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39話


 と、言うわけで。

 翌日。

 私はあるものを鞄に入れて登校していた。

 他人にバレないように私は脇に抱えるようにして鞄を運ぶ。

 さながら気分はスパイのようだ。

 別に私自身はバレても問題はないのだが、これを他人に見られると別の人物の名誉が損なわれたりする。

 そうなってしまうと鬼のように怒られることが目に見えてるので、私は慎重だった。

 自分の席にたどり着いた。


「ふぅ……」


「何持ってきたんだ、それ?」


「えっ?」


 席に着くなりクレアが質問してきた。

 私は分かりやすく動揺してしまう。


「それ、大事そうに抱えてたし、何か持って来てるんだろ?」


「え、ええそうですね……」


(くっ……! こんな時だけ鋭い!)


 私は冷や汗をかく。

 クレアにだけはこの鞄の中身は絶対に知られてはならない。


「まあ、どうせトランプみたいなやつだろ? 最近トランプばっかりしてたからな。気を効かせて新しいのを持ってきてくれたんだろ?」


「え、ええ。そうですよ……」


 都合よく勘違いしてくれたことに私は胸を撫で下ろす。

 しかしそれはまだ早かった。


「どんなのか気になるな。ちょっと見せてくれよ」


「え!? いや、それはちょっと……」


 私は鞄を背中に隠す。

 クレアはその挙動不審な様子を見て訝しげに私を見てきた。


「……何か変なものでも入ってるのか?」


「いえ、入ってません」


「本当か? お前はそう言いながらコスプレ衣装を持ってくるからな。それもコスプレ衣装なんじゃないか?」


「うっ……」


 私は図星を突かれた。

 クレアの言った私の鞄の中身は当たらずとも遠からずだ。


「ち、違いますよ」


「なら見せてみろ」


 クレアが私を睨みながらずい、と近寄ってくる。


「う……。きょ、今日も可愛いですね?」


「誤魔化すな」


 どうしよう。

 これは私とレイラたちが和解するために必要なものなのだ。

 しかし今これを見られたら絶対にクレアに没収されるだろう。

 と、その時、天に助けなのか、鐘が鳴った。


「ほらクレアさん! 鐘が鳴りましたよ! 早く席に戻ってください!」


「む……」


 私はクレアを押して席へと戻す。

 ちょうど教師も教室に入ってきたのでクレアは大人しく席へ戻った。

 クレアの追求を振り切った私は安堵して、教師の言葉に耳を傾けた。



「ぜえっ……ぜぇっ……!」


 私は壁に手をついて息を整える。

 今私はクレアの追求を逃れてきたところだった。

 まさかクレアが「あっ! あんなところに二足歩行で走るトカゲが!」という言葉を信じるとは思わなかったが。


「だけど、これは死守した……!」


 私は鞄の中にあるブツを取り出し眺めると、ニヤリと笑った。

 それを丁寧にしまうと、今回の標的であるレイラの元へと向かった。

 レイラは私と同学年なので、近くの教室にいるはずだ。

 どこのクラスにいるのかは知らないが、クラスの中を注意深く見ていたら分かるだろう。

 そう思い探し始めたが、私が間違っていた。

 探す必要なんてなかった。

 教室の席に座るレイラの周りには何人もの女子が取り囲んでいるので、外から見れば丸わかりだったのだ。


「……よしっ!」


 私は自分を鼓舞し、教室の中に入る。

 レイラの元まで歩いていくと、レイラも私に気づいて険しい表情になった。

 その雰囲気を感じ取ったのか、周りが静かになる。


「……何の用かな」


「今から少しお時間いただけますか?」


「なるほど……決着をつけにきたんだね」


「違います」


 何やら勘違いをされたので私は即座に訂正する。

 今回、私はレイラに敵対しにきたわけではないのだ。


「ここではお話できないので、ついてきていただけませんか? できれば昨日の彼女たちもご一緒に」


 私は敵意はないことを示すためにあえて人数不利を受け入れる。

 するとそこで本当に私に敵意がないことがわかったのか、彼女は驚いた表情になると頷いた。


「分かった。昨日の教室でいいかな?」


「はい。大丈夫です」


 そして私たちは移動した。




「さて、話とは何かな」


 教室に到着するなり早速レイラが本題を切り出してきた。


「今日お時間をいただいたのは、和解したいからです」


「ハッ!」


 私の言葉をレイラは鼻で笑った。


「言っておくけど、私たちは和解するつもりはない。君は私たちからクレア様を奪ったんだからね!」


 レイラはぷい、とそっぽを向いてしまった。


「ダメですか?」


 私は首を傾げてお願いしてみる。


「ダメだ!」


 しかしレイラの態度は頑なだった。

 しょうがない。これはブツを使うしかないだろう。


「ふふ、これを見てもまだそう言えますかね?」


 私はそう言って鞄から例のブツを取り出した。

 それは一枚の紙だった。


「それが何──なっ!?」


 レイラは紙に描かれているものを見て驚愕した。

 そこに描かれていたのは、以前クレアが女装した時に私がスケッチしたクレアだったからだ。

 自慢じゃないが、私はこの世界にきて暇つぶしや、もしもの時のために写真の代わりになるように画力を磨いてきた。

 そのためそれなりに上手にクレアは描けている。

 私がプロデュースしたとびきり可愛いクレアが。

 レイラたちは食い入るように私のスケッチを見ている。


「もし、和解してくれるなら」


 紙に穴を開けんばかりに集中して見ていた彼女たちに、私はわざと少し大きい声を出した。

 そして、まるで秘密の取引をするみたいに今度は声を顰めて言った。


「コレを、お譲りしてもいいです」


「っ!?」


 全員が食いついた。

 計画通りだ。

 私の絵になっているため劣化しているとはいえ、この破壊力抜群のクレアを見たなら欲しいと思うのが人間だろう。


「くっ……! 私たちをもので釣るだなんて!」


「卑劣ですわ!」


「私たちは屈しませんわ!」


「じゃあその絵から目を離してください」


 レイラたちは視点を私の絵に固定したままだった。

 説得力が皆無どころの話ではない。

 これはほぼ賄賂作戦は上手くいったと見ていいだろう。

 だが、これだけでは終わらない。


「しょうがないですね」


 私もレイラたちが素直に首を縦に振るとは思っていない。

 最後のダメ押しを用意している。


「こちらにはクレアさんにメイド服を着せる準備があります」


「!?」


 レイラ達の目の色が変わった。


「それだけではありません。他の衣装もたくさん用意しています」


 畳み掛けるように次々を私は提示していく。


「何、だと……!」


 これが今回の作戦の肝だ。

 古来より敵と敵が仲良くなる方法は、共通の敵を作ることだと相場が決まっている。


「ただ、以前私がクレアさんにお願いしても断られました」


「だから、私達の力がいる、と?」


「その通りです」


 この協力関係はどちらにも利がある。

 私は人手を手に入れることができ、そして彼女達はクレアのコスプレ姿をみることが出来る。

 完璧な作戦だ。


「どうですか? ここは一時休戦して、協力しませんか?」


 私は握手のために手を差し出す。


「……む」


 だが、まだレイラは迷っているようだった。

 私はため息をついて、本当に最後のダメ押しをする。


「ちなみに、今ならクレアさんのスリーサイズをお教えいたしますけど?」


「これからよろしく!」


 私がそう言った瞬間、レイラがとびきりの笑顔で手を握り返してきた。

 他の女子生徒たちも笑顔で拍手をしていた。

 なんて現金な人たちなんだ。

 この日、私とレイラ達は同盟を結んだ。

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