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1話


 ここはセントリア学園。


 貴族から平民まで、様々な身分の人間が通う学園。


 その中でもカーストのトップに位置しているマーガレット・エドワーズ公爵令嬢の取り巻きBをしているごく普通な私は。



──推しを見つけた。






 突然だが、私には前世の記憶がある。

 前世の私は日本で会社員をやっていた、ごく普通の女性だ。

 それがある日突然過労死で死んでしまった。私の勤めていた会社がブラックだったのだ。


 二十連勤の末、死んでしまった。

 よく考えれば六年間働いていてなぜ死ななかったのか不思議なくらいだが、それは“推し”の存在があったからだろう。

 度重なる連勤で“推し”からエネルギーを貰えなくなった私はとうとうエネルギーが切れて死んでしまったというわけだ。

 そして死んでから目覚めるとこの異世界で赤ちゃんとして生まれていた。

 ここが異世界だと分かったのは生まれてから随分後のことだ。


 ともかく、私は異世界に転生した。


 現在の私の名前はエマ・ホワイト。とある公爵令嬢の取り巻きBをやっている男爵令嬢だ。

 私のボスたる公爵令嬢の名前はマーガレット・エドワーズ。このフラノス国の王子であるルーク・フラノスと婚約している公爵家の令嬢だ。

 黒髪をロールさせている気が強そうな美人だ。


 私がマーガレットの取り巻きをすることになった経緯は学園に入学した初日に遡る。

 たまたまマーガレットの近くの席に座っていた私はマーガレットに話しかけられた。


「あなた、男爵家なの? ならちょうどいいですわ。(わたくし)の取り巻きになりなさい!」


 その一言で私は取り巻きになることが決定した。

 公爵家は貴族の中で一番高い爵位。

 一番下の男爵家の私とは天と地程の身分の差がある。

 吹けば飛んでいくような男爵家の私では当然断ることも出来なかった。

 もし断れば角が立つ。そうなるとこれからの学園生活、いやその先の人生まで影響を及ぼす可能性があったからだ。

 そうして私は現在、公爵令嬢の取り巻きBとして暮らしている。

 今日も取り巻きとして昼休みに食堂で開かれているお茶会に元気に顔を出しているところだ。


 のどかな日差しが差し込む中、丸いテーブルにマーガレットと、取り巻きの私達五人が座ってお茶会をしている。

 ここは食堂に繋がっているテラス席で、食堂の中を一望出来る。私たちは毎日ここを使っているので、もはや固定席になっていた。

 語られるのは大体マーガレットの自慢話か校内の噂話、つまりは誰と誰が好きだとか、そういうゴシップだ。

 今はマーガレットが婚約者のルーク王子から一輪のバラを貰った、という自慢を聞いているところだ。


「まぁ、ロマンチックですわ!」


「素敵!」


 取り巻きたちは口々に褒めそやす。


「本当に素敵ですねぇ」


 それに合わせて、私も何とも無難な肯定の言葉を連ねた。

 実はルーク王子が“別の人物”に一輪の薔薇どころか、大輪の薔薇の花束をあげていて、マーガレットに贈ったのはついでであることは周知の事実だったりするのだが、それをわざわざ口に出したりはしない。

 これも処世術だ。


(それにしても、退屈だ)


 このお茶会で私がすることと言えばマーガレットへの賞賛を並べるか、たまに振られる話に対して相槌を打つだけ。そこに私の自我は存在していない。というか出してはマズい。

 美味しいお茶とお菓子を食べれられるのはいいが、ただただ退屈だった。

 と、そんなことを考えていたら話を聞き逃していた。


「──マさん、エマさん。聞いていますの?」


「え? あ、はい! 聞いています!」


 私が慌てて返事をすると取り巻きの一人が補足してくれた。


「エマさんもクレア様の最近の殿下への擦り寄りは酷いと思いますよね?」


「あはは……」


 クレア様とはクレア・アワード公爵令嬢のことだ。

 マーガレットの婚約者であるはずのルーク王子が絶賛片思い中の相手だ。

 誰も近寄らせない孤高さと、男女問わず冷たい態度をとることから『氷』と喩えられている。

 婚約者を寝取られそうになっているマーガレットは当然クレアのことを目の敵にしていて、同じクラスということもあり、しばしば衝突している。

 肯定も否定もしない煮え切らない返事に、マーガレットは黒髪をくるくると弄りながら顔をしかめた。


「貴女最近──」


 ちょうどその時。

 食堂に入ってきた二人の人物を見て、マーガレットは固まった。


(あ、これは……)


