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4章 裏切り(2)

 異変が起こったのは、13時を少し過ぎた時だった。突如、Galaxiaから送られてきていたデータ送信が全て途絶えたのである。

「予想より早く仕掛けてきたな」

ナーナリューズは言い、受信モードを緊急用に切り替えるよう指示した。消えていたGalaxiaの位置発信が再び表示され、速度等の基本情報が入り始める。

「防衛局にも情報を回せ。イレニス、Galaxiaからの発信が途絶えた。そちらの状況は?」

「Galaxiaまでの距離はおよそ28時間。距離がありすぎて、Galaxiaの周囲がどうなっているかは分からない」

イレニスの返答と同時に、Galaxiaの位置を表示しているメインスクリーンに新たな点滅表示が加わった。全部で8つ。防衛局が管理する艦である。

 Galaxiaが途中で急加速をかけた影響で、予定よりかなり艦隊とGalaxiaの間が空いてしまっている。

 固く握りしめていた拳を水嶺が更にきつく握りしめる。そんな水嶺の様子をロスハンは、じっと見つめていた。

 彼女は知らない。イレニスの艦隊は、決してGalaxiaの味方とは言えないことを。結局、水嶺は、ロスハンが用意した椅子を使うことなく、ずっと立ち続けている。何か声をかけたい気もしたが、何をどう言えばいいのか分からない。今は下手に刺激しない方が「安全」だろう。

「Galaxiaは、かなり強く減速を始めているようだが、操船は?」

イレニスが聞いてくる。ナーナリューズが答えた。

「現在操船しているのはGalaxia自身だ。まだシステムDに切り替わってはいない。システムDに切り替えたところで操船はそう簡単ではないから、とりあえず基地にたどりつくまではGalaxiaに操船させるだろう」

「つまり、近づき過ぎるとGalaxiaに気付かれる、ということだな」

「恐らく」

「Galaxiaは敵に知らせると思うか」

「敵の考え次第だな。知らせる可能性が高いと思うが・・・水嶺、どう思う?」

ナーナリューズが不意に水嶺に話を振った。じっとメインスクリーンを見つめていた水嶺がはっと我に返る。その顔は、蝋のように真っ白だった。

「敵に教えるよう指示されていれば、知らせるでしょうね。どの道Galaxiaが知らせなかったとしても、視界表示に艦影が映れば、敵は追っ手がいることにすぐ気がつくでしょう」

「そこに地球人がいるのか」

イレニスが言う。ナーナリューズが教えた。

「ああ、水嶺がいる。大丈夫、彼女は事情を分かった上でここにいる」

「しかし・・・」

「彼女のことは、君も知っているはずだ。問題ない」

水嶺のことは、汎識者なら誰でも知っている。火星の首府コードリアルに足を踏み入れることを許された唯一の地球人であり、ファリスに対しても、一般的な火星人とほぼ同等のアクセス権を持つ。

「いいだろう。ならば、地球人の彼女にもう一つ聞きたい。Galaxiaはいきなり連絡を絶ったようだが、『大地の守護者』は一体どんな手を使ったんだ?Galaxiaに近づいた機体はひとつもなかったようだが」

「Galaxiaが抵抗もせず敵に従うことがあるとしたら、それはただ一つ、乗員が危険にさらされている時だけよ。わかばを盾に脅されたら、従う他はない」

水嶺は凍った声で言った。

「しかし、船に近づきもせず、どうやって?」

「初めから船内に潜んでいたとしたら?」

「そんな馬鹿な」

思わずロスハンが言った。

「いくらなんでもそれはないだろう。Galaxiaは一度も地球に近づいていない。ずっと火星にいて、後は火星上空の宇宙ステーションに寄っただけだ。火星にいる地球人スタッフは全員揃っているし、ステーションに来た報道陣は全員きちんと地球に帰っている。不可能だよ。それに、Galaxiaは船内を常に『見て』いる。それをかいくぐって乗員を脅かすなんて・・・」

「そうね、一人では不可能だわ。でも、見て」

水嶺は、Galaxiaが送ってきていた船内環境データを示した。

「船内の二酸化炭素濃度の低下が予想より遅く、二酸化炭素還元ユニットの稼働率も想定よりずっと高い値を示していた。二酸化炭素濃度は、正常値に戻ってはいるけれど、ユニットの稼働率はまだ高いまま。出発前に大勢が出入りして船内環境が大きく悪化したのが原因だろうと様子見になっていたけれど、今思えば、この値は、『もう一人人間がいる』と仮定するとずっと納得のいくものになる」

水嶺は、ファリスに指示をして、仮定を加えた場合の予測値を表示させた。見事にこれまでのデータと一致している。思いもよらない話に、皆、声もない。水嶺は、更に言った。

「スタッフの中に協力者がいるのだと思う。最近スタッフで火星を離れたメンバーはいないから、外から誰かに持ち込ませたか、配送させたか・・・。荷物のサイズは中程度以上。例えば、やや大きめのボストンバッグだとか」

「小さすぎるように思うが」

とナーナリューズ。

「人間は、案外コンパクトなものよ。身体の柔らかい人間なら、かなり小さな箱の中にも入ることができる。相当辛いでしょうけれど。その荷物は、1G環境でそうね、40キロ以上・・・いいえ、念のため30キロ以上でチェックした方がいいわね。後は、Galaxiaの積み荷ね」

 地球と火星の間を行き来するシャトルに搭載される全ての荷は、必ず検査を受けることになっている。ただ、これはあくまで危険物を確認するためのもので、指定された条件に合致するもの以外には反応しない。全て機械が自動的に行うので、強いて荷物の中身が人間であるかどうかをチェックするよう指示が出されていなければ、簡単に通過できてしまう。

「ファリス、該当するデータがないか調べてくれ」

ナーナリューズがファリスに指示を出す。ある種データマニアとでも言うべき性質を持つ火星人たちは、基本的にどんなデータでも「捨てる」ということをしない。

「初めから、君を加えておくべきだったかもしれないな」

イレニスが言った。

「さあ、それはどうかしら」

水嶺は、相変わらず温度のない声で言った。

「もしそうなら、私は断固として阻止しようとしたでしょうね」

水嶺が火星人の信頼を得ている理由の一つは、ここにある。ロスハンは思った。彼女は、必ず自分の方針を明確に提示し、その通りに行動する。水嶺は、きっぱりと言った。

「勘違いしないで。ナーナリューズと約束したから、計画のことを他の地球人には明かさない。でも、だからといって、この無謀な計画に賛成しているわけではないわ」

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