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14話


 私たちは学園通りへと出てきた。

 放課後ということもあり、生徒たちが屋台でスイーツを買ったりしているのが見える。


「いやー、遊ぶとなるとテンションが上がりますね」


「そう言えば俺、学園の外に馬車以外で出るなんて初めてだ……」


「えっ!? まさかクレアさん放課後誰かと遊んだことが無いんですか!?」


「しょうがないだろ……。ずっと友達もいなかったし、学園が終わったあとは馬車に乗って帰るから遊ぶことなんてないんだよ」


 さっきまでの言葉の端々から薄々分かってはいたが、どうやらクレアはかなりの温室育ちらしい。

 まさか放課後に誰かと遊ぶのが初めてだなんて。


「もしかしてクレアさんって陰キャ……」


「おい、言葉の意味は分からないが馬鹿にされてることだけは分かるぞ」


 私に陰キャ呼ばわりされた事が不本意だったようで、クレアは不満そうに腕を組む。


「言っとくが、学園でも俺と一緒に過ごしたいって奴は男女問わず沢山いるんだからな!」


「でも友達がいなかったのは事実なのでは?」


「だから違うって言ってるだろ! 俺は友達が出来ないんじゃない! 作らないんだ!」


「そうですね。今日はいっぱい遊びましょうね」


「その生温かい目を俺に向けるな」


 友達が作れない人ほど自分は作れないのではなく作らないのだ、と大声で言うものだ。


「だいたい、お前も大して友達いないだろ!」


「なっ!? 私はマーガレットさんの派閥に所属してたから誰も寄り付いてこなかっただけです! 作ろうと思えば作れます!」


 私はマーガレットの取り巻きをしていたから皆恐れて誰も寄り付かなかっただけで、友達がいないのは私が原因な訳ではない!


「いないって事実には変わりないってお前が言ってただろ!」


「ぐぎっ!」


 クレアを虐めていると私にも致命傷のブーメランが飛んできた。

 ブーメランの刺さった頭からぴゅーぴゅー血が出てる気がする。


「……この話、辞めましょうか」


「……そうだな」


 私達は共に傷を広げるだけの不毛な言い争いに、一時休戦を挟むことにした。

 これ以上戦っても二人して号泣してる未来しか見えない。


「さて、気を取り直して……クレアさんはお腹空いてませんか?」


「切り替え早いなお前……」


「すぐに切り替えないとやっていけませんでしたから」


 商会を運営するに当たって、私は元々商売のノウハウなんか無かったので、何をするにしても失敗したり損を出したりしていた。

 しかしその度にいちいち落ち込んでは何も進まないので、私の切り替えは早くなっていた。


「ちょっと小腹は空いたかな」


 クレアは制服の上から細いお腹に手を当てて答える。

 むっ。それはくびれがあると噂のお腹……。

 私は最近少し太ってきたのに、男であるクレアにくびれがあるなんて妬ましいような、でも女装好きとしては気になるような……。


「なんだ?」


「ああいえ、なんでもありません」


 ちょっと先週聞いた言葉が忘れられなくてクレアのお腹を凝視していたが怪訝な目で見られたので慌てて顔を上げる。

 このままでは変態になるところだった。

 大丈夫、気づかれてはいない。そのはずだ。


「なんで俺の腹を凝視してるんだ」


「あー、えっと食べるところ食べるところ」


 全然気づかれてました。

 私は棒読みの演技で何か食べるものは無いかと辺りを見渡す。

 くっ……! クレアの私を見る目がどんどん訝しげになっていく……! 早く何か見つけないと!

