表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/53

12話


「それではこれで用事も終わりましたので、今回はここでお暇させていただきます」


「ああ。見送ろう」


 私がソファから立ち上がるとクレアも立ち上がる。

 そして扉を開いた時だった。


「客人かな?」


 そう言ってクレアの父であるハインツが部屋へと入ってきた。

 黒髪をオールバックにしており、さすがクレアの父と言うべきか当主としての威厳のある男性だ。

 クレアはいきなり父が入ってきたことが意外だったのか、目を見開いて驚いている。


(この人がクレアさんに女装を命じた人か……)


 私はそんなことを考えながらも貴族用のスマイルを浮かべ、挨拶をした。


「初めまして。ホワイトローズ商会会長のエマ・ホワイトです」


「うむ、よろしく」


 私が挨拶をするとハインツは笑顔で頷いて手を差し伸べてきた。

 握手ということだろう。

 私が手を握り返すと力強く握られる。


「君が噂のホワイトローズ商会の会長か。その敏腕は噂でよく聞いている。今日は息子のために屋敷まで来てもらい、感謝する」


「いえ。これも含めてサービスですから」


 元の世界の価値観からしたらハインツの言い方は上から目線に聞こえるが、この世界の基準からすれば男爵家の私を相手しているというのに、相当物腰も柔らかく丁寧だ。

 貴族が格下の家を相手にするときは大体もっと横柄な態度をとる。その点、ハインツはとても優しく穏やかな態度を見せている。

 こんな人が本当にクレアに女装を強制したのだろうか?

 と、考えているとクレアが私の前に出てハインツに質問する。


「父上、なんの御用でしょうか」


「クレア……」


 ハインツはクレアが前に出てくると笑顔から険しい表情へと変わった。

 そして眉を寄せて少し間をおいてからクレアに質問する。


「……王子との仲は、順調か?」


「っ!! …………はい」


 クレアはハインツの質問に苦い顔で答えた。


「そうか。それでは挨拶も済ませたから、私はもう行かせてもらおう」


 そしてハインツは頷くと私に軽く会釈をする。

 私がそれにお返しをするとハインツは歩いて行ってしまった。

 ハインツの背中を見送ってクレアは舌打ちをする。


「チッ……すまなかった。父上とお前を会わせるつもりはなかったんだが」


 クレアが珍しく謝って来たので調子を崩されながらも私は否定した。


「いえ、大丈夫ですよ。少し挨拶をしただけですし」


「いや、俺の落ち度だ。父上とお前を会わせてしまった。この接触を利用されるかもしれないのに」


「えっ? でも挨拶しただけですよ?」


「いつもは滅多に屋敷の中を歩かないくせに、今日だけ歩いているなんておかしい。きっと俺を出汁にして大商会の会長のお前とコネを作ろうとしてたんだ」


 ハッとクレアは自嘲する。


「やっぱり俺は父上にとってただの道具でしか無いんだよ。権力者とコネを作るためのな」


「そうでしょうか」


「そうだ」


 クレアは断言しているが、私はそうは思わなかった。

 ハインツのクレアに接する態度は出来損ないの息子を差別していると言うよりも、もっと違う、どこか接し方を迷っているように見えたのだ。

 その姿がどこかで見たことがある姿と重なっているように思えるのだが、それが思い出せない。

 と、考えているとクレアがフッと笑う。

 クレアなりに気持ちを切り替えたのだろう。いつもの調子に戻っていた。


「まあいいさ。こんな扱いには慣れてる。それで、ドレスはいつ頃できる?」


「特急でパーティーの三日前までには仕上げます」


「じゃあ割り増しで料金は払うことにしよう」


「ありがとうございます。これからもホワイトローズ商店をよろしくお願いします」


「ああ、また」


 門の前まで来ると私は馬車に乗り込んだ。

 馬車の窓から見るクレアは笑っていたが、どこか悲しそうな目をしていた。


「すみません。止めてもらっていいですか」


 私は馬車を止めてもらうと馬車から降りてクレアの元へと小走りで駆け寄る。


「えっ、どうした?」


 急に馬車から降りてきた私にクレアは疑問を持った顔になった。


「私は、クレアさんの協力関係です」


「ああ」


 クレアは私が急に何故そんなことを言い出したのかが分からないのか、不思議そうな顔で首をひねっていた。


「でも、不本意ではありますが……それ以前に友人と言えなくも、無いです」


 誰かに向かって面と向かってお前は友人だ、と言うのは少々気恥ずかしい。

 私は目を逸らす。


「……ああ、ありがとう」


 クレアは私の言いたいことが分かったのか少し間を開けてから微笑んだ。


「それじゃ、また学園で」


 照れくさいので私は逃げるように別れを告げて馬車に乗り込む。

 窓から見るクレアは、さっきよりは明るい顔になっていた。


短いので2回更新します。


エマの言葉の意味は「確かに協力関係ですが損得だけじゃなくてちゃんと友人としての情はありますよ」ということを伝えたかった。でも面と向かってハッキリとそう言うのは踏み込みすぎな気がするので、遠回しな言い方になっています。


クレアはエマの表情から言いたいことは理解してます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] いいですね…訳あり男女の友情…男の娘も最高に好物なのでありがたいです……!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