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89 野守虫
野守虫という妖虫がおります。
江戸時代中期、建部綾足の随筆『折々草』に次のような話があります。
その昔。
信州松代の若者が友人と山に入ったところ、全長1丈ほどの蛇のようなものが足に巻きついてきて、見ればそれには足が六本と、そのそれぞれに指が六本ついていました。
友人が止めるのもきかず、若者はそれを鎌で切り裂き、いきがって死体を持って山を降りました。
数日後。
死体が異臭を放ち始め、若者はその臭いで頭痛となって寝込むことになってしまいました。
医者に診てもらったところ、その虫は人にとり憑く虫で野守というものでした。
その後。
若者は何度もひどい頭痛に悩まされ、そのたびに虫の息になったといいます。
・虫の息=野守虫
・虫の息=弱り果てて今にも絶えそうな呼
・建部綾足(たけべあやたり・1719~1774・俳人、小説家)
・『折々草』(おりおりぐさ・紀行)




