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905 通り悪魔1
通り悪魔は怪異の一種で、これは人に憑依して心を乱すとされ、江戸時代後期、山崎美成の随筆『世事百談』に次のような話があります。
その昔。
川井という武士が庭を眺めていたところ、茂みからいきなり炎が燃え上がりました。
気を落ちつけて見ると、塀の上から白い襦袢姿の男が髪を振り乱し、槍を振りかざして現れました。
さらに気を静めたところ、男は消えました。
その直後。
隣家の庭で騒動が起き、主人が乱心したとのことでした。
「それは悪魔のせいだ。自分は気を静めたので無事だったが、あの悪魔が隣に移ったので、主人は乱心して騒いだのであろう」
川井は家の者にそう話したといいます。
この通り悪魔。
そのトオリ悪魔でした。
・そのトオリ悪魔=そのとおり悪魔=その通り悪魔
・襦袢=和服用の下着
・山崎美成(やまざきよししげ・1796~1856・随筆家)
・『世事百談』(せじひゃくだん・随筆)