13話
それは私たちが派閥を立ち上げたことが公になり、少し浸透してきた頃だった。
クレアの派閥に入りたい、という生徒が訪ねてくるようになった。
先日のエリザベスのように公爵家であるクレアの派閥に加わりたいという人間は少なくない。
しかし私たちはどれも断っていた。
理由はクレアが女装しているからだ。元々この派閥はお互いの秘密を守るために出来たようなもので、特にクレアの秘密は派閥内で隠し通すのは厳しい。
そのため誰が来たとしても全て断っているのだ。
ある日のこと。
「私、クレア様の派閥に入りたいんです」
「ごめんなさい。私たちは派閥をこれ以上広げるつもりはないんです」
クレアは申し訳無さそうに派閥入りの願いを断る。
この数日間で二桁は入りたいと来たので、すでにクレアは断り方のプロになっていた。
「そうですか……分かりました」
今回の女子生徒も私たちが一人も受け入れていないことを聞いていたためか、ダメもとで期待せずに来ていたよう、で特に食い下がることはせずに引き下がった。
しかしその代わりに質問をしてきた。
「あの……本当にお二人は派閥なんですか?」
「え? それはどういう……」
私は彼女に質問する。
「あっ、申し訳ありません! つい気になって……」
「大丈夫ですよ。それより、どうしてあなたはそう思ったのですか?」
彼女は不躾な質問をしたことに気づいたのか焦り始めたが、クレアは優しい笑みで気にする必要は無いと伝え安心させる。
「その……失礼ですが、お二人は学園では一緒に行動なさっていますが、学園の外では一切一緒に行動しているところを見ないので、もしかして派閥は見せかけなんじゃないか、という噂が……」
「「…………」」
私とクレアは揃って黙り込む。
図星だった。
「わ、私達はきちんとした派閥ですよ?」
「え、ええ、勿論ですクレア様」
私達は今更になって仲がいいフリをするが、他人から見ればとても嘘っぽく見えるだろう。
「もしかしてその噂、結構広まっていたりしますか……?」
「はい……」
クレアが質問すると彼女はこくりと頷いた。
(まずいな……)
クレアが小声で呟いた。
(まずいですね……)
私も頷いた。
そして放課後。
「というわけで、放課後デートをしましょう」
「なんだデートって?」
クレアは聞き慣れない単語に首を捻った。
「知らないんですか? 男女でお出かけすることです。最近若い層で流行ってる言葉ですよ。遅れてますね」
「最後の一言は余計だろ。なんで急にそんなことをするんだ?」
「さっきの話を聞いてませんでしたか? 私たちは派閥に見えないそうです! だから放課後に学園通りで一緒に過ごすことで派閥アピールをするんです!」
学園通りとは学園の正門から続く大通りのことで屋台や飲食店、ブランド品が並ぶ高級店など様々な層の店が並んでいる。
セントリア学園の生徒は放課後この大通りで買い食いをしたりショッピングを楽しんだりするのが日常になっていた。
ブランド品なんて誰が買うのかと最初は疑問だったが、ここに通う生徒は貴族も多いので結構儲かるらしい。マーガレットのショッピングに付き合わされた時にとんでもない金額のバッグを買っているのを目撃したので間違い無い。
「いや、派閥のアピールをするのは賛成だが、お前と仲がいいフリをするなんて嫌なんだが」
「私だって嫌です。遊んでたら急に変なポーズで自画自賛し始めそうですし」
「おい。俺をナルシストか何かと勘違いしてないか?」
「え?違うんですか?」
「ぶっ飛ばすぞお前」
クレアが怒りに拳を振るわせている。
どうやら自分がナルシストだとは微塵も思っていないらしい。
え? 自覚なかったの……?
「まあそんなどうでもいいことは置いといて」
「どうでも良くないが」
「私たちが仲がいいフリをするのは意味があります」
「……」
クレアが私のことを睨んでいた。
「派閥なのに遊ぶなんて、意味あるのか?」
「いいえ違います。派閥だからこそ遊ぶんですよ。私がマーガレットさんの派閥にいた頃も派閥の人を連れてよく遊んでいましたし」
私はマーガレットの派閥にいた時のことを思い出す。
まぁ、遊ぶというよりは付き人をしていたと言う方が正しいだろうけど。
実際に効果はあると思う。
私達が一緒に遊んでいることで仲がいい、という印象を植え付けることが出来るしコミュニケーションを取ることで派閥としての結束度も上がる。
「そんなものか……」
「はい。なので今から行きましょう」
私はクレアを席から立たせて連れ出した。
まぁ、本当は「女装男子と放課後デート」という前の世界からの長年の夢を叶えたいだけだが。
いや、ほら、現実に女装してる人なんて中々いないし、この機会だからついでに、ね?
本当の目的は隠しているがクレアにも利益は十分にあるはずなので問題ないだろう。
そして私はクレアの背中を押しながら上機嫌に正門へと向かった。
・メモ
前世ではリアルな男の娘(女装男子)が身近なところにいなかったので、エマの野望である『男の娘と一緒に遊びたい!』は果たされませんでした。
あと女装男子という建前はあるものの、『デート』という言葉を使うことが出来るくらいには初期から好感度は上がっています。