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95 テンジ1
テンジという妖怪がおります。
八丈島に伝承があり、かつて島には防災用の山小屋があったのですが、夜になるとテンジが現れて山番の耳や足をつねるなどの悪戯をしました。
これに山番が怒鳴りつけると、テンジは「ヒャッ、ヒャッ」と笑いながら逃げていったといいます。
ある晩。
ぼたもちの差し入れですと、美しい娘が重箱を持って山小屋を訪れました。
――テンジにちがいないぞ!
山番が重箱を受け取るふりをして、すばやく娘の手をつかむと、その手はやはり竹でした。
山番がナタで娘の手を切り落とすと、娘はテンジに戻って山へと逃げていきました。
山番が残された重箱のふたを開けると、思ったとおり中身は牛の糞でした。
「ふん!」
・ふん=糞
・ナタ=斧、包丁、鎌、刀剣以外の大型刃物を総称




