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37話


「……へ?」


 クイズ大会をしようと思う。

 レイラの言葉の意味がわからないくて私は首を傾げる。


「……と、言うわけでこれから君が本当にお姉様に相応しいかテストしようと思う」


「どこがという訳なんですか……脈絡が全くありませんでしたよ」


「カモン」


 レイラがパチン、と指を鳴らすと突然女子生徒が複数人出てきて私を取り囲んだ。

 いきなり出てきたことにビビりつつ私はレイラに質問する。


「な、何ですかこれ!」


「彼女たちは私と同じくお姉様の取り巻き志望でもあり、私のファンでもある」


「それは聞いてませんよ!」


「ふふ、大人しくついてくるんだ」


 レイラが手を伸ばしてくる。

 そして視界が暗くなり……。




「『クレア様のことどこまで知ってるかな! クイズ勝負!』〜!」


 レイラがそう言うと周りの女子生徒たちがパチパチと拍手をし、ヒューヒューと騒ぎ立てた。


「何これ……」


 私は困惑していた。

 連れてこられたのはいつもの空き教室の近くにある、別の空き教室だった。

 ご丁寧に机が二つ並べられ、私とレイラがそこに座っている。


「これから君が本当にお姉様に相応しいかテストする。どこまでお姉様のことを知っているかというね」


「は、はぁ……」


「質問を読み上げてもらって、そこから先に手を挙げる方が答える権利を得られる。三回先に答えた方が勝ちだ」


 レイラが勝負の内容を説明する。

 オーソドックスなクイズ勝負だ。

 普通こういったクイズ大会では問題文を読み上げてる途中でも答えられるが、今回はお嬢様らしく問題文は全部読み上げてからのようだ。


「…………ちなみに、それに答えられなかったらどうなるんですか?」


「その時は、もちろん『コレ』さ」


 レイラが笑顔で親指で首をかき切った。

 この人たちクレアのことになると治安が一気に悪くなる気がするんですけど……。


「大丈夫さ。質問は基本的なものしか出さない」


「何だ、そうなんですか……」


 基本的な問題なら一方的に負けるなんてことは起こらないだろう。


「それでは第一問!」


 女子生徒が問題文を読み上げる。

 私は素早く手を挙げられるように身構えた。

 さあ、どんな問題か──。


「クレア様の誕生日を答えてくださいですわ!」


「……」


 ……やべ。

 そう言えば、私、クレアのことを何も知らなかった。


「はい!」


「はいレイラ様!」


 私が黙っているうちにレイラが手を挙げる。


「11月24日!」


「正解ですわ!」


 レイラが正解したことで、レイラたちの陣営が喜んだ。


「ふっ、どうしたのかな。これくらいわからないとお話にならないよ?」


「す、少し調子が悪いようですね……」


 本当は誕生日なんて知らなかったのだが、私は知っていた風にして誤魔化す。

 もしここで真実を話してしまったらどんな目に合うか分からないからだ。


「では次の問題ですわ」


(今度こそはちゃんと答えないと!)


