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937 妖鶏
妖鶏という妖怪がおります。
これは明治から大正にかけての作家、巖谷小波が編さんした『大語園』に次のような話があります。
その昔。
某農家の娘は夜になると正気を失うようになり、心配した親は悪霊を退散させられるという僧を家に招きました。
僧が娘に問います。
「妖鬼はどんな姿なのだ?」
「黒い服を着て、赤い冠をかぶり、褐色の革沓をはいた男で、朝になって帰るときは飛ぶように速いです」
それを聞いた僧は、庭先にいた雄鶏を父親にシメさせました。
その夜。
血まみれになった男が娘の枕元に立ち、「わたしは悲しい」と恨むように言って去っていきました。
その男は翌晩も現れました。
娘が問います。
「まだ何のヨウケイ?」
・ヨウケイ=用かい=妖鶏
・巖谷小波(いわやさざなみ・1870~1933・明治から大正にかけての作家、児童文学者)
・『大語園』(東洋の説話一万集録企画の事典)