 マーガレットの反応を見て私は誰だったのか予想がついた。こういう反応をするのは一人しかいない。

 クレア・アワード。

 さっきまで話していた人物が食堂へとやって来た。

 ──それもルーク王子と並んで。


「……ついてきなさい」


 マーガレットは立ち上がり、私たちにそう命令するとクレアの方へと歩いて行った。

 私は命令のままに立ち上がり、一番後ろの目立たないポジションを確保しながらマーガレットの後ろをついて行く。

 私たちもついていくのは、こういうとき大人数で圧をかける方が効果的だからだ、というのをマーガレット本人から聞いた。

 マーガレットはクレアの前に腕を組んで立ちふさがった。

 ルーク王子は浮気現場を見られた夫のように気まずそうな表情になった。


「クレアさん、(わたくし)何度も言っていますよね? ルーク王子に言い寄るのはやめてくださいと」


「いや、マーガレット。これは──」


「殿下は黙っていて下さい」


「……」


 マーガレットはすごい気迫を放っていた。

 王子といえどこの状況で発言権は無いらしい。

 ルーク王子は大人しく黙った。


「別に言い寄ってはいないのですが……」


 私は列の後ろからひょい、と顔を出した。


(うわぁ〜、やっぱり綺麗)


 サラサラと輝く金髪のミディアムボブは先端にかけてウェーブがかかっていて、少女のような愛らしい髪型だ。瞳は青く、光を反射しているとまるで宝石なのではないかと錯覚する。

 そして白く長い手足。胸だけは全く無いが、一六〇センチという女子にしては少し高い背なのでまるで彫刻のような完璧な美があった。

 優美。そんな言葉がぴったり似合う外見だ。


「それよりも、先日私の教科書が無くなっていたのですが、ご存じないかしら?」


「さぁ? 存じ上げませんわ。二度と王子に近づかないと約束していただけるなら、思い出すかもしれなくてよ?」


 マーガレットが意味有りげにニヤリと笑う。

 クレアの教科書を隠したのはマーガレットだ。

 クレアを敵視しているマーガレットはよくクレアの物を隠したり壊したりしている。


「別に構いません。新しい教科書を買ったので」


 肩をすくめて余裕そうな表情のクレアにマーガレットは悔しそうに唇を噛んだ。

 クレアはこうして毎回嫌がらせを軽くあしらうので、実質嫌がらせは失敗に終わっている。


「それでは私はこれから昼食をとるので」


 クレアはマーガレットの悔しそうな顔を見て笑顔でひらひら手を振ると歩いて行った。

 置き去りにされたルーク王子は「え、あの……」と呟いている。

 どうやらさり気なく振られたようだ。


「く〜っ! 席に戻りますわよ!」


 マーガレットも悔しそうにしていたが、元いたテーブル席へと帰る。そして椅子に座るとまたさっきのようにお話が始まった。

 マーガレットは目の端に少し涙を浮かべながら悔しそうに怒っている。


「ホントに何なんですの! クレアさんはいつも──」


 そこからはマーガレットの愚痴大会だ。

 昔からあんな感じだったとか、私のことは眼中に無いのだとか、そんな話が続く。

 マーガレットとクレアは幼馴染らしく、小さい頃から因縁があるらしい。

 取り巻きの女生徒は「そうですね」とか「本当に酷いと思います!」とか肯定の言葉でマーガレットのご機嫌を取る。私も「確かに〜」と適宜相槌を入れて会話に混ざっている感を出す。

