは支える。
私は肩で息をしながらクレアの肩に手をかける。
「ちょっと、持病の尺が……」
「あなた、持病なんてあったんですね……」
「はい、今すぐにクレアさんのメイド服姿を見ないと死んでしまう病が……!」
「……」
わぁ! ゴミを見る目だ!
クレアが絶対零度の視線を私に浴びせかける。
心配したのに私がふざけたことをしているからだろう。レイラもまるでバカを見る目で私のことを見ている。
だがしかし、私もここで引くわけにはかいない。
私だって、これに(私の)平和をかけているのだから!
「ぐ、ぐわぁぁぁぁっ! メイド服姿が見たい!」
「だ、大丈夫かー……」
レイラの棒読みの演技と共に私は迫真の演技でクレアに訴えかける。
そしてチラリとクレアを見る。
「……」
今度は虫けらを見る目だった。
「このゴミ」
クレアはそう吐き捨てると立ち上がり、教室の中へ戻ってしまった。去り際に私と共犯であるレイラも冷ややかな目を向けてクレアは歩いてく。
「……」
「……」
私とレイラは沈黙する。
私はむくりと起き上がった。
結論、無理でした。
まぁ、普通に考えて無理だよね。メイド服を見ないと死ぬ持病とか意味分かんないし。
ってかだれ名案なんて言ったの。私でした。
「あの、レイラさん……ごめんなさい」
流石にこんな策を披露してレイラは怒っているのではないか、と思い恐る恐るレイラに謝罪する。
「はぁ……はぁ……お姉様の蔑む目……っ!」
しかしレイラは紅潮した頬に手を当て目を輝かせて去りゆくクレアの背中を見つめていた。
あ、なんかいけそう……。
「ふふ……実はこれが目的だったんです」
全くの嘘を私はまるで真実だったかのように言ってみる。
「ああっ、ありがとう! 君のおかげで私はお姉様からあんな目を向けてもらえた!」
レイラはあっさりと信じて感激したように私の手を握りブンブンと勢い良く振る。
「ああ……はい」
変態の人のリアルな反応ってこんな感じなんだなぁ、と考えながら私は相槌をうつ。
「じゃ、じゃあ今回はこれで!」
私はこれでクレアにメイド服を着せる計画をとりあえずしばらくの間有耶無耶に出来るのではないか、と思い自然にフェードアウトしようと立ち上がる。
しかし肩をがっしりと掴まれた。
「待ってくれ。まだどうやってメイド服を着せるのか聞いてない」
振り返るとレイラが真顔で私を見ていた。
あれだけクレアの蔑んだ目を見て興奮していたのによほどクレアのメイド服姿が見たかったのか忘れてないかったようだ。
「分かりました……策はありますが、もうすぐ授業も始まりますし、今からはできません。なので放課後にまたお会いしましょう」
「む……そう言うことなら」
放課後まで策を考える時間を確保しつつ、いつでも逃げ出せるようにさりげなくレイラの手を肩から離しておく。
策を実行しようにも時間がないことを諭されたレイラは渋々ながら頷いた。
「では放課後にお会いしましょう」
「分かった。放課後になったらまた迎えにくるよ」
どうやら逃げることは出来なそうだ。
「了解しました……」
そしてレイラとまた放課後に会うことになった。