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3章 潜むもの(4)

 絶対に納得が行かない。Galaxiaは、少々苛々しながら再度視界にまつわるデータをかき集めて解析していた。

 視界に微細な「異常」があると訴えたのに、火星の管制室の返答は、「そのままで問題なし」だった。そんな馬鹿な話があるはずがない。Galaxiaが異常を感じた以上、機器に問題があるか、何かが起こっているか、さもなくば、Galaxia自身に問題があるかのいずれかである。いずれにせよ「問題がない」どころの話ではない。

 なのに、あえて「問題なし」と答えたということは。

 Galaxiaは、一つの推論にたどり着いた。火星が問題ないというからには、機器やGalaxiaに異常はない、とみなして良いだろう。機器類や自分に異常がないとすれば、視界に感じられる微細な「異常」は実際にそこに何かがあることを示している。それが何かは分からないが、火星の管制室はそのことを分かっていて、こちらに隠しているに違いない。

 正体不明の積み荷に、後をつけてくる正体不明の「何か」の存在。管制室は----否、ナーナリューズは、一体何を企んでいるのだろう?

 火星人は、不必要な行動は取らない。必要があって、彼は、Galaxiaや乗員に何かを隠している。Galaxiaや乗員に知られてはまずい何か----それが何であるのか分からないところが、どうにも不気味である。

 Galaxiaが鬱々と悩んでいると、わかばがばたばたと駆け込んできた。

「いいこと思いついた!」

ひどくうれしそうにそんなことを言う。何故彼女は、不必要に大仰な動作をして無駄にエネルギーを使うのだろう?Galaxiaは、落ち着いた調子で答えた。

「どうしたんです?」

「あのね、お化けを見つける方法を思いついた!」

「はい?」

一瞬Galaxiaは言われた意味が分からなかった。わかばは少々苛立ったらしい。

「だ~か~ら、昨日、何かついて来ている気がするって言ってたじゃない?いるような、いないような、変な感じだって」

「ああ、視界異常の話ですか。ええ、言いました。火星は問題なし、と言っていますが」

Galaxiaが説明しようとするが、わかばは聞いてなどいない。

「あのね、急ブレーキかけたらどうかな?」

「急ブレーキ、ですか?」

「前に、フィクション動画(フィクタ)で見たんだ。ギャング団が来て、それで、フィッポス隊長が・・・」

わかばが夢中になってフィクタで見たとかいうドラマの話をする。が、主語がはっきりしない上、話している途中であちこち話が飛ぶわ、説明もなく擬音語と擬態語だけで語るわで、一体何がどうなっているのかよく分からない。ピーーッとなってガーーーッだ、と説明されても、見たことのないGalaxiaにはちんぷんかんぷんである。とにかく、ある種のヒーローものらしい、ということだけは分かった。

 とはいえ。わかばの持ってきたアイディア自体は悪くない。当面、視界の異常は起こっていないが、またいつ起こらないとも限らない。何もないのか、それとも本当は何かが「いる」のか、可能ならば、はっきりさせておきたい。これまで、Galaxiaは安定的に加速をかけ続けて来た。もし後ろに何かがいて、それがこちらのスピードに合わせて「つけて」いるのなら、急に速度を変えれば、尻尾を見せるかもしれない。

「分かりました。一寸やってみましょう。基本的に大丈夫なはずですが、万一ということもあります。席についてベルトを締めて下さい」

「はいはーい」

わかばは、進んで座席によじ登った。前回はあんなに嫌がったのに、今度はやけに乗り気である。

「急減速10秒前、9、8、7・・・」

カウントダウンをし、0を刻んだところで、一気に減速を行う。ほんのわずかに船が揺れ、そしてまた静かになった。あまりにも揺れが小さかったので、わかばはきょとんとしている。

「え?え?もう終わり?本当に遅くした?」

「ええ、終わりました。やりましたよ、わかば。『お化け』の尻尾をつかみました」

「でも、全然揺れなかったよ?」

「ジャイロシステムがありますから。それに、予め分かって減速していますからね、この程度の変動なら十分対応できます」

「そうなんだ」

何故かは分からないが、期待外れだったらしい。わかばはつまらなさそうな顔をしながらベルトを外し、座席から降りた。

「それで、見つけたって?」

「ええ。一つかと思いましたが、複数いるようです。普通の系内宇宙船ではありませんね」

「やったね、お化けを見つけちゃった」

状況が分かっていないわかばは、どこまでも能天気である。

 何かがこちらの後をつけていることは、間違いない。急減速をした一瞬、見かけないタイプの船を3機、捉えることができた。それらは、すぐにまた視界の外へと消えて行き、少なくともGalaxiaが捉えられる範囲には、近づいて来ない。こちらが彼らの存在に気付いたことに、向こうも気付いたかもしれない。

 一体何者なのか、それが分からない。ひどく奇妙な形状をしていた。しかも、特殊な素材で覆ってあるらしくほとんどの電磁波を吸収してしまっているようである。光学データ上は、小さな物体のように見えるが、空間の歪みを調べる空間スキャナのデータは、それよりはるかに大きく重い物体の存在を示している。

 普通の船ではない----Galaxiaは、ぞっとした。この宙域を飛行できるのは、火星の宇宙船か、後は、「大地の守護者」の戦闘機である。火星の宇宙船であれば、危害を加えてくる可能性はほぼないだろう。しかし、もし、あれが「大地の守護者」の戦闘機だったなら・・・?

 「大地の守護者」たちは、火星や地球連合府に対して非常に敵対的である。その彼らが自分をつけているとすれば、良い目的であるはずがない。

 それにしても、火星の管制室は何を考えているのだろう?管制室は、Galaxiaの後をつける船隊のことを知っていて、何故かGalaxiaとその乗員からその存在を隠そうとしている。火星の船であるなら、別段隠す必要もないはずである。「大地の守護者」の戦闘機であるなら、なおさら、こちらに警告を出してしかるべきである。

 わかばはといえば、Galaxiaの心配をよそに、Galaxiaが復元した相手船の映像を見てすごいすごいと喜んでいる。この事態をわかばが理解するのは到底無理だろう。ましてや、対策を練るなど、天地がひっくり返っても不可能に違いない。

 自分が何とかする他はない----Galaxiaは、追っ手を振り切るべく、急加速をかけた。

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