 しばらくしてマーガレットは機嫌が治ったのか、パッと顔を上げた。


「そういえば、クレアさんは新しい教科書を手に入れた、と言っていましたわね」


「はい。そうですけど……」


「なら、それを八つ裂きにして机の上に置いてやりますわ! 仕返しですの!」


 マーガレットがそんなことを言い始めた。

 クレアとの口論に負けたマーガレットはクレアの教科書を引き裂いたり、持ち物を隠したりして仕返しを行うのだ。


 正直、我がボスながら何とも小悪党である。


「えっ」


「き、昨日もしたばかりですが……」


 取り巻きたちは固まった。

 そう、つい昨日にも教科書を隠したばかりなのだ。

 さすがに昨日の今日で折角手に入れた教科書をすぐに八つ裂きにするのは抵抗があるらしい。


「関係ありませんわ! 私がやると言ったらやるんですの! 誰がやってきてくれませんこと!?」


 自分でしないのかい。

 私は心の中でツッコミを入れた。


「え、えっと……」


「私は……」


 取り巻きたちはあまり行きたくないらしい。


「誰かやってくれる人はいませんの!?」


 マーガレットがそう言うと取り巻きたちは「みんなやりたくないよね?」と無言のやり取りを交した後、私をチラリと見た。


「……えっ!?」


 私は驚いて声をあげる。


「エマさん! やってくれませんか?」


「というか、あなた、こういう時あまり参加しないわよね」


「マーガレット様への忠誠心はありますの?」


 一丸となって私へ役目を押し付けようとしてきた。

 確かに私はこういう時、席を外したりしてバレないように役目から逃げていたけど……!

 完全に自業自得なのだが、何とかして躱さなくては!と思考を巡らせた時──


「なら決まりですわね。ちょうどいいわ。あなたがクレアさんの教科書を八つ裂きにしてきなさい。それで“お友達”かどうか確かめますわ」


 まさかのボス直々の特攻命令である。

 下っ端である私に許された言葉は「イエス」か「はい」のみ。


「イ、イエス……」


 命令を断った時のリスクと、教科書を八つ裂きにしたことがバレない確率を私は天秤にかけ、私は特攻命令を選んだのだった。





 時刻は放課後。


 教室からは生徒がいなくなり、廊下はしん、と静まり返っている。

 私はマーガレットから指示された通りに武器ハサミを握りしめ、教室の扉を開いた。

 教室の中には誰もいない。

 ここはクレアのクラスだ。ちなみに、マーガレットと私、そして取り巻きの女子生徒たちも同じクラスだ。


 私は忍び足でクレアの机まで行く。

 と言っても実は私の隣の席なので数歩なのだが。

 机の収納スペースには件の新しい教科書が入っていた。

 教科書を手に取る。


(流石に新品の教科書を八つ裂きにするのはかわいそうだから……)


 私はクレアの教科書を元の場所に戻すと、自分の机から教科書を取り出した。


「はぁ……。ごめんなさい!」


 そしてクレアの机の上でジョキジョキと切り裂いていく。

 これで教科書を切り裂いたアリバイになるし、机の上に教科書の紙が撒かれただけで実質害はそれだけなはず……!


 これが私の考案した解決策だった。

 教科書は結構切り裂くのが難しく、ビリビリに切り裂くまでに結構時間をかけてしまった。

 完璧にビリビリになった教科書の紙の山を見て、私はふぅ、と息を吐く。


「これでひと仕事終わり……」


 額の汗を拭い、教室から出ようとしたその時──


「あー、忘れ物忘れ物」


 ルーク王子が教室に入ってきた。


「っ!?」


 私の心臓は飛び跳ねた。

 ルーク王子はすぐに私のことを見つけ、そして手に持つハサミと、そばのクレアの机にばら撒かれた紙の山に気づいた。


「何をやっている!」


 ルーク王子は怒声をあげ、私へ近寄ってきた。


(あっ……終わった……)


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