16話
超特急で書いたのでおかしな所があれば教えてください。
しまった。油断していた。
それは突然だった。
「全部あなたのせいですわ!」
私はまたエリザベスに絡まれていた。
帰宅しようと教室を出て一人で廊下を歩いていたところ、エリザベスに用事があるようで話しかけられたのだ。
男爵家の私が侯爵家のエリザベスを無視する訳にもいかなかったので現在は仕方なくエリザベスに付き合っていると言うわけだ。
後ろの取り巻きも私を睨んでいる。
流石にここは廊下で人の目もあるので前回みたいに暴力を振るったりはしないだろうが、複数人で来られたら流石に多勢に無勢だ。
それにもっとまずい事がある。
ただ今、私を助けてくれるクレアはいない。
今日は用事があるとか何とかで先に帰ってしまったのだ。
つまり、援軍は来ないので私一人でこの状況を切り抜けなければならない。
「ええと……何がでしょうか?」
とりあえず、エリザベスに言われたことは全く身に覚えがなかったので私は首を傾げる。
するとエリザベスは憤慨した様子で私に怒鳴りつけた。
「あなたがあの時あんなことを言うから私が恥をかいたじゃありませんか!」
「ええ……」
どうやら、エリザベスは先日私に暴力を振るおうとしていたところをクレアに見つかり、クレアの派閥に入り損ねたことを私のせいだと言いたいらしい。
正直に言って無茶苦茶だと思う。
「あなたが私がクレア様の派閥を乗っ取ろうとしている、なんて出鱈目を言ったせいで私はクレア様にあんな事を言われたんですよ! 分かっていますか⁉︎」
「そうよ!」
「あんたのせいよ!」
エリザベスの取り巻きも合わせて私を責める。
「そんなことを言われても……」
私はただ単に見え見えの思惑を指摘しただけだ。
クレアの派閥に入れなかったのは、エリザベスの行動の結果だし単に因果応報とも言える。
そもそもクレアは派閥に入れる気がなかった、ということは置いといてもそれでもエリザベスの態度はひどいものだった。
あの状況、あの態度で派閥を乗っ取る気はありませんでした、なんて普通に考えて通じる訳がない。クレアが見ても思惑に気づいていただろう。
あれを私のせいだと言い張るには少々無理があるのではないだろうか。
派閥に入れないという判断を下したのはクレアなのだから私に文句を言われる筋合いが無いんだけど……。
そう考えていると、つい本音がポロリと漏れてしまった。
「はぁ………………面倒臭い」
「何ですって⁉︎」
「え? あっ!」
私は自分の言ったことに気づいた。
「こ、これは違います!」
必死に誤魔化そうとするが、どうやらエリザベスも取り巻きもしっかりと聞いていたようで怒り具合がさらに増した。
「さっきからふざけてるの!」
「男爵家のくせに何よその態度!」
「あんたなんかエリザベス様の小指一つで消せるんだから!」
取り巻きは私に罵声を浴びせる。
そしてもっと怒っているエリザベスは、さらに私へ苛烈な罵倒を浴びせた。
「調子に乗るんじゃありませんわよ! 元々マーガレット様の派閥から追放された出来損ないのくせに!」
「っ……!」
「はっ! 図星のようですわね!」
私が言葉に詰まったのが分かった瞬間、エリザベスは嗜虐的な笑みを浮かべ私へ暴言を投げ続ける。
「マーガレット様は本当に見る目がなかったですわね! あなたみたいな出来損ないを派閥に入れるなんて!」
「あ、あの……」
「こんな使えない人間を派閥に入れたらいくらマーガレット様の派閥といえど弱体化するに決まってますわ!」
「えーと……」
「まあ大方、自分を持ち上げさせるために弱小貴族ばかりを取り巻きにしたんでしょうけど、それが今となっては裏切られてるなんて、いい気味ですわ!」
「あの、エリザベス様っ!」
私は無理やりエリザベスの言葉を遮る。
「なんですの! さっきから!」
エリザベスは話を遮られたことに怒り私に怒鳴った。
しかし私はエリザベスの背後を恐る恐る指差す。
「う、後ろ……」
「後ろが何ですのよ──ヒッ!?」
怪訝そうな顔をしながらも振り返ったエリザベスは悲鳴を上げた。
「ごきげんよう。エリザベスさん」
そこにはニッコリと笑っているマーガレットが立っていたからだ。
さっき、エリザベスに図星を突かれて言葉を詰まらせたように見えたのはマーガレットがエリザベスの後ろに立っていたから驚いて言葉が出なくなっただけだった。
「マ、マーガレット様……!」
「何やら熱心に私について話していらしたようですね。私も混ぜてくれませんか?」
「ヒィっ!」
これは「さっきの会話は聞いてるぞ」というアピールだ。
マーガレットはそれは怖いほどに綺麗な笑みを浮かべてエリザベスを見つめている。
エリザベスは慌ててマーガレットに対して言い訳を始めた。
「あ、あのマーガレット様。これは……」
「私が、なんでしょうか?」
「えっと、そのこれは誤解で……」
エリザベスは言葉を詰まらせながら言い訳をする。
しかしマーガレットはそれを許さない。
「私が裏切られたからいい気味、と仰ってました?」
「あの、その……」
笑顔でエリザベスに至近距離まで顔を近づけるマーガレットはすごい迫力がある。
もうエリザベスはしどろもどろになって、涙目になっていた。
あれだけ大きな口を叩いていた割には目の前に本人が現れると何も言えないようだ。
すごく共感を覚える。
「それに私の取り巻きを弱小貴族、と嘲笑っていたようですが……」
「ヒッ!」
マーガレットは少女漫画に出てくるイケメンがやるみたいに、エリザベスの顎をクイと引いて自分の方を向かせる。
「私のお仲間を笑うと言うことは、私に対する侮辱と同じだと考えなさい」
「は、はいぃ……」
マーガレットに凄まれ、エリザベスはもう腰を抜かしかけていた。
「も、申し訳ありませんでした……!」
「行きなさい」
エリザベスに行くように促すと、エリザベスと取り巻きは慌ててマーガレットから逃げていった。
するとマーガレットは私へと向き直り、話しかけてきた。
「あなたは何とも無いのかしら?」
「え? はい」
突然の質問に私は戸惑いながらも答えを返す。
「なぜあなたは一人なの?」
「えっと、それは……」
「クレアさんはあなたのことを守ってくれませんの?」
「あの、その……」
矢継ぎ早の質問に私は困惑する。
しかしこの質問にどんな意図があるのか分からないが、マーガレットの瞳は真剣だった。
だから私も真剣に答える。
「クレアさんはいつもは守ってくれます。でも今日はたまたま居なくて……」
「……そう。気をつけなさい」
返ってきたのはあっさりした返事だった。
質問の答えを聞いてマーガレットは私への用事はもうなくなったのか踵を返して歩いて行ってしまった。
「結局何だったんだろう……ん?」
去っていくマーガレットの背中を見送っていると、私はあることに気づいた。
マーガレットは私達の教室を通り過ぎ真反対の方向に進んでいる。
つまり、マーガレットは教室を出てから私とエリザベスの姿を確認し、向かう方向とは真反対のこちら側へわざわざやって来た、ということだ。
教室からは離れているので、もし教室から出た時にマーガレットがエリザベスに絡まれている私の姿を見ても話の内容までは分からなかった筈だ。
と言うことは、もしかしてわざわざ私を助けに来てくれたのだろうか……?
「そんな訳、無いよね……?」
ポツリと呟く。
勿論誰も答えてはくれなかった。