 私は拳を握りしめた。


「クレア様の体重はいくつでしょう!」


「ちょっと待て」


 私は思わずツッコミを入れた。

 しかし同時にレイラが手を挙げ、回答を答えた。


「50キロ!」


「正解ですわ!」


 またレイラが正解したことにより、一層レイラ陣営は盛り上がる。


「いやそれはおかしいでしょう! いくら取り巻きといえどそんなの知ってるはずないじゃないですか!」


「そんなことはないよ」


「え?」


 思ったよりも真面目な顔で返されて私は困惑する。


「取り巻きとして主人の健康管理をするのは大切なことだ」


「そ、そうなんですか……?」


 周りの女子生徒たちもうんうん、と頷いている。

 あまりにも当然だと言わんばかりの真面目くさった表情だったので、私はついレイラの言っていることが本当なのではないかと一瞬考えてしまった。


「ああ、だから私たちがクレア様の体重を知っていても何の問題も無いんだよ。……本当だよ?」


「そうですそうです」


「クレア様の体重を調べるのも、全く正しい行いですわ」


 彼女たちはここぞとばかりに声を揃えてレイラに同調する。

 いや、やっぱり嘘っぽいなこれ。

 今思い出したけど、マーガレットの取り巻きだったみんなもマーガレットの体重なんて知らなかったし。


「……」


「さ、さあ! 次私が正解したら私の勝ちだ!」


 私が疑いの眼差しを向けているとレイラはあからさまに話題を変換した。


「ちなみに私が勝ったら取り巻き交代のうえ、激辛フードだけで三日間生活してもらう!」


「えっ!? そんなの聞いてないですよ!」


 レイラの衝撃的な一言に私は目を見開く。


「さあ! 次の質問に行こう!」


「ちょっと待ってください!」


 レイラはこれ以上追求されたくないのか強引に次に進もうとする。


「あの、うるさいんですけど」


 その時、クレアが教室のドアを開けて入ってきた。

 大きな声で騒いでいたので近くのクレアがいる空き教室にも私たちの声が聞こえていたようだ。

 相当騒がしかったのか、クレアは不機嫌そうな表情になっている。


「お、お姉様!?」


「どうしてこんなところに!?」


「私、まだ心の準備が!」


 憧れの存在がいきなりやってきたことにより、彼女たちは俄かに騒ぎ始める。

 クレアはそれに反応することなく、私を見つけると質問してきた。


「何をしているんですか?」


「今は取り巻きの座を賭けてクイズ大会をしています」


「はあ? 何勝手に取り巻きを景品にしてるんですか」


「いえ……私から言い出したことではないんですよ」


 そして私はレイラをチラリと見た。

 レイラはびくりと肩を振るわせる。


「も、もちろん冗談ですよお姉様!」


「いや、結構ガチで言ってそうでしたけど……」


「君はちょっと黙ってて!」


 クレアは呆れたようにため息をついた。


「はぁ……取り巻きを交代なんてできるわけが無いじゃないですか」


「うっ……」


「申し訳ございません……」


 レイラたちは素直に謝った。

 根はいい人たちなのかもしれない。


「そもそも私は彼女以外取り巻きにするつもりはありませんので」


「うぐっ……」


「いや、こっちを見ないでください」


 改めてはっきりと取り巻きになるのを断られ、レイラが涙目で私を睨んできた。

 ていうか、睨んだと言うよりほとんど泣きかけだった。


「ちょっと貸してください」


「あっ」


 クレアは問題文を読み上げていた子から紙を取る。

 そしてそこに書かれている問題文を見ると目を細めた。


「ふーん、こんなクイズを……」


「こっ、これは! あの! その!」


「はぁ……大体、あなた私のスリーサイズ知ってるじゃないですか。今更体重とか身長とか聞いて何になるんです?」


「あっ、それは……」


 私は反射的にまずいと感じ、クレアを止めようとしたが、もう遅かった。


「スリーサイズ……?」


「今、スリーサイズを知ってるって言った……?」


 レイラたちがクレアの言葉に衝撃を受けたような表情になった。

 ざわめきが広がっていく。


「そんな……スリーサイズって……私たちだってまだ知らないのに……!」


「お二人かそんな親しい関係だったなんて……!」


 彼女たちは絶望し膝をついたり、呆然としていた。

 その中でレイラが静かなのが気になって、私はレイラの方向を向く。

 レイラは俯いてぎゅっとスカートを握り、肩をプルプルと震わせていた。

 そしてキッ! と顔を上げると目に涙をいっぱいに溜めて私を指差した。


「こ、これで勝ったなんて思わないことね!」


「別に勝負してたつもりはありませんが……」


 別に勝負してたつもりは無い。

 そのことをレイラに伝えるとレイラはびっくりしたようにまん丸にした。


「っ!? うわーん!」


「レ、レイラ様っ!?」


「待ってください!」


 ついに泣き出して教室から走って出て行ったレイラを彼女たちは慌てて追いかけていく。

 まるで嵐が去った後のように急に静かになり、教室には私とクレアだけが残された。


「って! クレアさん!」


「ん?」


「なんであんなことを言ったんですか!」


「……? どれだ?」


 クレアは何のことを言われているのか分からないのか首を捻る。


「私がクレアさんのスリーサイズを知ってるってことですよ! あんなの言ったら私がまた目の敵にされるじゃないですか!」


「ちょ! 叩くな! それの何が問題なんだよ!」


「だって、そんなのまるで私がクレアさんとそんな関係みたいな……」


「いや、あっちは俺のことを女だって思ってるからそうは思わないだろ?」


 クレアは本当にわからない、といった顔で首を捻る。


「あ、そっか……」


 私は納得した。

 そういえばこの世界では同性愛についてはまだ価値観が進んでいないんだった。

 だから私がスリーサイズを知っていたとしてもそういう発想になること自体がないのか。


「ま、じゃあこの話はもういいです」


 私は思考を切り替える。


「それより、これからどうやって彼女たちの私の矛先を逸らしましょうか……」


 このままだと私と彼女たちの間には深い溝ができてしまう。

 それは良くないので、その溝を何とかして埋めたいのだが……。


「そうだ!」


 私は妙案を思いついた。


「何か思いついたのか?」


「ふふふ、それは秘密です」


 クレアが聞いてくるが、私はあえて話さない。

 もしクレアが聞いたら、全力で止めに来るだろうからだ。

 私が思いついた方法はいたってシンプル。


 クレアが原因なら、逆にクレアを差し出せばいいのだ。

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