 私は何かないかと必死に辺りを見渡す。

 そしてとある屋台を発見した。


「あ、あれ食べましょう!」


 そして私はクレアの返事も聞かずにぐいぐいと腕を引っ張って屋台へと連れて行く。


「あ、ああ……」


 しかしクレアはこんなふうに放課後に出歩いたことがないからか、何処かぎこちない。

 どうやらまだ緊張しているようだ。

 私が連れてきたのはクレープ屋だった。


「クレープ? 聞いたことないスイーツだな」


「最近は流行り始めたスイーツだそうですよ」


 まあ、広めたのは私の商会なんだけど、ということは言わないでおく。

 私はクレープの屋台の店員に声をかけた。


「こんにちは」


「へい! ……ってお嬢でしたか。今日は何の御用で?」


「今日は普通に客として来ただけですよ」


「そうですか。また何か新メニューでも思いついたのかと」


「それはもう商会に伝えてありますから、レシピがすぐにくると思いますよ」


「あるんですかい……まぁお嬢のレシピは毎回美味いので良いんですが」


「ふふ、ありがとうございます……クレアさん?」


 さっきからクレアが何も言葉を発しないので、隣を見ると、店員を見たクレアの表情は固まったいた。

 店員の見た目がどう見てもカタギではない、元の世界の言葉で表すとすればヤクザにそっくりの見た目をしていたからだろう。

 クレアは今までこう言った人間は関わるどころか見たことも無いはずだ。そのため驚いてしまったのだろう。

 クレアの反応を見て強面の店員は微笑む。


「お嬢さんを驚かせてしまったようで申し訳ない。すみませんね、こんな怖い顔で」


「彼は元スラム街の人間なんです。確かに一見怖い顔ですが、優しい性格ですしクレープを作る腕も確かですよ」


「へへ……」


 私が褒めると店員は照れたように鼻をこする。

 意外にも思ったものとは違う対応にクレアは段々慣れてきたのか、普段通りの表情になった。


「お嬢は私みたいなクズにも仕事を与えてくださいました。そのお陰で最近はかなり安定した生活を送れるようになったんです! 本当に私たちの女神です……!」


 強面の店員がなんだか恥ずかしいことを語り出したので、慌てて注文を出す。


「このバナナのやつをお願いします! クレアさんは何にしますか?」


「え、じゃあこのイチゴのやつで……」


「承りました! 全身全霊で作らせていただきます!」


 店員はクレープ作りにとりかかる。

 クレアはクレープが出来るその工程を興味深そうに見つめていた。

 そしてすぐに注文したクレープが出てきた。

 私はクレアが頼んでいたイチゴのクレープを渡す。

 そして近くにあったベンチに座った。


「初めて見た形のスイーツだ……」


 クレアは見たことのない形のクレープを見て不思議そうに観察していたが、意を決して食べた。


「美味い……」


 次の瞬間クレアが目を輝かせて呟いた。


「ふふ、そうでしょう!」


 私は自慢げに胸を張る。

 私が何ヶ月もかけて監修して発明したんだから、当然美味しいに決まっている。

 そしてクレアは一気にクレープを食べ尽くしてしまった。


「もう無くなった……」


「そんなに急いで食べるからですよ。もっと味わって食べないと」


 私はクレープを食べ始める。

 ふと気がつくとクレアが私の手を凝視していた。

 クレアの言いたいことは何となく分かるが、敢えて聞いてみる。


「どうかしましたか?」


「い、いや、その……」


 クレアの歯切れは悪い。私は更に質問する。


「ちゃんと口に出してくれないと分かりませんよ。ほら、何が欲しいんですか?」


 私の問いかけに対してクレアは言おうかどうか少し悩んでいたが、最終的に欲望に負けて自分の望みを言った。


「……なぁ、そっちのも一口くれないか?」


「ひゅっ」


 思わず息を飲み込んでしまった。

 食い意地が張ってると思われるのが恥ずかしいのか頬を赤く染め、上目遣いになりながら首を傾げるクレアは、破壊力が天井を突破していた。

 仕草、表情すべてが私のドストライク。

 ああ、この日のために私は生まれてきたのですね……アーメン。


「全部あげます」


 勿論私はクレープを丸ごと渡す。


「えっ、いいのか?」


 クレアは嬉しそうな表情になったが、どうぞ食べて欲しい。


「いいですよ。これはお礼ですから」


「?」


 クレアは私が何を言っているのかいまいち分からなかったようだが、私は一人で余韻に浸る。


「屋台じゃなくて、レストランで出てもおかしくないくらいだ……!」


 クレアはあまりにも美味しそうに夢中になって食べている様子を見て、遠くから見ていた強面の店員も笑顔になっていた。

 私も最高の表情と天使みたいな笑顔(中身を一旦忘れることが出来たら)を見ることが出来たので幸せだった。



 そしてクレープを食べ終わった後、私たちは大通りを見て回ることにした。

 クレアが学園通りに来ること自体が初めてのようなので、私はクレアを案内することにした。

 歩きながらいろんな店を回っている最中、とあるパイ専門店の前で立ち止まった。

 店の中には様々なパイが並んでおり、見ているだけでお腹が空いてきた。


「あ、そうだ」


 私はあることを思いついた。


「次はここに行きましょう」


「え、まだ食べるのか? 流石に太るぞ、お前」


「ぶっ飛ばしますよ」


 私はそう言ってパイ専門店の中に入る。失礼なことを言われたので、これからすることにもちっとも罪悪感が湧かなかった。


「さて、どれにしましょうか……」


「俺はもう流石に食べれないぞ」


「私も食べませんよ」


「え?」


「あ、これ美味しそう。すみません、これ全部ください」


 私は店員の人にアップルパイを全て欲しい、と告げる。


「かしこまりました」


「……お、おいこんなに買ってどうするつもりなんだよ」


 クレアが小声で私に質問してきた。

 私が買ったアップルパイは少なくとも三十個ほどはある。

 確かにこれだけの数は私たちでは食べきれないだろう。


「大丈夫ですから」


 私はクレアにそう言いながら代金を支払う。

 そしてアップルパイが大量に入った袋を指差す。


「あ、これお願いします」


 クレアにアップルパイを持って欲しい、と言う意味だ。ちなみに拒否権は無い。

 さっき太るとか言った罰だ。


「は? 何で俺が」


「男の子でしょ? 女の子の荷物ぐらい持ってくださいよ」


「こんな時だけ都合よく男扱いするな!」


「いいじゃないですか。これまでのスイーツは全部奢ってるんですから。その分だと思えば安いものですよ」


「う……」


 そう。クレアは今まで放課後に出歩くような用事がなかったためか、一切現金を持ち歩いていなかったのだ。

 逆に「財布って何?」と聞かれたぐらいなので、相当温室育ちだ。

 そのため私は何か買うたびにクレアの分まで奢っていたので、これくらい働いてもらってもバチは当たらないだろう。

 そう言うとクレアも納得したのか、私のアップルパイを渋々ながらも持つ。


「お、重い……」


「すぐ近くですから辛抱してください」


 私はクレアを大通りのすぐ近くにある場所へと連れていった。

 本当にすぐそこにあるので二、三分程で着いた。


「到着しました」


「ここは……」


 クレアは建物を見る。

 私が連れてきたのは孤児院だった。


・メモ

エマがクレアに対して辛辣になるのは、大抵クレアの中身であるナルシストな性格が見えるときです。

逆に外見に関しては好みドストライクなので、中身を見せることなく完璧に女子になりきるとエマはクレアに対して激甘になります。


欲しいものは全部買ってあげるくらいにはクレアに甘くなります。

しかしまだクレアはエマが甘くなる理由は気づいてません。


つまりクレアがこのことに気づくと……?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 美少女にいくらでもおごってあげたくなるオジサマのように激甘になるの、わかるんだよなぁ~。眼福…
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