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893 反魂の秘術
反魂の秘術は怪異の一種で、鎌倉時代後期、作者不詳の仏教説話集『撰集抄』に次のような話があります。
「私、西行が高野山に住んでいた頃のことだ。
鬼が人骨を取り集めて人を造るように、人間を造ってみようという気になった。
信頼できる人から造り方を聞いていたので、そのとおりに野原で拾った骨で造った。
だが、できたものは人の姿に似てはいても見た目が悪く、まるで人間らしくなかった。
声は出るものの、むやみに出すだけだから吹き損じの笛と同じだった。
大方がそんなふうでまったく予想外であった。
結局、私はそいつを高野の奥、人も通わないところまで連れていって捨てた」
この反魂の秘術。
骨折り損のくたびれ儲けになったのでした。
・骨折り損のくたびれ儲け=疲れるだけで無駄なことをする
・西行(さいぎょう・1118~1190・平安時代末期から鎌倉時代初期にかけての日本の武士であり、僧侶、歌人)
・『撰集抄』(作者不詳・仏教説話集)