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892 睨む板
睨む板は古賀侗庵の『今斉諧』に次のような話があります。
その昔。
下総国の葛西下岩村に住む某男は戸田川の堤防を歩いていて、一枚の美しい板が川面を流れているのを見つけた。
男は取って持ち帰ろうとしたが、板は岸から離れて流れていて手が届きそうになかった。
幸いそばには竹林があったので、男は竹を切り出し竿にして、それで板を引き寄せようと考えた。
急いで斧で竹を切ったが、そのとき板が流れ去るのを恐れて川面の板を見た。
すると突然、板が両眼をカッと見開き、怒りをみなぎらせたように男を睨んできた。
このとき男は目に痛みを感じ、その場を急いで逃げ去ったという。
この睨む板。
男は睨まれただけでイタカッタのでした。
・イタカッタ=板勝った=痛かった
・古賀侗庵(こがどうあん・1788~1847・朱子学者)
・『今斉諧』(いまさいかい・随筆)